永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(721)

2010年05月01日 | Weblog
2010.5/1  721回

四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(8)

「侍従の君、まめ人の名を憂れたしと思ひければ、二十日余日の頃、梅の花盛りなるに、にほひ少なげに取りなされし、すきものならはむかし、と思して、藤侍従の御許におはしたり」
――侍従の君(薫)は、堅人との評判をわびしいと思われましたので、正月二十日過ぎの梅の花が見事に咲いている頃にお出かけになります。すっかり面白味のない男のようにあしらわれてしまったので、それではひとつ風流人ぶってみようか、とお思いになって、藤侍従のお部屋へとお出でになりました――

「中門入り給ふ程に、同じ直衣姿なる人立てり。隠れなむと思ひけるを、ひきとどめたれば、この常に立ちわづらふ少将なりけり。寝殿の西面に、琵琶、筝の琴の声するに、心を惑わして立てるなめり。苦しげや、人のゆるさぬ事思ひはじめむは、罪深かるべきわざかな、と思う」
――中門を入ったところに、同じ直衣姿の人が立っています。その人が隠れようとするところを、薫が引きとめますと、いつもこの辺を徘徊する、あの蔵人の少将なのでした。
寝殿の西面で、琵琶、筝の琴の音がしますので、少将は心も空に取り乱して立っていたのでしょう。薫は、ああ辛そうな様子だな、親の許さぬ相手に恋い焦がれるのは、罪の深いことだろうに、と思って――

 そのうちに、琴の音が止んだので、薫が、

「いざ、しるべし給へ。まろはいとたどたどし」
――さあ、案内をしてください。わたしは勝手が分かりませんので――

 と、連れだって、西の渡殿の前にある紅梅の木のところへ、催馬楽の「梅が枝」
を謡いながらお出でになります。
~~梅が枝に来居る鶯、や
  春かけて、はれ、春かけて、
  鳴けどもいまだ、や、
  雪は降りつつ、
  あはれ、そこよし、や、
  雪は降りつつ ~~。

薫の立ち寄られる気配が、梅の香よりも鮮やかにさっと匂ってきましたので、妻戸を押しあけて、女房達は和琴を薫の歌に巧みに合せて弾くのでした。

◆写真:直衣姿。風俗博物館

ではまた。

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