落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

東京国際映画祭 『ビヨンド・アワ・ケン』

2004年10月30日 | movie
大陸出身でミュージシャン志望のラン(陶紅タオ・ホン)は、ある夜見知らぬ女性ジン(鍾欣桐ジリアン・チュン)に「初対面だけどあなたを知ってるわ」と声をかけられる。実はジンはランの恋人ケン(呉彦祖ダニエル・ウー)の元カノで、交際中にベッドで撮った写?^をインターネットの投稿サイトに掲載されてしまい教師の職を失ったと云う。ケンの部屋のパソコンにまだ残っている写真を始末するため結託するふたりに、やがて不思議な友情が芽生えていく。

いやー最高です。めちゃめちゃ面白かった。彭浩翔監督(パン・ホーチョン)スゴイよ。私ゃファンになっちまったよ。
この作品にめぐりあわせてくれたダニエルに感謝です。彼が出てなかったらたぶんコレ観なかったもんね。やっぱ役者の力は偉大です。いろんな意味で。

この物語はひとりの男性を挟んでふたりの女の子の間に連帯感が育っていく過程を通して、あやふやな人間関係の意外な側面を描いてるんだけど、そんな理屈は抜きにしてシンプルな語り口、テンポの緩急、人物やストーリーの見せ方が非常に洗練されてます。
観客がげらげらくすくす笑ってるうちにどんどんどんどん話が転がってって、それこそしゃっくりもとまるほどのどんでん返しまで考えさせる隙を一切与えない。よくよく考えればジンがあれほどの犠牲を払ってまでしたかったことは何なのか、ランがなぜジンに協力したのかと云う根本的な部分がほとんど説明されてないんだけど、作品を観た印象ではそんな裏読みよりも「現実として我々人間が受けとめている表象のあやうさ」と云うテーマがさらにきっちりはっきり表現されてしまっている。
もうホント彭浩翔には脱帽です。本当にあなたはオトコなの?というくらいよく女性を知り抜いている(そしてまだ31歳)。しかもこの映画では女性のいろんな面が出て来るんだけど、それが全く不快でない、女性の目から見ても反感を覚えないギリギリにスパイシーな描写がまた上手いです。男性(この場合ケン)に関してもまた然り。

事前情報ではロケやらポスプロやら制作日程が異常に短かったとかで、正直「大丈夫かい」と思ってたんですが、流石仕事の早い香港映画、そんな慌ただしさは画面からは微塵も感じさせない。むしろかなりきちんとつくられた映画と云う印象を受けました。
ティーチインで監督が云うには、脚本に10ヶ月をかけ女性シナリオライターと監督がオフィスにカンヅメになって、書いた台本を実際にふたりで演じてみては直すと云う作業を繰り返したそうで、なるほど撮影前のプリプロにしっかり手間ひまかけた結果がこの完成度なのかと、納得することしきりでした。

あと音楽が良かったです。クラシックからロックまでいろんなジャンルの音楽が的確に使われている。主題歌の「Amandoti」(Ginanna Nannini)なんかもうもう超クールですー。
女性ふたりの衣装がガーリーでとっても可愛かったけど、クレジットを見るとスタイリストは日本人でした。
それとロケ場所も香港映画らしいオシャレな選び方をしている。ぐりはこういう香港の都市生活者が主人公の映画を観るのがヒサビサだったせいか画面に登場する街の風景がやけに懐かしくて、急に「香港行ってみたいなぁ」と思ったです。シーンごとに映る街角にいちいちこれはあの映画のこんな場面に出て来たお店、あれは誰それが誰それと歩いてた通り、とかつて観た作品がそれぞれに思い出されて、そんな部分でも大変楽しめました。
にしても中国人てよく食うなぁ。特にこの映画はカフェやらバーやらレストランやらステキな店が次から次へと出て来るし、ジンが失恋してヤケ食いしたりもするので食べるシーンがすごく多いです。ナニかっちゅーと食ってばっかっす。中華電影は観る度ごはんおいしそうだなと思わされるけど、これはまたかなりキョーレツに胃を刺激される映画でした。食べてるのは弁当やケーキやラーメンと云ったなんてことないごく庶民的なメニューなんだけどね。

とりあえず隅から隅までぎっちり実の詰まった高品質なエンターテインメント映画です。日本での公開も決まってるそうですが、公開されたらまた行くと思うし、旧作も次回作も是非観たい。
王家衛(ウォン・カーウァイ)や陳果(フルーツ・チャン)に迫る新しい才能の登場に拍手。

