落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

あめのみつかいの

2014年12月04日 | movie
『紙の月』

契約社員として銀行の顧客係を勤める梨花(宮沢りえ)は、顧客(石橋蓮司)の自宅で偶然出会った孫の光太(池松壮亮)と不倫関係に陥り、やがて彼に多額の借金があることを知る。学費のために借りた金の返済に苦しみ大学を辞めたいという恋人を救うため顧客の金に手をつけてしまう梨花だったが、一度ついた嘘を嘘で覆い隠すために横領を続けざるを得なくなる。
角田光代の同名小説の映画化。

ときどき梨花の中学時代の映像がインサートされるのですが。
ミッション系の女子校で、全校で貧困国の子どもを支援する募金活動をしている。募金を送ると子どもたちから手紙が届く。手紙を楽しみにしていた梨花(平祐奈)は、クラスメイトたちが飽きて募金を辞めてしまうと、父親の財布から金を盗んででも募金の穴埋めをしようとする。
おそらく梨花はいまのぐりと同年代くらいの設定だと思うんだけど、たぶんこの中学生時代と頭の中があんまり変わってないんだよね。裕福なお家に生まれ育って、お嬢さん学校で一見堅苦しいルールや暗黙の了解に囲まれて暮らして、ただただ「いい子」でいれば何不自由なく過ごしてこれた。だから、他人が決めた枠の中で見た目にうまくやれていればそれでよくて、ほんとうに大事にしなくてはならないこと、見失ってはいけないことを自分の頭で考えることがうまくできないまま大人になってしまっている。
安定した仕事に就いている夫がいて、一戸建てのマイホームで仲良く暮らして、好きな仕事も楽しんでいる。決して大金持ちではないにせよ、そこそこ恵まれている。それなのに窮屈さを感じるのは、主体性はないのに他人が決めた枠だけを意識しすぎているからではないのだろうか。

『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』『クヒオ大佐』『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八だし、宮沢りえはやたらめったら映画賞もらいまくってるし、つい期待し過ぎたのか、実際観てみるとなんだかうまく共感できなくて残念でした。
すんごい繊細に神経の行き届いたいい映画だとは思うんだけどね。どこも目立った欠点はないし。
舞台が1994~95年頃の設定になってて、バブル崩壊直後とはいえ日本がどっぷりと浸かってきた大量消費時代からまだ抜け出せないでいた空気が物語の軸になってはいるんだけど、ぐりはその当時はもうただただ阿呆みたいに働きづめで時代の恩恵にはあんまり触れた記憶がないので、映画の中の刹那的な馬鹿騒ぎにもうひとつリアリティを感じることができなかった。
梨花が光太に買い与えるMacintosh Performaや、証書を偽造するために駆使するスキャナーやプリントごっこは懐かしかったけどね。やたらいっぱいあのころのOA機器が出てくるのには妙に感心しちゃいました。

ただ、画面に何組も登場する梨花の顧客たちの金余りぶりには確かにかなりイライラしたので、なんだかんだいってどこかではちょっと共感してたのかもしれない。
宮沢りえはやっぱ綺麗だったね。あのりえちゃんももう40代、自然な年相応の美しさの迫力を着実に身につけている。ピチピチの10代のころには、彼女がこんな風に年を取れる女性になるなんて想像もしなかったな。
あと音楽がかっこよかったです。そもそも梨花のやってることは始めからバレて当然の行為な訳で、横領が始まったらあとはいつバレるかという問題でしかない。いつバレる、どこからバレるだろうというドキドキ感が音楽で巧みに表現されてました。逆にいえば、結果的にヒューマンドラマなのかサスペンスなのかどっちつかずになってしまったのが敗因になったような気もしなくもない。
映画全体としてはそれほど印象的ではなかったし、観てよかったかといわれるとそうでもない。観なくてもよかったかといわれるとそこまでじゃないけど、というところでしょうか。ビミョーでした。



パラサイトハンド

2014年12月03日 | movie
『寄生獣』

謎の生命体に右手に寄生された高校生の新一(染谷将太)。ミギーと名乗る寄生生物(阿部サダヲ)は知能が高く戦闘能力に優れ、本来はヒトの脳に寄生し他の人間を食べて生きる凶暴な性質を持つという。ミギー以外の寄生生物は毎日のように人を襲い、謎の連続惨殺事件として社会を震撼させる一方で、新一の高校に教師として赴任した田宮(深津絵里)や転校生として新一を監視する島田(東出昌大)は擬態した人間との共存を模索しようと試み・・・。
1988~95年に刊行された岩明均原作の同名コミックの映画化作品。前後編の前編。

おもしろかった。
これ原作は96年に全巻通しで読んでます。職場にあったんだよね。既に連載時から映画化権の獲得合戦がもりあがってて、その関係じゃなかったかなあ。確か同僚に「読んどいて」とかいわれて手に取った記憶がある。
でもまあなにしろ18年前ですから大して中身は覚えてないです。思い入れもないし。
ただSFアクションコミックとはいえ決して子ども向けの物語ではなく、人間本来の倫理観と生命観の相克が大きなモチーフになっていて、雰囲気はかなり重かったような印象はある。

映画にはその重さはない。ストーリーそのものはそれほど原作から離れてないはずなんだけど、主人公・新一とミギーの関係の軽さが、映画全体のバランスを取るのに非常に効いている。
けどなんだかんだいって見どころはやっぱアクションシーンね。アクションったって寄生生物は首から上だけで暴れるので、いわゆる従来の殺陣のようなおもしろさとは違う。彼らの頭の奇想天外な変幻自在さとでもいうのだろうか。これくらい思いっきりムチャクチャやれるってさぞ気持ちよかろーなー、というムチャクチャぶりが快感というか。

当然ながら寄生生物はCGでつくられてるんだけど、これ結構うまいことできてますよ、うん。全然期待してなかったけど(爆)、ちゃんとしてる。何が素晴らしいってね、はじけた頭を巨大な凶器に変えてふりまわすときの重量感や、しなやかな弾力性がすっごくリアル。筋肉って感じ。よくできてます。
登場人物ではね、東出昌大演じる島田秀雄がサイコーにキモくてよかったです。自分では人間に馴染んでると思ってるみたいなんだけど、能面のように固まった不自然な笑顔がもう超キショイ。笑える。あとこのヒト映画後半ではずっと変身したまま延々暴れるシーンが続くんだけど(つまり東出くんの秀麗なご面相はいっさい画面に映らない)、プロポーションが特殊すぎるせいなのか、たぶん全部自分で演じてるんだよね。大変だなあ、まだやるんだ、アレまだ死なないんだ、なんて感心しながら観てしまった。

実をいうと暴力シーンはどっちかというと苦手なぐりだけど、ここまで現実離れしてるとうまく楽しめるもんです。
後編は来年4月公開だけど、今から楽しみ。