落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

観よ!

2007年07月21日 | movie
『TOKKO─特攻─』
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戦争の悲劇の犠牲者として美化されはしても、実態が当事者の口から語られることはめったにない「神風特攻隊」。
ちなみに「神風」と称するのは海軍の特攻隊で陸軍はただ「特攻隊」なのだそうだが、やってたことは大体いっしょです。
最近は海外ではすっかり自爆テロ攻撃=狂信的暴力を指すようになってしまった「KAMIKAZE」という言葉が一人歩きしているけど、その実、日本でだって特攻作戦の現実はあまり知られていないのではないだろうか。ぐりは例の都知事映画を観てないけど、あれも結局は当事者の証言を直接題材にしているわけではない。

この映画の特異なところは、監督が日系アメリカ人、プロデューサーが日本生まれのアメリカ人という点。
ふたりとも日本を祖国/故郷としながらアメリカ国籍を持ち、太平洋戦争の当事国両国のアイデンティティをもっている。観ればわかることだが、この作品はこうした彼女たち独特の立場からしか語れなかったという意味で前代未聞の、特級の反戦映画にもなっている。
物語のきっかけはリサ・モリモト監督の亡き叔父が元特攻隊員だったという過去が判明するところから始まる。なので最初は家族の物語である。叔父本人は既に20年前に亡くなっているので、監督は他の生存者を訪ねてインタビューをとり、リサーチをする。インタビューは生々しく、リサーチはごく綿密で、特攻作戦がいつどのように立案され、実戦に導入され、いかにして「国民の鑑」にまつりあげられていったかという全体の過程が、非常にわかりやすく表現されている。
ぐりは太平洋戦争にも特攻作戦にもまったく詳しくないんだけど、たまたま同じ回を観ていたご老人が受付で「一ヶ所だけ」とダメ出しをしていたので、お詳しい方が観られても矛盾のない内容になっているのではないかと思う。ミスは「一ヶ所だけ」ってくらいだから。すごいです。

ぐりが作中でいちばん心を動かされたのは、訓練中に地元の一般家庭で休暇を過ごした隊員たちが、一家の娘さんから手渡された手づくりの人形をとても大切にしていたという証言。もののない時代、粗末な材料でつくられた簡単な小さな布人形を、隊員たちは後生大事に腰に提げて隊務についていた。どれほど強く思っていても口に出して気持ちを言葉にすることができない時代に、そのささやかなマスコットにこめられた心の痛みで胸が締めつけられるような気がした。人形をもらった隊員たちは10代後半〜20代前半のほんの子ども、贈った渡辺クミさんは当時19歳、この方は『恋文』というラジオドキュメンタリーの主人公として一部で知られている俳人でもある。
あともうひとつ、証言者のひとりが出撃前に帰省したときのことを語ったシーン。
この映画に登場する証言者は日米両国にまたがっているが、日本人証言者のほとんどはもちろん日本語で話している。元特攻隊員の上島武雄氏もずっと日本語で話していたのだが、父と再会した夜の話題になったとき、突然英語で喋りだした。もう二度と会えないかもしれないと思いながら親子で過ごした忘れられない一夜のことを、61年経った今も、母国語では話せないという心の壁。

戦争がどれほどひどいことかを、これほど能弁に語れるのはやはり当事者しかいないだろう。
日本では高齢化も進み証言者も年々減っているけれど、『蟻の兵隊』の奥村和一氏にしろ『ひめゆり』の元ひめゆり学徒隊員にしろ、語ろうとしている人はまだまだいるはずなのだ。
それは聞かないわけにはいかないでしょう。人として。
とりあえず、参院選に投票する前に、観れる方は『ひめゆり』『特攻』『ヒロシマナガサキ』『陸に上った軍艦』は要チェックで。

観よ!