夜叉ヶ池

2004年10月28日 | play
映画祭期間中ですが今日は舞台を観て来ました。結構ヒサビサかも。
実は仕事もあるしチケットとったのもかなり前でもういっかーとか思ってたんですが、ビンボー症は¥8500のチケット代が惜しかった。

原作は泉鏡花、脚色は長塚圭史、演出三池崇史、美術会田誠。三池さんは本職は映画監督だから舞台の演出は珍しいと思うんだけど、会田さんももともと日本画家なので舞台美術は門外漢ですね。ぐりは偶然ですが会田氏の芸大の修展を観てます。その頃から異色のアーティストではあったけど一時はなかなか作品が売れなくてビンボーをネタにしてたくらいなのに、パルコ劇場の舞台美術をやるとは出世されたものですなー。
出演は武田真治/田畑智子/松田龍平/松雪泰子/遠藤憲一/きたろう/萩原聖人/丹波哲郎など。

面白かったです。わざわざ時間つくって観に行った甲斐はありました。長塚圭史の舞台をぐりは観たことないんだけど、機会があれば是非観てみたいと思ったです。泉鏡花の修辞のクドイ本をさくっと現代風にアレンジしつつ本来の世界観も活かしつつ軽妙なテンポを上手く加えてあって、観てる方を疲れさせず飽きさせない。
期待した舞台美術は全くフツーでした。会田氏の作風からもっとえげつないのを想像してたんだけど。
三池色もそれほど濃くなかったです。三池作品によく出て来るちょっとホモ?っぽいシーンは一応あったけど、それ以外に三池ワールドを強く感じるようなところは特に印象に残りませんでした。
たぶんこのメンツを揃えたプロデュース側の意図よりもかなりあっさりした仕上がりの舞台になったんじゃないかと思います。

意外に感じたのが松田龍平と松雪泰子。
ぐりはこのふたりの舞台を観るのが初めて(松田氏は初舞台ではなかろーか)なんですが、すっごい舞台にハマってました。っつうか松雪嬢はTVよりむしろ舞台の方が似合ってると思った。非現実的で感情過多な芝居がもろに舞台女優!!な感じで。ただカラダが物凄く細いのでちょっと痛々しいとこはありますね。
松田氏の方はこれまでのイメージとは全く違ったキャラクターを何のてらいもなくしっかり演じてて、21歳とは思えない貫禄を感じました。10歳以上年上の武田真治の兄貴ぶんと云う設定も何の違和感もなかったです。各方面で心配された「声が小さい、活舌が悪い」問題もちゃんとクリア(当たり前か)。しかし喋り方がとーちゃんソックリだよ。おそるべしDNA。
上背があるから舞台映えもするし、演技も堂々としてました。とりあえず初舞台には見えなかったよ。そしてやはり麗しかった。久しぶりにナマで見ましたが、いつ見ても肌がめちゃくちゃ綺麗で妖艶です(全然そんな役じゃないんだけど)。ホント見る度に生まれながらにしてスター、ってこんな子のことを云うんだなぁとしみじみ感じます。

主役の武田真治は可もなく不可もなし。舞台俳優としてもベテランの筈だけど、ところどころで台詞を噛んだりもしてていまひとつ観客のテンションが上がるような演技にはなってなかった気がする。田畑智子は明らかにミスキャストですな。彼女は彼女なりの魅力はあると思うけど、このユリ役だけは合ってないです。雨乞いの生け贄に選ばれるような村一番の美女って、そんなキャラじゃないっすよ。
ただまぁこのふたりも与えられたぶんの役はきちんとこなしてたし、見てて齟齬が気になると云うほどのことは全くなかったです。

ぐりは泉鏡花の小説は好きなんだけど、よく考えたら舞台を観るのは初めてでした。いつか『滝の白糸』が観てみたい。
ところで今日の舞台、丹波哲郎の出番でプロンプターの声が客席に筒抜けでした(笑)。最初何の音かと思ってビビりましたよー。カーテンコールの時も他のキャストに介助されてたし、丹波さんもトシとったんだね。

