永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(851)

2010年11月13日 | Weblog
2010.11/13  851

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(28)

 薫はつづけて、

「宮などの、はづかしげなく聞え給ふめるを、同じくは心高く、と思ふ方ぞ、ことにものし給ふらむ、と心得はてつれば、いとことわりはづかしくて、また参りて人々に見え奉らむ事もねたくなむ。よし、かくをこがましき身の上、また人にだに漏らし給ふな」
――匂宮が恥ずかしげも無く姫君方へお便りなさるらしいのを、同じ事なら理想を高く匂宮の方へとのお気持らしいと、はっきりと分かりましたよ。そうお考えになるのも尤もで、まったく恥ずかしくて、私がまたこちらに参上して、みなさんにお目にかかるのも癪でね。とにかく、こんな馬鹿げた私の身の上を、せめて誰にも漏らさないでくれ――

 と、恨みおかれて、いつもより急いでお発ちになりました。侍女たちが、「お二人ともにお気の毒なこと」と、囁き合っています。

 大君も、

「いかにしつることぞ、もしおろかなる心ものし給はば、と胸つぶれて心ぐるしければ、すべて、うちあはぬ人々のさかしら、にくし、とおぼす」
――いったいどうしたことでしょう。もしも薫に冷淡なお心が生じたならば、中の君がお可哀そうと、胸もつぶれるほどの御心労で、すべては自分と考えの違う侍女たちの出過ぎた計らいを憎いとお思いになります――

「さまざまに思ひ給ふに、御文あり。例よりはうれしと覚え給ふも、かつはあやし」
――大君がいろいろ思い悩んでおられるところに、薫から御文がありました。いつもよりも嬉しいとお思いになるなんて、随分矛盾していますこと――

 薫のお手紙には、秋の気配も知らぬげな青い楓の、片枝だけがたいそう色濃く紅葉しているのを添えて、

「(歌)おなじ枝をわきてそめける山姫にいづれかふかき色ととはばや」
――同じ枝を特に分けて染めた山姫に、青と紅とどちらが深い色か聞いてみたいものです(同じ姉妹のうちの、どちらを深く私が思い染めているかおわかりでしょう)――

 と、それほど恨みがましい言葉もなく、おっしゃりたい事も略して、包み文にしてあるのをご覧になって、大君は昨夜のことは何気なく紛らわしてしまおうとのお心かと、
胸がしきりに騒ぐのでした。
侍女が、「早くお返事を」とうるさく申し上げます。

「ゆづらむも、うたて覚えて、さすがに書きにくく思ひみだれ給ふ」
――(お返事を中の君に)お譲りするのも、わざとらしくて気が染まず、そうかと言って御自分でもさすがに書きにくく、思い乱れていらっしゃる――

「(返歌)山姫のそむるこころはわかねどもうつろふ方やふかきなるらむ」
――山姫が枝を染める気持は分かりませんが、多分紅に色移った方が深いのでしょう(山が、緑と紅に染め分けた心は分かりませんが、あなたのお心は中の君に深くお寄りのことと存じます)――

◆心ゆるいすべく=心弛びすべく=気をゆるめては。「ゆるい」は「ゆるび」の音便。

では11/15に。


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