落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

子ども映画まつり

2007年07月15日 | movie
『スカイマスター、空飛ぶ一家のおとぎ話』

日本では滅多に観ることのできないデンマーク映画。
10歳のカレのうちに生まれた妹のリルの背中には、生まれつき翼がある。医師はただの皮膚だといって切除手術を勧めるが、一家はそのまま彼女を育てようとする。ところがカレがリルは飛べると主張して練習をはじめ、成長して伸びて来た翼がもとで事故になる危険性が出て来たため、両親は手術を決意。カレは自転車で130キロ離れた病院へ妹救出の旅に出る。
これはもうハッキリと子ども向けの映画ですね。大人も楽しめるけど。ファンタジーでありミュージカルでもありコメディでもありホームドラマでもあり、かつロードムービーにもなっていて、映像も音楽も華やかで家族みんなでせいいっぱい楽しんでね!という制作者の気持ちがとてもよく伝わってくる。
ファンタジーである以上に突っ込みどころはもう満載なんだけど、途中からいっさい気にならなくなる。いいじゃん映画なんだからさ!みたいな。
歌や踊りもおもしろいんだけど、この映画の最大の魅力は強烈なキャスティングとそれを強調した派手なヘアメイク。70年代風のポップでキッチュでカラフルな美術装飾と衣装も目に楽しいんだけど、それ以上にどの出演者も一度見たら忘れられない個性的な容貌で笑わせてくれる。ぐりはベビー用品店の店長役の人がコワかった。アレは特殊メイク?なのかなあ??赤ん坊がそのままおっさんになったみたいな顔・体型・髪型なんだよ。コワかったよ。
てゆーかね、やっぱいちばん印象深いのは主人公カレ役のヤヌス・ディシン・ラトケくんですよ。もおおおお、メチャクチャかわいい。ふわふわした金髪に大きな空色の瞳、少女マンガか古代彫刻かっちゅーくらいキレイに整った顔だち。将来楽しみだね。フフフフフフ。リル役の赤ちゃんもちょーめんこかったです。
一見するとただのファミリー向け娯楽映画のようだが、美容整形やダイエットやアンチエイジングなど過激な容姿改造がもてはやされるこの時代に、生まれたままありのままの姿を受け入れてハッピーに暮すという人生観の素晴らしさがメインテーマにもなっている。脳天気かもしれないけど、こういうことは脳天気にいった方が却って伝わるものなのかもしれない。

子ども映画まつり

2007年07月15日 | movie
『月の子供たち』

『タイヨウのうた』などで知られるようになった難病・色素性乾皮症の子どもを描いた青春映画。
12歳のリザの6歳の弟パウルは、太陽光にあたると悪性黒色腫を発症するため、日中外に出て遊ぶことができない。リザは毎日パウルに「あなたは別の星からやってきた宇宙飛行士なのよ」と空想した物語を聞かせて遊ぶ。あるときリザは宇宙工学に詳しいジーモンというクラスメイトと親しくなり、徐々に家を空けることが多くなっていく。
ストーリーそのものは悲しいが、リザとパウルが共有している宇宙の物語がファンタジックなCGアニメで表現されており、全体の雰囲気はそれほど重くはない。先天性の不治の病を描いていても、物語にはちゃんと希望もある。決してお涙ちょうだいの難病メロドラマにはなっていない。一見ストーリーラインとは直接関係のなさそうなディテールが繊細に描かれていて、登場人物たちの環境や心情がごく自然に表現されている。
難病はモチーフのひとつであり、メインのテーマは思春期を迎えたリザの成長である。小さな弟の世話にかいがいしく明け暮れる姉といえばいじらしく聞こえるが、彼女はそんなしおらしいだけの娘ではない。家庭環境や不安定な年頃のために自分の殻に閉じこもりひとり「悲劇のヒロイン」ぶるのに、弟の世話はいい口実なのだ。彼女を100%信じ甘える弟の存在が彼女の支えにもなっている。互いに依存しあい閉じた関係に満足していた姉弟だが、姉には大人への準備=思春期がめぐってくる。弟ほどではないにせよ彼女を必要とするボーイフレンドの存在が、ふたりを人生の先の段階へと導いていく。
ところでこの色素性乾皮症、確か去年公開されたドイツ映画『みえない雲』にもこの病気の子どもが登場したので(そーだったと思う。違うかも?)ドイツでは有名な難病なのかと思いきや、ドイツにも患者が30人くらいしかいなくて全然知られてないらしい。監督は撮影にあたって数人の患者に取材をしたそうだが、何度も皮膚ガンを切除している患者の中には容姿が変わってしまっている人もいて、かなりつらかったという。
『名もなきアフリカの地で』や『ビヨンド・サイレンス』など子ども映画というジャンルでは定評のあるドイツ映画だが、映画産業そのものが発達していないため子役の数は少ないらしい。今作の出演者も14校の学校を3ヶ月かけてまわってみつけたそうだ。

子ども映画まつり

2007年07月15日 | movie
『ハートラインズ』

死の床にある信徒から獄中の息子の将来を託されたジェイコブ牧師。訃報をもって息子マニーザに面会に行き、出所後の生活の協力を申し出るが、長くギャング生活を送っていたマニーザは堅く心を閉ざしたまま。恩師のアドバイスに従ってマニーザを自宅に受け入れたものの、更生の道は険しかった。
最近では『ツォツィ』で話題になった南アフリカの作品。『ツォツィ』もすごくいい作品だけど、ぐりはぶっちゃけこの映画の方が好きだし、ホントによくできてると思う。ティーチインで監督が語っていたのだが、出演者は実際にギャング生活や刑務所暮しを経験した俳優たちで、かつ現地の言葉を忠実に台詞に再現しているという。なので登場人物たちの置かれた環境のもつ空気感─頽廃、腐敗、緊張感、絶望感など─に非常にリアリティがある。誇張も強調も感じないのに、台詞のひとことひとことに重みがあり、視線ひとつ、仕種ひとつに奥行きがある。たとえば刑務所に面会に行ったジェイコブが亡き父から預かった母親の時計をマニーザに手渡すシーンがあるのだが、ここでは現物ではなく預かり証のレシートしか渡さない。映画的には時計を渡した方が劇的だが、現実にはそれはできない。そんな細部に、犯罪者の置かれた環境が表現されている。
主人公のひとりが聖職者でメインの舞台が教会でもあるため、宗教色はそれなりに強い。監督の説明では、これはもともと道徳をテーマにした8本のシリーズのうちのひとつで、その企画をたてたのがキリスト教の人々だったからだそうだ。
ただし監督がクリスチャンでないせいもあって、キリスト教一色の物語でもない。牧師はマニーザを信じよう、助けようと努めるのだがなかなか上手くいかず、何度も挫折しかけてしまう。そんなとき常にマニーザの味方になるのは牧師の息子の11歳のスブーや、信徒で元麻薬中毒者の16歳のフランキーだったりする。マニーザも助けられてばかりではない。自ら更生しようと彼なりに努力し、同時に牧師一家に迷惑をかけまいと頑張る。周囲の人々もそんなマニーザに救われたり教えられたりする。人は人を助けられるほど偉くはない。自ら助かりたいと心から望めばこそ助かる。そこに神の存在は必ずしも必要ではない。
最初と最後では別人のように顔つきが変わっていくマニーザ役(ムポ・ジョセフ・モレポ)の熱演もすばらしかった。現在彼は南アフリカでも有名なスターになっているそうだ。