幼いころから父親に射撃を仕込まれて育ったクリス(ブラッドリー・クーパー)は海軍に志願して特殊部隊の狙撃手となり、イラク戦争に4度派遣され160人以上を殺害した。
私生活ではタヤ(シエナ・ミラー)という美しいパートナーと子どもにも恵まれるが、帰国しても戦地のことばかり考えている夫と妻との心の距離は埋められず・・・。
米軍史上最強のスナイパーと呼ばれたクリス・カイル本人の自伝の映画化。
「アメリカン・スナイパー」射殺した男に有罪 米裁判所
というわけでいきなりネタバレですみませんがもう報道されてますしご勘弁をということで。
ぐりはてっきり、彼のこの最期があったからこの映画がつくられたんだと思ってたんだけど、映画化そのものは生前から決まってたみたいですね。でも残酷なことをいうようだけど、あのラストシーンがこの物語のすべてといっても過言ではないと思う。
クリスは確かに優秀な狙撃兵であり、良き父・良き夫でもあり、献身的な奉仕活動家でもあったのだろう。だがそれだけではなかった。
戦争はそれほど単純なものではない。
物語自体は非常に単純で、正直にいってこんなに淡々としていていいのかと思うくらい静かである。
舞台のほとんどが戦場だから、物理的に「静か」なわけではない。弾丸と怒号と悲鳴が飛び交い、ばたばたと人が死んでいく。だが常に冷静なクリスにはいつも何の躊躇もない。戦場では彼は何ひとつ恐れていないようにみえる。よしんば恐れていても、彼はその感情を完全にコントロールしている。その凪いだ海面のような彼の心が、戦場を静かに感じさせる。
といっても彼がいっさいの恐怖を感じていなかったわけではない。家に帰ってきてもいつも虚ろな表情で、妻に何を訊かれても戦場でのことを話すことができないクリス。街でかつて助けた退役軍人に感謝の言葉をかけられても、少しも嬉しそうじゃない。戸惑ったような、何か怖いものにでも出くわしたかのような顔しかできない。精神科医のカウンセリングを受けていても、決して心を開いてほんとうの気持ちを言葉にすることができない。
中西部の保守的な家庭で厳格な父に育てられた彼にとっての「正義」や「強さ」の定義がいかに窮屈なものであったかが、本来は饒舌なはずの彼の無言の表情から感じられる。その窮屈さにこそ、彼は矛盾と恐怖を感じていたのではないかと思う。その矛盾が、平和を、国を、仲間を守りたいと強く願う彼の信条それそのものが、実際には人の命を危険にさらしている事実に直面したとき、彼は自分自身の愚かさに初めておののくのだ。
観てしまってからいえることだけど、この作品が賞レースで話題になっているのは映画そのものの質というよりはイーストウッドというブランドが大きく影響しているのではないかと個人的には思います。
ぶっちゃけそんな大した作品じゃなかったです。ゴメン。
いい映画だけど、観て損はないけど、観なきゃいけないような作品でもない。
戦争映画としては普遍的な作品だし、ハズレではないんだけどね。
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『サラーム・パックス バグダッドからの日記』 サラーム・パックス著