落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

罪のかたち

2007年07月27日 | movie
『海と毒薬』
<iframe src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=htsmknm-22&o=9&p=8&l=as1&asins=B00005S7AT&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&lc1=0000FF&bc1=000000&bg1=FFFFFF&f=ifr" style="width:120px;height:240px;" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" frameborder="0"></iframe>

引き続き熊井啓まつり。引き続き重いです。
原作を初めて読んだのは高校生くらいかな?好きでその後も何度か読んでるけど、映画は初見です。ホラ、原作が好きだと映画化作品てガッカリしちゃうことがよくあるじゃないですか。それで観てなかった。
でも観てみたら意外に(爆)おもしろかったです。ふつうによくできてるし、すごくいい映画だと思う。

遠藤周作原作の映画化といえばマーティン・スコセッシの『沈黙』は最近どーなってんのかな?あれも小説好きです。
『沈黙』は神の存在を問う物語だけど、『海と毒薬』は神に裁かれる人間の罪を描いた物語。人の罪はいったいどこから始まってどこまでが罪なのか、人はなにをすれば罪人になるのか、それとも罪人は生まれながらにして罪人なのか、聖者は完全に聖者たりえるのか。
原作では終戦から十数年後、事件に関わった勝呂医師の患者の視点からストーリーが展開するのだが、映画ではそれがさっくり省略されている。だから原作で強調されている「時代に忘れ去られた大罪」というパースペクティブは映画にはない。
それでも、登場人物たちそれぞれの「罪の意識」のかたちは充分に表現されてるし、彼らが罪に堕ちていくまでの心の変遷の描写は実に巧みとしかいいようがない。この映画を観てしまうと、何が「善」で何が「悪」なのか、そのようにものごとや人を裁くことの意味や正当性が、心の奥底からぐらぐらと揺らいでくるような気がしてしまう。「真実」や「正義」という言葉の意味が、突然、ひどく空虚なように思えてくる。

原作では物語の主人公はあくまで勝呂医師(奥田瑛二)だったけど、映画では渡辺謙演じる戸田の方がより目立ってました。渡辺謙はNHK大河ドラマ『独眼竜政宗』でブレイクする直前だけど、ちょっとこわいくらいのなりきりぶりで既にまったくただ者でない存在感が光ってます。しかもなんだかセクシーですー。悪役だからかな?
しかしこの映画は渡辺謙以外の出演者─とくに岸田今日子・根岸季衣など女優陣─やちょっとした風景描写までも、細かいところがいちいちみょーに色っぽい。なんか必要以上にきれいに艶っぽくみえる。そこがまた怖いです。
『日本の熱い日々 謀殺・下山事件』もそーだったけど、モノクロの映像や編集や音処理の効果で、一見すると60年代以前のクラシック映画のようにみえるところがまたなんだかナマナマしかったです。ある意味ではクラシック映画の模写とゆーかイミテーションのような表現方法なんだけど、それはそれでものすごく説得力がある。ホントにリアリティと説得力ってべつものなんだなあと、しみじみ再確認しましたー。