東京国際映画祭 『可能なる変化たち』

2004年10月26日 | movie
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すっっっごい良かったです!
『ジャスミンの花開く』がぐり的にNGだったのと、その後の予定が無くなってヒマになったのでたまたま入って観たんですがこれがもう大当たり!!!ですわ。タマにこういうことがあるとやっぱり映画って面白いもんだなぁと思いますね。
ホントに偶然時間があっただけなんだもん。おまけにティーチインまでついてて監督やプロデューサーにもいろいろ訊けて(終了後にも時間をとって個人的に質問に答えてくれた。良い人たちだー)、プレゼントも貰えました。超ラッキー。監督ええオトコやったなぁ。

『可能なる変化たち』は韓国映画。監督は新人だそうで脚本はオリジナル。
主人公のムノとジャンギュは30代半ばで幼馴染み同士。ただ熱かった若さに別れを告げ自分の人生に漠然とした不安を感じはじめたふたりは、それぞれに変化を求めてラブアフェアに耽ろうとする。ムノは妻子がありながら出会い系で知り合ったエリートOLと不倫関係を結び、ジャンギュは初恋の女性に会いに行き既に結婚している彼女とやはり肉体関係を持つ。
全体のトーンは非常にクールかつドライで、ふたりの男の極端にデフォルメされたキャラクター─身勝手で色欲過多─や必要最小限まで削られたストイックなダイアローグ、静かに落ち着いたカメラワークや抑えに抑えた演出が大変個性的なスタイルを形成してます。なにより、30代になっても未だに自分がどこから来てどこへ行こうとしているのか分からないと云う不安感を限りなくリアルに再現した世界観にぐりは物凄く共感しました。
低予算で制作されたとのことですが、それによって監督がどこかで妥協したような形跡は一切見受けられないし、本人も観客や世論など対外的なことを意識的に排除して自分の好きなように撮りたいものを撮ったと云ってました。そう云う発言を聞くだけでなんか勇気出たよぐりは。そーだよね、結局自分のしたいことをちゃんとやりきることが大事なんだよね。

淡々とした語り口の台詞の数々がまた印象的です。
曰く
「どんなに愛しあっていても、本当に分かちあえるのはほんの一部分でしかないのよ」
「意識不明の時は死ぬのが怖かった。でも今は生きていくのが怖い」。
有名スターも出ていない、監督にもこれと云った実績もない。韓国での一般公開も決まってないと云うインディーズ作品ですが、ぐりは心から成功をお祈りしております。頑張って。

東京国際映画祭 『ジャスミンの花開く』

2004年10月25日 | movie
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※これからこの作品をご覧になられる方は読まないで下さい。毒吐いてます。

これはですね、えーとぐり的には失敗作でした。監督が新人ってのと、やっぱり章子怡(チャン・ツーイー)にこれほどの大役は無理だったってことですね。陳冲(ジョアン・チェン)はスゴイよ、姜文(チアン・ウェン)も流石名優ですよ、しかしツーイーにこのひとり3役はキツかったよ。
物語は1930年代〜現代の上海を舞台に茉、莉、花と云う三代の母娘の一生を描いた一大叙事詩、大河モノです。ツーイーはこの3人の女性のそれぞれ若年期を、陳冲は茉の母親と茉の熟年期〜老年期の2役を演じてます。
陳冲が見事にこの2役を演じ分けているのに対して、ツーイーは与えられたシーンをこなすので精一杯、キャラクターの細かい心理描写を再現すると云った余裕が一切ないのが画面からも見てとれてしまう。見るからにいっぱいいっぱいって感じでした。
ただ彼女のファンにとってはおいしい映画かもしれない。着飾ったツーイー、歌うツーイー、眼鏡っ子ツーイー、分娩するツーイー、いろんなツーイーが見れます。出ずっぱり。衣装も髪型もいろいろ。

っつうか物語がぐりの好みじゃない。多分に前近代的過ぎて。
茉、莉、花の3人はそれぞれ父親のいない家庭に育ち、厳格な母親の忠告に耳を貸さず自分の感情のままに恋をしては大失敗すると云うお粗末人生を世代を超えて繰り返すんだけど、その物語の描き方、視点、切り取る側面がいちいち一面的で発展性に欠けている。
確かに親の云うことを聞くのも大事かもしれない、女がひとりで生きてくだけでも大変なのに私生児を生んで育てるなんて苛酷過ぎるかもしれない、でも人の暮らしは決して幸不幸や運不運だけで語りきれるほど単純ではない。
つまりヒロインたちが実際そこまで不幸でもない筈なのに、あくまで個人的なレベルの不幸以外の要素が画面に足りない。中途半端に映像的な装飾─やけに派手な情景描写や安易に情緒的な心象風景─が多くて、長い原作小説のダイジェスト版みたいな構成でしかも全体のバランスが上手くとれていない。たとえば背景に日中戦争や文化大革命と云った歴史的な大事件があるのにストーリー上ではほとんど無視されていて、波瀾万丈な彼女たちの家庭内の不幸ばかりに視点が偏っているために、却って物語が冗長に感じられてしまう。要するに構成が観念的な上に大味なんですわ。監督と主演女優の力不足ってのも致命傷ではあるけれども。
あとね、妊娠やら出産のシーンがあるのにラブシーンどころかキスシーンもないのはやっぱリアリティないですよ。ヒロインがオトコに失敗し続けるストーリーそのものに説得力が出ませんて。つうかヒロインと恋人・夫との愛情を感じるシーンが全く印象に残ってないのはこはいかに。


