蜻蛉日記 下巻 上村悦子著より 2017.8.24
【解説】
この項は道綱が八橋の女に求婚し、彼とその女との贈答歌が記されている。前述の大和だつ女の場合にも考えられたと同様にこの項の道綱の歌も作者が応援して添削したり代詠なども行われていたと考えられる。
(中略)
道綱は八橋の女へ刻苦勉励して求婚歌を送り続け、この求婚に対して真剣であり、相手に対して誠意を有してしることを示そうと努力している。(中略)当事者二人とも相手の容貌・風姿や人柄、性格、声などもまったく知らない。
(中略)
当人が歌を贈答しあっている間に女性の親や後見者は求婚者の身元を十分調べて、これなら大丈夫と見極めて結婚ということになる。
(中略)
さて、今一つ注目すべきこととして、この年、史実においては道綱が家の女房源広女(みなもとのひろしのむすめ)との間に道命(どうみょう)を儲けているので、遅くともこの女性と天延元年以前から関係を有していたと思われる。
しかしこの日記にはそうした道綱の行状や前述のごとき兼家の苦境時の姿はまったく描かれず、青年道綱の真剣な求婚の姿ならびに、貫録のついた高官兼家の悠揚迫らざる姿や(184項)のように大勢の上達部や殿上人にかしずかれ、とりまかれている華やかな姿しかしるされていないところに、本日記がありのままの事実のみを書き記した日記ではなく、作家道綱母の手になる日記文学作品であることを感じるのである。こうして(この部分だけでなく三巻を通じて)作者の虚構も加わって『蜻蛉日記』が形成されているようにおもわれるのである。
【解説】
この項は道綱が八橋の女に求婚し、彼とその女との贈答歌が記されている。前述の大和だつ女の場合にも考えられたと同様にこの項の道綱の歌も作者が応援して添削したり代詠なども行われていたと考えられる。
(中略)
道綱は八橋の女へ刻苦勉励して求婚歌を送り続け、この求婚に対して真剣であり、相手に対して誠意を有してしることを示そうと努力している。(中略)当事者二人とも相手の容貌・風姿や人柄、性格、声などもまったく知らない。
(中略)
当人が歌を贈答しあっている間に女性の親や後見者は求婚者の身元を十分調べて、これなら大丈夫と見極めて結婚ということになる。
(中略)
さて、今一つ注目すべきこととして、この年、史実においては道綱が家の女房源広女(みなもとのひろしのむすめ)との間に道命(どうみょう)を儲けているので、遅くともこの女性と天延元年以前から関係を有していたと思われる。
しかしこの日記にはそうした道綱の行状や前述のごとき兼家の苦境時の姿はまったく描かれず、青年道綱の真剣な求婚の姿ならびに、貫録のついた高官兼家の悠揚迫らざる姿や(184項)のように大勢の上達部や殿上人にかしずかれ、とりまかれている華やかな姿しかしるされていないところに、本日記がありのままの事実のみを書き記した日記ではなく、作家道綱母の手になる日記文学作品であることを感じるのである。こうして(この部分だけでなく三巻を通じて)作者の虚構も加わって『蜻蛉日記』が形成されているようにおもわれるのである。