落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

大陸映画はツカミとシメ

2005年07月31日 | movie
『鬼が来た!』
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傑作ですね。間違いなく。うん。スゴイ。
名作ではないと思うけどね。この映画に描かれたようなことが実際にあり得たかどうかは大いに疑問が残るし、設定もイマイチ不自然、ストーリー展開もあちこちで微妙にギクシャクしてる。キャラクター描写もかなりデフォルメされてるし、あくまでこれは一種のブラックコメディとしてとらえるべき作品だと思う。
でも、それはそれとして、概念としての「戦争の愚かさ、狂気」はとてもくっきりと分りやすく描かれている。誰が正しいとか何が正しくないとか、そーゆーことはこの物語のなかでは論外なんである。ここで論ぜられているのは、「ひとがひとを殺すなんて、誰がなんと云ったってやっぱしヘンだと思うよ」、と云う、ただただごくごく当り前のことなのだ。

物語は非常に単純だ。視点も一定しているし、登場人物や背景も限定されている。舞台劇みたいで、すごくストレートだ。
主人公は学も金もない一介の農民で、舞台は田舎の小さな村、周囲の人間も似たような人物ばかり。戦争中で日本軍に占拠されてはいてもある程度の安全は保たれた環境に住む普通の人には、まずなかなか人は殺せない。殺してしまいたくても殺せないのだ。勇気があるとかないとかではなく、常識的な日常生活を送るふつうにまともな人間には、そんなことはとてもできない。あなたや私に人が殺せないのと同じだ。
そしてそうした常識的なまともな日常こそが現実社会を維持している。それを無意味に破壊し混沌に陥れてしまうのが戦争なのだ。
作中では日本人が中国人を殺したり、中国人が中国人を殺したり、中国人が日本人を殺したりする場面が何度も出て来るけど、そこには必ず「狂気」と「愚かさ」が介在している。 人が人を殺さないことは必然でも、人が人を殺すことに正当な理由はなく、あるのは実体のない「大義名分」だけ、すなわち「狂気」と「愚かさ」こそが戦争という大量殺人を肯定することを、とても自然に、ありふれた庶民の目を通して描いている。

ぐりはこの映画かなり好きですね。
たぶんこれって戦争映画としても一級品のレベルに達していると考えても良いと思う。ぐり個人の中では『地獄の黙示録』に並ぶと云ってもいいくらいの傑作です。
あのね、目線がすっごいニュートラルなの。描き方が、誰の側でも味方でもない。誰のことも否定も肯定もしてない。そしてその誰の側をも分かったよーな決めつけ方をしていない。貧しい庶民のことをヘンにバカにしたりしないし、かといって清貧を美化したりもしない。日本軍の分からなさは分からないなりにそのままにしてあるし、国民党軍のことも妙な誇張はしていない。あくまでも、大上段に構えて無理に追求しようとするのではなく、ひととして、人間として、力一杯一生懸命、「戦争ってヘンじゃない?」とだけ云っているように見えた。
そこがすごくいいと思ったです。

香川照之はイイね〜。顔中ヒゲだらけの泥まみれ、ヨダレまみれで怒るしわめくし泣くし、もう必死!で頑張ってます。またそれがハマってんの(笑)。捕虜になった日本兵って役柄にぴったりなの。全然イヤミがなくて。コレ他の役者さんじゃまるで想像つかないです。最初の方は日本語の台詞が微妙に不自然なのがひっかかるけど、慣れてしまえば気にならなかった。
意外と日本人キャストが多くて驚きました。この映画日本軍はちゃんと日本人が演じてます。澤田謙也はあんまし日本軍将校には見えなかったけど(笑)。やっぱしちょっとマフィアっぽい。
中国人キャストでは日本人観客に見覚えのあるあたりでは『中国の小さなお針子』で仕立屋のおじいさん役だった叢志軍(ツォン・チーチュン。『菊豆』や『始皇帝暗殺』にも出てる)とか、『さらば、わが愛 覇王別姫』『花の影』『フル・スロットル 烈火戦車』『喝采の扉』にも出演してる呉大維(デビッド・ウー)が出てます。日本軍の中国人通訳役の袁丁(ユエン・ティン)は「なんやこの人えっらい芝居下手くそやな〜」とか思ったけど、役者じゃないんだね(笑)。そんで日本語上手過ぎです。姜文(チアン・ウェン)の愛人役の姜鴻波(チアン・ホンポー)がすごく可愛かった。デビュー当時の鞏俐(コン・リー)にちょっとカブる感じ。他にも出演作が観てみたいなぁ。
 
