永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1002)

2011年09月25日 | Weblog
011. 9/25      1002

四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(63)

 薫の悲しみの御様子に、弁の尼もいっそう堪え切れずに泣きながら、

「人の上にて、あいなく物をおぼすめりし頃の空ぞかし、と思ひ給へ出づるに、いつとはべらぬなかにも、秋の風は身に沁みてつらく覚えはべりて、げにかの歎かせ給ふめりしもしるき世の中の御ありさまを、ほのかに承はるも、さまざまになむ」
――この空は、大君が中の君のことで、つまらなく物思いをしておられた頃と同じ空だと思い出しますにつけ、いつとは限りませんが、秋の風は身に沁みて辛く思っておりましたその中でも、なるほど大君がお嘆きになったとおり、中の君と匂宮の間柄が面白くないことも、あれやこれやと承りましてね――

 と申し上げますと、薫は、

「とある事もかかる事も、ながらふれば直るやうもあるを、あぢきなく思ししみけむこそ、わがあやまちのやうになほ悲しけれ。この頃の御ありさまは、何か、それこそ世の常なれ。されどうしろめたげには見えきこえざめり。言ひても言ひても、むなしき空にのぼりぬる煙のみこそ、誰ものがれぬことながら、おくれ先だつ程は、なほいといふかひなかりけり」
――どういう事にせよ、生き長らえるうちには、良くなる事もあるでしょうに、大君が御不快に思い込まれたまま亡くなられたことは、中の君を匂宮に仲立した私の過失のような気がして、辛く悲しい。匂宮の御態度は(六の君と結婚したこと)、何の、世間普通の事ですよ。決して中の君が不安になるようにはお見せにならないようです。何を言っても無常は誰も逃れ得ぬことですが、死別の際はまことに取り返しようもなく悲しくてならない――

 と、おっしゃって、またお泣きになります。

 薫は、阿闇梨をお呼びになって、亡き大君の一周忌の供養の経や仏のことなどをお言いつけになって、

「さてここに時々ものするにつけても、かひなきことの安からず覚ゆるがいと益なきを、この寝殿こぼちて、かの山寺のかたはらに堂建てむ、となむ思ふを、同じくは疾くはじめてむ」
――さて、ここへ時折り参る度ごとに、思っても甲斐のない悲しみにくよくよするのは、無益のことですから、いっそこの寝殿を取り壊して、阿闇梨の山寺の傍に御堂を建てようと思うのだが、同じ事なら早く取りかかろう――

 とおっしゃって、堂を幾つ、廊、僧坊などと、必要なことを数々書きだしておおせつけられますのを、阿闇梨は「まことに尊いこと」と功徳のほどを申し上げます。

では9/27に。


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