永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(775)

2010年06月24日 | Weblog
2010.6/24  775回

四十五帖 【橋姫(はしひめ)の巻】 その(36)

 このような折の姫君たちのご様子を見るにつけても、八の宮は、

「人にだにいかで知らせじ、と、はぐくみ過ごせど、今日明日とも知らぬ身の、残り少なさに、さすがに、行く末遠き人は、落ちあぶれてさすらへむ事、これのみこそ、げに世を離れむ際のほだしなりけれ」
――世の中の人には決してこの姫君達のことを知らせまいと、奥深く大切に育ててきましたので、(ご覧のとおり世間知らずなのでございます)それでも私が生きている間はなんとかなりましょうが、今日明日とも知らぬ身の上のいよいよとなりましたならば、
将来ある姫君達は落ちぶれて流浪するのではないかと、このことだけがなる程世に言う往生の妨げなのですね――

 とお心の内をお話になります。薫はお気の毒にお思いになって、

「わざとの御後見だち、はかばかしき筋にははべらずとも、疎々しからず思し召されむとなむ思う給ふる。しばしもながらへ侍らむ命の程は、一言も、かくうち出で聞こえさせてむさまを、違へ侍るまじくなむ」
――(私として)特別なお世話役めいた、きちんとした関係(つまり夫)でなくても、他人のようではない者とお思い頂きたいと存じます。しばらくでも生きています限りは、一言でも、こう申し上げましたことを違えまいと存じます――

 と、申されますと、八の宮は「なんと、安心なことですこと」とお言葉にされます。

 さて、暁の時刻になって八の宮が勤行をお始めになるころに、薫はあの老女の弁の君をお呼び出しになります。

「歳も六十に少し足らぬ程なれど、みやびかに故あるけはひして、物など聞こゆ。故権大納言の君の、世とともに物を思ひつつ、病づきはかなくなり給ひにし有様を聞こえ出でて、泣くことかぎりなし」
――(弁の君は)まだ六十歳にはなっていませんが、優雅で由緒ありげな感じでお話申し上げます。故権大納言(柏木)が生涯煩悶なさって、ついには病が重くなり、お亡くなりになった御様子を申し上げながら、あのころを思い出したのでしょうか、泣くこと限りがありません――

ではまた。


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