セットも立派だし映像もオシャレだし、こーゆー政治的にビミョーな映画がしっかりつくれるってとこが中国映画界のすごさだと思う。撮影は先頃監督デビューした『孔雀』でいきなりベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した顧長衛(グウ・チャンウェイ)。
音楽が全編日本の軍歌しか流れないとこや、白黒が基調になってるところなど、表現性に力強さみたいなものをとても感じました。物語に自信があって、云いたいことがハッキリしてるから、こういう仕上げが出来るんだろうと思う。
特にオープニングとラストシーンにはしびれました。Cool!です。
拍手。

杜琪峰まつり?

2005年07月28日 | movie
『暗戦 デッドエンド』
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末期ガンで余命4週間と宣告された男(劉徳華アンディ・ラウ)が、白昼堂々金融コンサルティング会社に強盗に入り交渉人としてホー刑事(劉青雲ラウ・チンワン)を指名する。警察の捜査網もマフィアの追跡も巧妙にすり抜ける知能犯にふりまわされながら、奇妙な感情の共鳴を覚える刑事。しかし彼の真の目的は金でもなければ名誉でもなかった。

※ちょこっと伏せ字あり。

あのねー。面白かったよ。イヤほんまに。想像以上に楽しめました。
1999年の杜[王其]峰(ジョニー・トー)作品・・・って『ザ・ミッション 非情の掟』と同じ年ですね。すげーな杜[王其]峰。
ぐりはどーも劉徳華とゆー人が苦手で(キライではないと思う)、単なる食わず嫌いでこの作品も今まで観てなかったんだけど、うん、観て良かった。人物造形は魅力的だし、ヘンに凝りすぎないストーリーのテンポもちょうど良いし、映像も音楽もさりげに洒落てる。アンディファンにとっても満足の出来ではないでしょーか。

いろいろつっこみどころはあるよ、もちろん。
アンディが不治の病でなきゃいけない必然性ははっきり云ってあまりない。どーせならいっそのこと病気もトリックのひとつにしてしまった方がストーリーによりツイストが利いて面白くなったかもしれない。あの女装は迫力あり過ぎて怖かったしさぁ(笑)。頑張ってたけどね。特殊メイク。
マフィアがあまりに簡単にアンディに騙されるのもどーかなー?あれじゃ李子雄(レイ・チーホン)はまるっきりただのハゲで終わってるやないですか(爆)。
劉青雲があれほど有能なのに警察内部では閑職でしかも周囲にもまるで尊敬されてない風なのもちょっと不自然。なんでそんな刑事が国際警察とコネがあるのか?彼の上司もおバカ過ぎるし。不可解ってほどのことはないですけどもー。
いちばん分かんなかったのはアンディがなんでそこまでして「復讐」しなきゃいけなかったのか、その意志の根拠がイマイチ弱い。ぐりは正直なところ全く納得いかなかった。

けどまぁそーゆーとこはさておいて、ワクワクドキドキしつつときどきニヤリと笑えるライトなエンターテインメント・サスペンスとしてはふつーに良い出来だと思います。
なにより作中で人が死なないってとこがいいです。ガンアクションはあるんだけど、それで人を殺したりはしないのね(冒頭に本筋とは別の事件で人が死ぬとこはある)。アンディは犯罪者ではあっても暴力をふるうシーンが直接画面にはほとんどでてこないし、劉青雲も交渉人だから基本的にいつも丸腰。それでいて周りはしっちゃかめっちゃかにかきまわされる、ってとこが爽快です。
警備の厳しい近代的なビルの閉鎖的な構造を上手く使ったストーリー展開もなかなか心憎い。
あとストーリーを追うごとにアンディと劉青雲にある種の“ソウルメイト”みたいな感情が育っていくのが、非常に自然に描かれてるのが良かった。