2007年07月21日 | movie
『ブラインドサイト〜小さな登山者たち〜』
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ぐりは今ちょうど目の具合がよくなくて通院中だけど、もしこれが日本じゃなくてどこかもっと貧しい国で起きたことなら、とっくの昔に盲目になってたかもしれないと思う。
コンタクトレンズやメガネがなければ裸眼では外を歩けないくらい極端に視力が低いということもあるけど、なにより、日本に住んでいれば、何かあれば適切な治療を受けることができるし、目にいい食べ物もあるし、目をきれいにしておくことも簡単だからだ。
世界中のすべての盲人のうちの9割は途上国の貧しい地域に暮していて、その多くは教育も受けられず仕事もなく社会から孤立した生涯を送っているという。彼らが視力を失う原因は栄養不足や衛生状態の悪さ、医療設備の不足にある。同じ病気や怪我でも、豊かな国でなら失明しなくて済むのに、貧しい国の人たちはなすすべもなく暗闇に突き落とされてしまう。

なかでもこの映画の舞台チベットでは、盲人は前世に悪事をはたらいた罪人として忌み嫌われ、家族からさえも疎まれる。ある者は親の手で地下組織に売り飛ばされて物乞いになり、ある者は自室に監禁される。
作中なんども、彼らを指して「役立たず」という表現が出てくる。だが実際には、目の見えない彼らも、自ら家畜の世話をし農作業をし、台所仕事も当り前にできる。
ドイツ人活動家サブリエ・テンバーケンによって設立された盲人のための教育機関「国境なき点字」の生徒たちは北京語とチベット語と英語ができる。この辺境にあって立派なインテリである。卒業生の中には、起業して家族を養っている者や、海外留学して組織の運営に参加している若き活動家もいる。決して役立たずなんかではない。
そこは途上国だろうが先進国だろうがかわりない。身障者を役立たずなどと決めつけたり、一方的に同情したりするのはほんとうに情けないし悲しいし、まったく意味がないことだと思う。

彼らが受けている差別、チベット社会における盲人の置かれた環境の厳しさは、たえずヒマラヤ登頂に臨む一行を激しく責め苛む。
盲人として世界で初めてエベレスト登頂に成功したエリック・ヴァイエンマイヤーは、子どもたちとそのよろこびをわかちあいたくて旅を提案する。彼は盲人登山家としてはエキスパートだが、チベット社会で盲人が生きることの難しさについては何も知らない。
登山の楽しさは下界の現実世界から遠く離れて自由になることにもあるのだが、この一行は違う。登山が終わっても、子どもたちはチベットで生きていかなくてはならない。そのことが、エリック率いる欧米人登山家たちと、サブリエ率いる子どもたちとの意識の溝となり、道中はひっきりなしの議論の連続となる。
だから、この映画はスポーツドキュメンタリーでありながら、目が見えないとは一体どういうことなのか、山を登るとはどういうことなのかを、かなりグローバルかつミニマムな観点で同時に描いている。彼らのしていることは確かにのっぴきならないほどチャレンジングだが、そこには単なる挑戦以上の大きな意味がある。

序盤で女生徒たちが口ずさみ、クレジットでも「国境なき点字」の幼い生徒がアカペラで独唱するのはThe Turtlesの「Happy Together」。アジア映画ファンにとっては『ブエノスアイレス』のエンディングテーマ曲としても親しみのある曲だが、これをチベット族の小さな男の子が直立して熱唱するパフォーマンスは実に胸を打つ。

Imagine me and you, I do
I think about you day and night, it's only right
To think about the girl you love and hold her tight
So happy together

If I should call you up, invest a dime
And you say you belong to me and ease my mind
Imagine how the world could be, so very fine
So happy together

I can't see me lovin' nobody but you
For all my life
When you're with me, baby the skies'll be blue
For all my life

Me and you and you and me
No matter how they toss the dice, it has to be
The only one for me is you, and you for me
So happy together

I can't see me lovin' nobody but you
For all my life
When you're with me, baby the skies'll be blue
For all my life

Me and you and you and me
No matter how they toss the dice, it has to be
The only one for me is you, and you for me
So happy together

Me and you and you and me
No matter how they toss the dice, it has to be
The only one for me is you, and you for me
So happy together

So happy together
How is the weather
So happy together
We're happy together
So happy together
Happy together
So happy together
So happy together
(By Garry Bonner and Alan Gordon)

監督はアーミッシュの若者たちに密着したドキュメンタリー『Devil's Playground』を監督して世界中の絶賛を浴びたルーシー・ウォーカー。『Devil's〜』は日本未公開でぐりも未見なのだが、これを機会に観られるようになってほしいと思う。