永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(835)

2010年10月13日 | Weblog
2010.10/13  835

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(12)

「『かかる御心の程を思ひよらで、あやしきまできこえなれたるを、ゆゆしき袖の色など、見あらはし給ふ心あささに、みづからのいふかひなさも思ひ知らるるに、さまざまなぐさむ方なく』とうらみて、何心もなくやつれ給へる墨染の火影を、いとはしたなくわびしと思ひまどひ給へり」
――(大君は)「あなたがこんなお気持だとは気が付きませんで、自分でも不思議なほどお親しみ申しておりましたのに、喪服の侘びしい姿をすっかり見ようとなさるあなたの思いやりなさにつけましても、自分の身の軽さも思い知らされて、どうしようもなく辛くて…」と怨めしげに、やつれた墨染のお姿が灯影に浮かぶのを、たいそう恥ずかしく辛いと苦しそうなご様子です――

 薫は、

「いとかくしもおぼさるるやうこそは、とはづかしきに、きこえむ方なし。袖の色をひきかけさせ給ふはしも、ことわりなれど、こころ御らんじなれぬる志のしるしには、さばかりの忌おくべく、今はじめたる事めきてやはおぼさるべき。なかなかなる御わきまへ心になむ」
――どうしてそれほど私をお避けになる訳があるのかと、恥ずかしさに申し上げようもありません。喪服のことを口実になさるのも、尤もですが、長いこと私の志をお見知りくださった上で、これ位のことを憚られるような、今はじまった間柄にお思いになってよいものでしょうか。随分と水臭いおっしゃりようですね――

 と、かつて琴の音をかすかにお聞きになった有明の月影からのお話に始まって、折々につけて思いの深くなって、もう忍び難くなってきている気持ちの数々を、綿々とお話になります。大君は、

「はづかしくもありけるかな、とうとましく、かかる心ばへながらつれなくまめだちけるかな、と聞き給ふこと多かり」
――今更ながら、なんと恥ずかしいことよ、と、疎ましく、このようなお気持をもちながら、薫が、素知らぬふりで真面目さを装っていらしたのかと、心外なことよと聞いていらっしゃる――

 大君は側にある几帳を仏前との間に置いて、物にもたれていらっしゃいます。仏前の名香が芳しく漂って、薫は人よりも特に仏のことを尊ぶご性分ですので、その香りに遠慮されて…。

では10/15に。


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