劉青雲はやっぱかっこええなぁー。実は『ロンゲスト・ナイト』がすっごい好き(そーいやDVD誰かに貸して返って来てないな)。
アンディはインテリくさくもなくオタクっぽくもないんだけどほどよくクールにマニアックな犯罪者役がうまくハマってました。アンディお約束なアレコレの描写はビミョーに浮いてたし、ぶっちゃけこの役はアンディじゃなきゃいけない!ってほどのことはなかったですけども。
蒙嘉慧(ヨーヨー・モン)可愛かったなぁ。3回しかでてこんけど(爆)。
次は『ヒーロー・ネバー・ダイ』を観なくてはー。ですね。<雨さん
その前にもう2枚借りた中国映画をこなすべし。
ところで『ブレイキング・ニュース』の日本公開はどーなっとるんですかね?<タキさん

やっと観たよ

2005年07月26日 | movie
『パープルストーム』
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スゴイです。大作です。ゴーカです。あまりに豪華でビビります。
製作成龍(ジャッキー・チェン)、監督は陳徳森(テディ・チャン)。1999年の作品なので前年にデビューしたばかりの呉彦祖(ダニエル・ウー)にとっては最初期の主演作ってことになりますね。それでこれだけの規模ってとこに成龍も含めた香港映画界がダニエルにかけた期待の大きさが窺える。

実はぐりはこの頃にダニエル本人とある機会に同席したことがあります。
もうねー、めーちゃめちゃ美しかったよー。あのねー、造形的にとかそーゆーんじゃなくて、オーラが。後光が差してた(笑)。イヤほんまにー。挙措動作が鷹揚で物腰がおっとりしてて、こんな王子様みたいなひと現実にいるんだねーと、心底感心しちゃいました。
つるっつるのお肌も真珠のように白い歯も真っ黒い大きな瞳も確かに綺麗なんだけど、それよりなにより、才能にもチャンスにも恵まれた、まさに幸運の女神に選ばれた人だけが持つ輝きと云うか、なんかそんなよーなのを感じましたです。あとね、声が低くてソフトで、近くで喋るとすごーくせくしーだったのをよく覚えてます。
その後ちょっとひとりダニエルまつり状態だったね(笑)。1週間くらい(爆)。

なのでこの『パープル〜』も当時はとても楽しみにしてたんだけど、なかなか日本では公開されなかった。結局一般公開は2002年。3年もかかった。かかり過ぎ。それもスグ終わっちゃって、そして今まで観る機会がなかなかなかった。
やっと観れて納得はしたけど、おもろかったか?と聞かれると正直悩みますね。制作された時はこれはこれで最先端だったんだろうと思う。お金も手間もすごくかかってるし、ストーリーにも気合い入ってます。けど最先端というものは廃れるのも早い。ぶっちゃけいま観ると古くささの方が目立ってしまう。
アクションシーンがたっぷりあってそこはまぁまぁ楽しめるんだけど、肝心のダニエルがあまり活躍しないので、どーしても「血湧き肉踊る」と云うスリルには物足りない。当時タイムリーだったポル・ポトの死去や今は無き啓徳空港の新空港への移転が絡んで来たり、お話や設定が非常に凝っていて制作者のやりたいことはとてもとてもよく伝わって来るし、じゃあ一体何がいけないのか?と訊かれるとこれはやはり主演のダニエルにそこまでカリスマ性がない、初主演でこの役は荷が重過ぎたとしか云いようがない。あれから順調に成長した今ならもっと良い出来になった筈だけど、それを云ってもしょーがないしねえ。
共演が甘國亮(カム・コクリョン)・周華健(エミール・チョウ)・何超儀(ジョシー・ホー)ってのももうひとつ地味。陳沖(ジョアン・チェン)なんか完全にお飾り状態でもったいなかったよー。

