永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(905)

2011年03月05日 | Weblog
2011.3/5  905

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(82)
 
 薫はお心のなかで、

「いかなる契りにて、かぎりなく思ひきこえながら、つらき事多くて、別れ奉るべきにか、少し憂き様をだに見せ給はばなむ、思ひさます節にもせむ」
――どうした宿縁で、大君をこの上なくお慕い申しながら、このように辛いことばかり多く、結局は死という別れ方をいたさねばならないのか。せめて大君が少し疵(欠点など)あるご様子でもあるならば、この恋も諦めることができようものを――

 と、見守っていらっしゃると、大君のご様子は、

「いよいよあはれげにあたらしく、をかしき御あしさまのみ見ゆ。腕などもいと細うなりて、影のやうに弱げなるものから、色あひも変わらず、白ううつくしげになよなよとして、白き御衣どものなよびかなるに、」
――いっそう可憐に惜しい感じで、美しい点ばかりが伺われます。腕はいっそう痩せ細って影のようですが、色艶はすき透るほど白く、いかにも清らかでなよなよとして、白いお召物のやわらかなのを重ねていらっしゃる――

 薫は、

「衾を押しやりて、中に身もなき雛を臥せたらむ心地して、御髪はいとこちたうもあらぬ程にうち遣られたる、枕より落ちたるきはの、つやつやとめでたうをかしげなるも、いかになり給ひなむとするぞ、と、あるべきものにもあらざめり、と見るが、惜しき事たぐひなし」
――大君の寝具を脇に押しやってごらんになりますと、まるで中身のない衣裳ばかりが目立つ小さな雛人形のように臥せっておいでになります。お髪はそう多すぎもしない程度に枕からうちこぼれていて、その先は艶を含んでいて何ともいえないお美しさです。これほどの方がどうなってしまわれるのか、と、生きられそうにもないように思えて、心の底から惜しくてなりません――

「こころ久しく悩みて、ひきもつくろはぬけはひの、心解けずはづかしげに、かぎりなうもてなしさまよふ人にも多う勝りて、こまかに見るままに、魂もしづまらむかたなし」
――長らく患って少しも身仕舞もなさらなかったそのままのお顔は、化粧に憂き身をやつして、恥ずかしいほど取澄ましている人々よりもずっとお美しくて、つくづくとご覧になるほどに、薫はわれとわが魂があくがれ出そうな心地です――

◆あたらしく=惜しく=惜しい。残念。もったいない。

◆衾(ふすま)=夜寝る時上に掛ける夜具。掛け布団。当時はまだ綿はない。

◆こちたうも=言痛し・事痛し=うるさい。わずらわしい。

では3/7に。


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