落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

子ども映画まつり

2007年07月15日 | movie
『ハートラインズ』

死の床にある信徒から獄中の息子の将来を託されたジェイコブ牧師。訃報をもって息子マニーザに面会に行き、出所後の生活の協力を申し出るが、長くギャング生活を送っていたマニーザは堅く心を閉ざしたまま。恩師のアドバイスに従ってマニーザを自宅に受け入れたものの、更生の道は険しかった。
最近では『ツォツィ』で話題になった南アフリカの作品。『ツォツィ』もすごくいい作品だけど、ぐりはぶっちゃけこの映画の方が好きだし、ホントによくできてると思う。ティーチインで監督が語っていたのだが、出演者は実際にギャング生活や刑務所暮しを経験した俳優たちで、かつ現地の言葉を忠実に台詞に再現しているという。なので登場人物たちの置かれた環境のもつ空気感─頽廃、腐敗、緊張感、絶望感など─に非常にリアリティがある。誇張も強調も感じないのに、台詞のひとことひとことに重みがあり、視線ひとつ、仕種ひとつに奥行きがある。たとえば刑務所に面会に行ったジェイコブが亡き父から預かった母親の時計をマニーザに手渡すシーンがあるのだが、ここでは現物ではなく預かり証のレシートしか渡さない。映画的には時計を渡した方が劇的だが、現実にはそれはできない。そんな細部に、犯罪者の置かれた環境が表現されている。
主人公のひとりが聖職者でメインの舞台が教会でもあるため、宗教色はそれなりに強い。監督の説明では、これはもともと道徳をテーマにした8本のシリーズのうちのひとつで、その企画をたてたのがキリスト教の人々だったからだそうだ。
ただし監督がクリスチャンでないせいもあって、キリスト教一色の物語でもない。牧師はマニーザを信じよう、助けようと努めるのだがなかなか上手くいかず、何度も挫折しかけてしまう。そんなとき常にマニーザの味方になるのは牧師の息子の11歳のスブーや、信徒で元麻薬中毒者の16歳のフランキーだったりする。マニーザも助けられてばかりではない。自ら更生しようと彼なりに努力し、同時に牧師一家に迷惑をかけまいと頑張る。周囲の人々もそんなマニーザに救われたり教えられたりする。人は人を助けられるほど偉くはない。自ら助かりたいと心から望めばこそ助かる。そこに神の存在は必ずしも必要ではない。
最初と最後では別人のように顔つきが変わっていくマニーザ役(ムポ・ジョセフ・モレポ)の熱演もすばらしかった。現在彼は南アフリカでも有名なスターになっているそうだ。

彫師の恋

2007年07月14日 | movie
『TATTOO 刺青』

すごくマジメに丁寧につくられた、台湾映画らしい映画。おもしろかったです。ちょっと長かったけど。
ぐりは実をいうと刺青やピアッシングってあんまり理解できない。なんでそんなことせんといかんのか、感覚的にわからない。だからこの映画も理解できるか自信なかったんだけど、大丈夫、すっごいきちんと人が刺青を彫る意味(の一端)を説明した上で、そこへ物語を肉付けしてある。だからといって説明的に感じるところはない。やたら丁寧すぎて冗長に感じる部分もないこたないけど。
楊丞琳(レイニー・ヤン) と梁洛施(イザベラ・リョン)はホントに役にハマってて、とくに楊丞琳の方はとてもこれがデビュー作とは思え?ネいなりきりぶり。かわいかったあ。
梁洛施の父がなぜ日本人という設定なのかがよくわからなかったのと、潜入警官(謝秉翰シェ・ビンハン)が楊丞琳の生別れの兄のよーに見えて仕方がないのにそこは解明されないまま終わったのが消化不良といえば消化不良でしたです。

百合学園

2007年07月14日 | movie
『恋するアナベル』

うーん。退屈。
映像も綺麗だし台本もポエジーでステキ。でもぬるい。眠い。もっそい今さらな、どっかで観たことある映画。
キャラクター設定もシチュエーションもなにもかもが『蝴蝶 羽化する官能』に似過ぎている。恋愛もので過去の失恋とかトラウマとかもってくんのって定番だと思うんだけど、いいかげん見飽きたよ。またそれかよ。?シにないの?みたいな。
これも全然観なくてよかった。ハラがたつほどではなかったけど、時間とお金、もったいなかった。