ダニエル本人はよく頑張っていると思う。すごく難しい役柄だし、この当時はまだ広東語もろくに話せなかった筈です。だから台詞は最小限しかないし、カンボジア生まれのアメリカ育ちと云う設定にして言葉に不自由があっても無理がないようには工夫されてる。だけでなくその設定がなければ成立しない話にもなっているので、もともとこの企画そのものがあるいはダニエルありきだったのかもしれない。
そこまではよかったんだけど、記憶障害やトラウマ、内戦、テロリストの価値観など、持って来たテーマが複雑過ぎて娯楽映画にまとまりきっていない。いまいちリアルじゃないのに、それを忘れさせるような吸引力が映画にない。観てる方はつっこみたいのに雰囲気がシリアス過ぎてつっこめない。
こういう映画ってリアクションに困るよなぁ(笑)。

ただまぁダニエルファン必見の1作ではあります。そこは間違いないです(笑)。
トレードマーク(?)の肉体美はもちろん、とことんヘタレな演技も満載。怯えるダニエル、泣くダニエル、悶えるダニエル、暴れるダニエル、はなぢ出すダニエル、失禁するダニエル(おい)、もう全編そんなんばっかりです。
美形が悶絶してるのって絵になるよねえ(爆)。そーゆーのがお好きなヨコシマな方には是非ともオススメです。

やっと観れた

2005年07月25日 | movie
『ザ・ミッション 非情の掟』
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黒社会のボス・文(高雄エディー・コウ)が何者かに命を狙われる。弟の南は(任達華サイモン・ヤム)は組織から使い手の5人(黄秋生アンソニー・ウォン、呉鎮宇ン・ジャンユー、張耀揚ロイ・チョン、呂頌賢ジャッキー・ロイ、林雪ラム・シュ)を集めて兄の警護を任せる一方、刺客の依頼主を探し始める。

1999年の杜[王其]峰(ジョニー・トー)監督作品。原題『鎗火』。
例によって極端に台詞が少なく、登場人物も状況も限定された非常にシンプルなハードボイルド。監督自ら云ってる通り黒澤明の作風に似たところもあるし、ガンアクションが多いからパッと見は北野武映画にも似てる(北野武は黒澤明の弟子だから似てて当り前なんだけど)。
こういう映画はストーリーが面白いとか、派手な見どころがあるとか、そーゆー分りやすい表現で良さを説明するのがすごい難しいです。イヤ、面白いのよ。すっごく。それはハッキリしとります。
ぐりはねー、オープニングの音楽でもうしびれたね。エレクトーンよ。今どき。そんでラテンなの。渋いよ。そのノリでぐいいいいいいっと物語の世界にひっぱりこまれる。

台詞が少ないから最初はどこで何が起きてるのか、誰が何者なのかよく分からない。でも観てるとちゃんと分かって来る。なんにも説明がないのに。ストーリーがシンプルだから。
ほんとに余計なものが何もない。必要最低限の舞台、人物、台詞だけで映画の世界観が完璧に完成されてる。世界観の完成度があまりにも高くてむちゃくちゃリアルに感じるんだけど、よぶんな要素が少ないから純粋なフィクションとしてもしっかり成り立ってるし、迫力は充分だけど無駄に残酷過ぎないから、観終わったらすっきりと現実世界に戻って来れる。だから誰でも気軽に楽しめる大人の娯楽映画になっている。ヤクザ映画ったってそこが東映仁侠映画と違うんだな。べたべたしたとこが全然なくて、かと云ってあっさりしてるワケでもない。こーゆーのをまさに「ばりっとしてる」ってゆーのかなー?

