落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

日本のオトナのをとこたち

2007年07月22日 | movie
『日本の熱い日々 謀殺・下山事件』
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やっと行ってきました熊井啓特集。
下山事件とは、1949年7月6日未明、当時の国鉄総裁下山定則氏が国鉄(現・JR)常磐線の線路上で轢死体となって発見された事件。国鉄で10万人もの人員整理計画が敢行される直前の事件であり、当初「死後轢断」(列車に轢かれた時点で被害者が既に亡くなっていた)とされる鑑定が発表されたりしたことで、警察内部やマスコミ各社でも自殺説と他殺説に分かれて議論をよんだが約半年後に捜査が打ち切られ、未だに真相は闇の中となっている。詳しくはこちらとかこちらで。

この映画は事件当時朝日新聞社会部記者だった矢田喜美雄氏が取材記録をまとめて1973年に刊行した『謀殺下山事件』が原作。
だから基本は他殺説を主軸に物語が進行する。おそらくこの映画を観てしまえば誰でも他殺説を信じるようになるだろうと思う。シナリオも演出も超直球だから、よけいそんな印象を受ける。
だがこの映画では重要な証拠がいくつも伏せられている。たとえば最初に他殺説を裏づける鑑定結果を発表した東大の古畑種基教授は、この前後に誤った鑑定をして3件の冤罪事件を起こしている。また、下山氏を轢いた列車の車体にはゼリー状に凝固した血液が付着していて、このことから轢かれた時点で下山氏が生きていたことは間違いない。それから下山氏を誘拐・監禁・殺害した現場を示す物証とされた、衣類に付着していた植物油は、物資不足の当時、機関車で使用される鉱物油にしばしば混入されていた。つまり轢かれて列車の車体に巻き込まれた時に付着したと考えるのが自然で、事故前に付着したことを証明する根拠はない。同じく衣類についていた染料は、事故直前に休憩を取った旅館の壁の化粧砂と一致している。
おそらくストーリーをわかりやすくするために省略されたのだろうが、せっかくならここまでしっかり描いて観客を混乱させた方が、よりリアルになってもっとおもしろくなったかもしれない。他殺説一辺倒ではやはり世界観が一面的にみえてしまう。

下山氏が生前人員整理のことで頭をいためていたことは確かで(全職員の2割近くをクビにするのだから、まともな神経の人間ならふつう苦しむだろう)、自殺にせよ他殺にせよ、テロにせよ謀略にせよ、その原因はGHQの強引な財政改革だったことに違いはない。
他の未解決事件を描いた映画『殺人の追憶』『ゾディアック』『ハリウッドランド』同様、はっきりと結論のようなものは語られないまま物語は終わるが、終戦直後の占領時代や冷戦初期の緊迫した世界情勢など、当時のまだ日本も貧しかった時代背景の空気感は非常に真に迫っていて、下山氏や周辺人物はそんな時代の犠牲者だったというのが結論のような気がする。
映画自体は1981年の作品だが、モノクロでクラシックな音響や編集の効果もあって、ときどきついもっと古い時代の、リアルタイムに近い映画を観ているような錯覚にとらわれましたです。

あとこの映画は俳優座映画放送の制作だけど、出演者は俳優座以外の無名塾や劇団民藝や文学座など、新劇のさまざまな劇団から採用されている。だから一見地味なキャストなんだけど、たぶん劇団的にみればオールスターキャストなの。まだ無名だった役所広司とかちょーチョイ役。しかしこのころの隆大介は渡辺謙ソックリやな。顔だちや体型だけじゃなくて声までほとんど同じ。見分けつかんよ。
事件から今年で58年。ぐりは個人的には真相なんかどうでもいい。でも、こういう時代があったという、歴史の象徴として、日本人が覚えておくべき事件ではあると思います。