おそるべき中村中

2007年07月14日 | TV
『私が私であるために ノーカット版』
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えとねー。感動しましたよ。すごいよかったよ。
ストーリーそのものはもろにTVドラマの枠にハマってて、全体にカタイとこや古くさいところもかなり気になる。物語にリアリティはハッキリいって感じない。
けどディテールに非常に説得力がある。性同一性障害を描いた映画では最近なら?wトランスアメリカ』『プルートで朝食を』があるけど、両者とも主人公はストレートの俳優が演じていて、かつ基本的にはコメディのスタイルをとって家族を描いている。『私が〜』では主人公も含め登場する性同一性障害者は本当に性同一性障害をもつ人物が演じている。演技も素人の見世物程度のレベルと思ったら大間違い。ものすごい迫力の熱演でビビる。
彼女たちが語り演じる性同一性障害者の人生は、まさに筆舌に尽くし難いほどの苦労の連続である。家族との軋轢、友人にも話せない秘密を抱えた二重生活、恋愛もうまくいかない、就職や結婚といった人生設計にも大きな壁が立ちはだかる、誰にも理解されない孤独。彼女たちが画面から訴えてくる苦悩や涙には紛れもなく本物の重みがあるし、家族の悩みもまた同じだ。彼女たち以外のプロの出演者たちの演技もみんな素晴しかったです。橋爪功も竹下景子も浅見れいなも雛形あきこも、未だかつて観たことない芝居してました。
ただし内容的に欲張り過ぎたのか、主人公ひかる(あいざわさきら)の恋愛パートはどーも薄っぺらになってしまっていて残念。中村俊介のキャラがめちゃめちゃ概念的でなんじゃらほいって感じでしたですー。
中村中は演技ウマイですよ。さすがにプロじゃないから台詞回しにあやしいとこはあるけど、眼力も存在感も圧倒的で、ほんとうに性別とか人間性を超越した表現力を感じましたです。

本日の大当たり

2007年07月14日 | movie
『ハッテン☆サマー』

タイトルだけで300%くらい観る気が減退しそーなひどい邦題だけど、原題は『A Four Letter Word(4文字言葉)』。前作の『ワイルド・サマー』と登場人物が同じでスピンオフ的な位置付けなのでこの邦題になったそーだ。ぐりはこれ観てないんだけど、観てないことをヒジョーに後悔させられる作品だった。てゆーかこの映画祭って毎回、見逃したのがムチャクチャ後悔させられるくらい良い映画招んでるからねー。↑みたいのもままありますが。いずれにせよほとんどの招待作品が一般公開されないから大抵見逃したらそれっきりになってしまう。
すーーーんごいおもしろかったよ。サイコー。
基本は下品でHなギャグ満載のラブコメなんだけど、けっこうキチンとしたテーマもしっかり描かれてるし、それぞれのキャラクター造形も紋切りなようでちゃんと個性的。主人公ルーク(ジェシー・アーチャー)は毎晩ナンパに明け暮れるクィーン(いわゆる“オカマ”)だけどタチ。ルークが働くセックスショップの上司ジーク(コリー・グラント)は見かけによらず真面目でインテリ。ルークの新しい彼氏スティーブン(チャーリー・デヴィッド)はイケメンでデカ××なのに自信がもてなくてウソばかりついている。ルークの友だちマリリン(バージニア・ブライアン)はレストランバーのオーナーで婚約者までいるのに、アル中でまともな女友だちさえいない。マリリンの店でバーテンダーをしているピーター(スティーブン・M・ゴールドスミス)は潔癖で神経質、外見も性格も完璧な恋人デレク(J・R・ロリー)に首ったけなのに、些細な生活習慣のギャップがどうしても許せない。
彼ら登場人物の人物描写が、いちいち的確でかつリアルなんだよね。もうウマイ!!のひとこと。
この物語では彼らそれぞれに自分の人生をコントロールしようとするんだけど、それぞれの求めてる人生観がものすごく観念的で、自分たちのやりたいように生きたいように生きてるよーに見えて、実際には中身のないイメージに踊らされてることにだんだん気づいていく。ある意味でアメリカ人の「なんでも思い通りにやらんといかん」的にゆがんだ価値観を、非常に巧妙に皮肉ってもいるのだ。
と思ったら監督はスウェーデンの人でした。なるほど外国人だったのねん。9月からまた新作にとりかかるそーで、来年の映画祭にも出せればと語っておられました。今から楽しみじゃ。
ところでデレク役のロリー氏のファンにもなってしまったのですが(かっこいいだけじゃなくて女装も似合い過ぎ)、どーもほとんどろくな俳優活動はしてないらしー。おろろん。