監督は「この映画には脚本がないし役者にはストーリーを教えなかった。だから誰が演じても結局同じ」と云ってたけど、いやいやそんなことありませんですよ。だってみんなセクシーだもん。魅力的だもん。彼らのパーソナリティによって観客は心をつかまれ、映画の世界に連れて行かれる。
ぐりが個人的に面白かったのは組織を引退して美容師になった鬼を演じた黄秋生。むっすりと静かなんだけど常に冷静で無駄なことは決してやらない。やんなきゃいけないことだけきっちりやる、それもちゃんと自分のやりたいようにやる、と云う一見分かりにくいキャラクターをナチュラルに演じてます。観てて安心してられる役者ってのはこーゆーのを云うんだよね。ほんと上手いです。マジ上手い。
みんなの兄貴分・来役のジャンユーはいつも通りでしたねー。いつものジャンユー。かっこいいよー。ステキー。マイク役の張耀揚はぐりは『インファナル・アフェア 無間序曲』しか観たことなかったんだけど、アレは一言も台詞がない役だったよね。今回いちばん台詞がないのは肥役の林雪。なにかっつーと食ってばっか(笑)。話しかけられてもろくに返事もしない。
しかしこれほどまでにそれぞれがそれぞれらしく、かつ男前に映ってる映画ってスゴイです(女は今回ひとりしかいない)。キャストだって役者冥利に尽きるでしょー。

ぐりが作中でいちばん面白いと思ったのは、文の社長室の前で警護してる5人が、紙屑でサッカーの真似事をするところ。
たとえヤクザでも、いい年をしたオトナでも、男のひとってこういう子どもみたいなとこがあるからチャーミングなんだよね。ゲーセンでちょー真剣にゲームやってたり。タバコにマッチ仕込んだりさ(バカ)。
かわいかったです。

首飾りの呪い

2005年07月24日 | movie
『銀飾』
舞台は1930年代、四川省西都。大家明徳府の主人呂氏は江陽県の知事だがその長男道景(王同輝ワン・トンホォイ)には女装癖があり、結婚して7年になる妻碧蘭(孟尭モン・イァオ)とは初夜以来まったくの没交渉。堪えかねた碧蘭は意趣返しのつもりで若い銀職人の少恒(谷洋グ・ヤン)と不倫関係を結ぶが、やがてそれは夫の知るところとなり、自ずから姑や舅にも露見し、体面のため互いに無関心を装う大家庭の裏で当事者だけが知らない報復の悲劇が始まる。
※現段階で今作品の日本公開は予定されていませんが、ネタバレ部分が伏せ字となっております。ご了承の上お読み下さい。

コスチュームプレイで不倫で悲恋。文芸メロドラマ。大時代だ。そして大味だ。
割りと面白かったよ。うん。大絶賛は出来ないけどね。けどタクシーで観に行くほどの映画だったか?と問われれば、正直なところ答えは「ノー」です。
ただこれは純粋に好みの分かれるところで、中には「素晴しい!」と云ってる観客の方もおられたので、単にぐりがハイビジョン(以下HD)映像のテイストが好きじゃないってだけの問題かもしれない。HD映画のイベントに行っといて云うことじゃないですけど。
ぐりは映像に関わる仕事をしていてHD映像の限界を知っているし、むしろフィルム質感フェチだったりするとこもあるので、HDのハイコントラストで見えたくないものまでくっきりはっきり映っちゃう画づらをどうしても「美しい」とは感じられない。たとえばこの作品では銀の装飾品が重要なモチーフとしてたくさん登場するけど、その銀細工の繊細華麗な美しさなんかはHDで捉えきれてるとは思えない。なんとなくチープに見える。
最近は日本でもHD撮影の映画が増えて来てるけど、日本の場合は撮影時の処理で微妙にフィルムに似せた画質に加工するのでここまでデジタル臭い画面にはならない。どうもこの『銀飾』ではそういう処理は全くやってなかったみたいです。
うんちく以上。

これは原作が小説らしいんだけど、HD撮影のせいもあってすっごいTVっぽい。ドラマっぽいです。
まず状況が分かりにくい。時代設定とか場所、時間経過が全然分からなかったです(上記の説明は上映後のティーチインで初めて知った)。これはもしかすると中国人には簡単に分かるのかもしれないけど、我々外国人にはせいぜい「民国時代か?」ってことくらいしか分からない。ちょっと不親切だと思った。
もうひとつ意地悪な見方をすれば、監督は原作と設定を変えて舞台を西都にしたと云ってたけど、西都を舞台にした大家族文学と云えばやはりここんとこドラマ化問題で話題になってた巴金の『家』シリーズを連想する。それを意識しての改変だったのでは?
その反面で説明的・概念的なシーンや台詞が異様に多いし、音楽がくさくていちーち大仰。橋田寿賀子ドラマかっつの。大仰と云えばコレ全編アフレコなんだけど、声の芝居も効果音もやたら大袈裟。アニメっぽいです。
その上画面転換のリズムがぬるくて、観てて途中かなり退屈しました。