劉燁は第3章の花の夫・杜役。ヘタレです。またしても。
夫と云っても下放先で彼女と親しくなり結婚はするものの帰郷直後に遠方の大学に進学、ろくに帰省もせずに卒業後は日本に留学しそのまま妻を見捨てて他の女に走ってしまう、と云うひとでなしを絵に描いたようなオトコの役です。遠恋ならぬ遠距離夫婦なので実質的な出番も少なめ、ツーイーとラブ♪みたいなあったかいシーンもほぼ皆無(笑)。
それにしてもこの人は素なのか芝居なのか、どれだけヒロインに冷淡な台詞を吐いててもさっぱり悪意というものが感じられないですね。とにかくもうどーしよーもないバカ男(アタマの方はお利口かもしらんが)ってキャラがめっちゃハマってました(笑)。トクなんだか損なんだかよく分からない役です。


本国では来年の旧正月に公開予定だそうです。さて中国人はどんな判定を下すのやら。

東京国際映画祭 『青春愛人事件』

2004年10月24日 | movie
タクシードライバー小謝(劉燁/リウ・イエ)の恋人・琳琳はしょっちゅう失踪している同居人の元彼女。アパートの隣人・莫さんは中年でカツラで同棲中の恋人・芬までいるのに、女の尻を追いまわしてばかりいる。ある日莫さんが連れこんだ少女・柳芭が小謝の部屋に転がりこんでくる。奔放な柳芭につきまとわれ振り回される小謝。芬の昔の恋人・涛が刑務所から出所し、莫さんは芬のために街を出ることを決意するが・・・。

ムチャクチャ面白かったです。もう大爆笑です・・・ってもナゼか他の観客は全然笑ってなかったのでぐりも声を出さずに心の中で爆笑&七転八倒してたんだけど。ウケ過ぎかなぁ。確かにストーリー展開がやたらテンポ良くてトリッキーで、完全に10代から20代前半の若者向けのごく軽いノリのエンターテインメント映画っぽかったから、当日観に来てた大半が30代後半以上と云う客層にはダイレクトにはウケにくいかもしれない。
ぐりはこう云う現代的な都会派ラブコメディ(あのスタバでロケしてたり出会い系サイトのチャットでナンパするおっさんが出て来たりする)って中国映画では珍しいと思うんだけど、実際のとこどーなんでしょー。少なくとも日本で公開されてる中国映画ではあんまり見ないタイプじゃないでしょーか。
それにしてもスタバでロケって日本じゃ絶対出来ないのになー。劉燁効果なのか?

その劉燁、この小謝役はホント傑作ッス。作中で彼を称して「退屈な人」と云う台詞が出て来るんだけど、ホントに平々凡々と穏やかで誠実なだけが取り柄の、さっぱりイケてない男の子。年寄りでもないのに若さもないし衣装も髪型もダサいしモロにヘタレ!!って感じなんだけどこれがまたおかしいほどハマってます。そのハマり具合がまた笑える。面白い。
しかしこう云う受けの芝居─周りの登場人物や状況に反応するだけのキャラクター─と云うのはかなり演技が上手くないと保たないので、そう云う意味では与えられた役を非常にしっかりとこなしてるな、流石演技派だなと思わせる芝居です。ただ彼をアイドルとして見たいファンにとってはどーだろなーっとは思う。そのくらいヘタレです。ぐりは好きだけどね。

観る前はもし下らないアイドル映画だったりしたらどーしよー、と思ってましたが、まるっきりの杞憂でした。内容が内容だから傑作とは云いにくいけど、よく出来た娯楽映画だとは思います。拍手。