永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(402)

2009年05月30日 | Weblog
9.5/30   402回

三十四帖【若菜上(わかな上)の巻】 その(11)

 このことがあって、それから乳母が朱雀院の御前に参上して奏しますには、
「しかじかなむ、なにがしの朝臣にほのめかしはべしかば、かの院には必ずうけひき申させ給ひてむ、年頃の御本意かなひて思しぬべき事なるを、こなたの御許しまことにありぬべくは伝へ聞こえむ、たなむ申し侍りしを、いかなるべき事にか侍らむ」
――しかじかの御事(姫宮の源氏への御降嫁)を、兄に仄めかしましたところ、きっと源氏の大臣はご承知になるでしょう。それは年来のご希望が叶うことでいらっしゃるので、院のお許しがありますならば、御伝え申しましょうと、こう申しましたが、如何いたしましょう――

乳母はさらに、

「御後見望み給ふ人々は、あまたものし給ふめり。よく思し定めてこそよく侍らめ。限りなき人と聞こゆれど、今の世のやうとては、皆ほがらかに、あるべかしくて、世の中を御心と過し給ひつべきも、(……)取り立てたる御後見ものし給はざらむは、名細きわざになむ侍るべき」
――姫宮のお世話を望まれる方々は他にも大勢いらっしゃいましょう。よくよくお見定めいただきとうございます。いくら高貴な方でも、今どきはご夫婦の中なども、それぞれがわだかまりなく楽しく過ごしておいでになる向きも多いようでございますが、(姫宮はまだまだ頼りなげでいらっしゃいますし、側に仕える者たちにも限界がありましょう)しっかりしたお世話役がいらっしゃらないのは、まことに心細うございます――

 と、申し上げます。朱雀院もそのことについてはお悩みになっておられ、

「御子達の世づきたる有様は、うたてあはあはしきやうにもあり、また高き際といへども、女は男に見ゆるにつけてこそ、悔しげなる事も、めざましき思いも自ずからうち交るわざなめれと、(……)今の世には、好き好きしく乱りがはしき事も類に触れて聞こゆめりかし」
――皇女たちが夫を持った様子は厭なもので、何となく軽々しいように世の人からも見られよう。そうかといって尊い身分といっても、女は結局男に連れ添うことで、口惜しい事も腹立たしいことも様々に味わうものであるし、(かと言って、頼りの親にも先立たれ、一人身で世を送っていくのもどうかと思われる。これが昔なら、人の心も穏やかで、世間で許さぬ恋などは出来ないものと定めていたが)今どきは、浮気で濫りがましいことも何かのついでには聞こえてくるようだしね――

ではまた。



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