ところがー。
最初家庭への恨みを晴らすために身分の卑しい男との不倫に走った碧蘭が、少恒の純真さに触れるうち本当の愛に溺れるようになり、それを知った夫との取引の上ふたりの関係を黙認してもらうようになった後が面白かった。
それこそ坂を転がる小石のように転落していくヒロインと恋人。だが本人たちはそのことにまるで気づいていない。ふたりがあまりに純粋すぎるからだ。彼らはひとを疑うということをまったく知らない、子どものように無防備な心の持ち主なのだ。
本人たちが気づかなくても、復讐劇の幕は既に上がってしまっている。それを止めることは誰にも出来ない。観ている方はやりきれない。ああなんで、なんで気づかんの?とやきもきしているうちにどんどん話が展開していってしまう。
だからねー、前半の碧蘭と少恒のラブラブシーンのリフレインとかいらなかったと思うよ。だって本来この話のテーマは愛じゃなくて大家族の家父長制の不毛さ、不条理なんだからさ。大体尺も長過ぎる。こんな話で115分もいらん。90分ありゃ充分です。
えっちシーンも全然セクシーじゃないのにしつこいしー。かと思えば肝心な箇所は当局の指導でカットされちゃってるし(監督は悲しくてこの編集バージョンは観ていないそうだ)。

もっとすっきりめりはりのある構成にして、全体的に人物描写に細かく気を使えば、全然いい映画になったと思うんだけど。
最も不満なのは夫道景の人物造形。たぶんこのヒト今で云う性同一性障害だと思うんだけど、その苦悩や変態ぶりの描き方が中途半端っつーかやっつけ?共産主義中国の映画じゃこれが限界なの〜?みたいなお粗末さ。物語の一方の主人公はこの夫なのに、めっちゃおざなりっす。本人こんなに一生懸命演じてる(メイン3人の中ではこの王同輝がいちばん演技が上手いと思う)のに、完成形がこのていたらくではあまりに可哀想。そこをもっと丁寧に表現すれば作品の世界観がもっと豊かになった筈なのに。
彼自身の描写が乱暴すぎるために、碧蘭の葬儀での「明徳府が碧蘭を殺したんだ」という叫びにも、それをゆーなら最初から女とやれないのに親の命じるままに結婚したあんたに責任はないのけ?とか思っちゃう。
逆にヒロイン碧蘭役の孟尭は全然まだまだでした。大根。ふつーのセクシーアイドル。初めの欲求不満な貴婦人の感じはなかなかよく出てたけど、途中どこで少恒に本気になったのかが分かりにくかったです。夫との間の感情の変化もいまいち表現しきれてなかった。
ラストシーンも蛇足としか云いようがない。あんなラストにするくらいなら、その後十数年をすっとばして日中戦争や国共内戦で崩壊した明徳府でも映しとけば良かったのに。

あげつらえばいろいろいろいろ不満はある。監督の黄建中(ホアン・ジエンジョン)は45年も映画に携わってるらしいけど、45年やっちゃってるからこその古くささがどうしようもなく鼻につきました。
ストーリーそのものはたいへん面白いので、余計に残念。
あと男性メインふたりの手がとっても綺麗だったのがすごく印象に残りました。たぶんたまたまだと思うんだけど、王同輝も谷洋も指が長くてまさに白魚のよーな手をしてて、そこをもっとちゃんと撮ればもっと官能的な映像になるのに・・・と思った。
もし万一日本で一般公開されてノーカットのキネコバージョンが上映されるとすれば、もっかい観てもいっかなーと思います。