永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(992)

2011年08月23日 | Weblog
2011. 8/23      992

四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(53)

「中納言の君はいとよくおしはかりきこえ給へば、疎からむあたりには、見ぐるしくくだくだしかりぬべき心しらひのさまも、あなづるとはなけれど、何かは、ことごとしくしたて顔ならむも、なかなか覚えなく見とがむる人やあらむ、と、おぼすなり」
――中納言の君(薫)は、中の君のそのお心内を、よくお察しになっていらっしゃるので、疎遠な間柄のところへは、有り合わせの物をごたごたと寄せ集めて贈るのは、心尽しの物でも見ぐるしいけれども、中の君を見下げるわけではなく、何の、大袈裟にわざわざ調えた風にするのも、却っておかしなことと見咎める人もあるだろうから、とお思い立ちになっての贈り物だったのでした――

「今ぞまた例の、めやすきさまなるものどもなどせさせ給ひて、御小袿織らせ、綾の料たまはせなどし給ひける」
――(薫は)この度はまた改めて美しい衣裳を調えさせて、小袿を織らせ、また綾の衣地なども添えて、いつものようにさりげなく贈ったりなさる――

「この君しもぞ、宮にもおとりきこえ給はず、さまことにかしづきたてられて、かたはなるまで心おごりもし、世を思ひすまして、あてなる心ばへはこよなけれど、故親王の御山住みを見そめ給ひしよりぞ、さびしき所のあはれさは様ことなりけり、と、心ぐるしく思されて、なべての世をも思ひめぐらし、深き情けをもならひ給ひにける。いとほしの人ならはしやとぞ」
――この君(薫)にしても、匂宮に劣り申さぬ位格別大切にご養育され、飽くまで気位が高く、世の中を悟りすまして高貴な御気質はこの上もありませんが、亡き八の宮の御山住みをご覧になってからは、世間から捨てられたお暮しの哀れさは格別であったと、お気の毒にお思いになって、広く世間のことにもお心をお配りになり、深い同情を持つようにもなられたのでした。まことに得難い感化を八の宮から受けられたわけです。(別訳:薫にとっては気の毒な八の宮の教化力だと言えるでしょうか)

「かくて、なほ、いかで後やすくおとなしき人にてやみなむ、と思ふにも従はず、心にかかりて苦しければ、御文などを、ありしよりはこまやかにて、ともすれば、しのびあまりたるけしき見せつつきこえ給ふを、女君、いとわびしきこと添ひにたる身、とおぼし歎かる」
――(薫は)このようにして、やはり、何とかして中の君のための後見人として、年長者らしく過ごそうとお思いになるのですが、ままならぬのは人の心、中の君への想いが余る時には、御文なども前々よりも心を込めて、ともすれば、切ない思いを仄めかして書いて差し上げますので、中の君は、いよいよ辛いことが重なって来るわが身よ、とお嘆きになるのでした――

「ひとへに知らぬ人ならば、あなものぐるほし、と、はしたなめさし放たむにもやすかるべきを、昔よりさま異なるたのもし人にならひ来て、今更に中あしくならむも、なかなか人目あやしかるべし」
――(中の君は)薫を全く知らない人ならば、何というはしたない事を、と、たしなめてでも突き放すのは容易いことですが、昔から薫とは格別に頼り先として親しんできて、今更仲違いするようなことでは、却って人に怪しまれることになろうし――

◆心しらひのさま=心を持ちいてるさま、

◆あなづる=侮づる=あなどる、軽蔑する。

◆はしたなめさし放たむ=はしたなめ・さし・放たむ=気づまりな思いをさせて振り放そう

では8/25に。

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