ふろむ播州山麓

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世界の潮流 見聞雑記 (3)

2016-09-13 | Weblog
<英国のEU離脱>

 英国の6月23日の国民投票の結果には驚いた。まさか欧州連合EUからの離脱を国民の多数が選択するとは、損得勘定からありえない結論であろう。大きな原因のひとつは、EU加盟の全国民をルールで縛る欧州委員会の横暴だといわれている。各国民が直接選挙で選んだわけではない特権階級の欧州委員会の委員たちが、自分たちの頭だけで判断して各国民に強制する。欧州委員会の委員たちは秀才のエリート官僚であるが、彼らは欧州連合所属の国民たちに無理難題を押し付けている。英国民が国民投票で「ノー!」と叫んだのは、官僚主義のエスタブリッシュメントに対する反撃でもあった。

 フランクフルトのフォルカー・ビーラント(ゲーテ大教授)は「英国の多くの有権者は、自国政府や議会の権限をこれ以上EUに渡したくないと判断した。BREXITに対し、欧州統合の強化を求めることは適切ではない」

 また独日刊紙「ターゲスシュピーゲル」6月27日付は、「EUでは官僚主義が蔓延し、市民生活から隔絶していると、多くの欧州人は考えていた。BREXITは、EUがこれまでたどって来た道が誤りであったことを証明したのかもしれない」

 少し長い文ですが、竹下誠二郎(静岡県立大学経営情報学部教授)「Brexitの真犯人 官僚主義がはびこる欧州委員会の大罪」(週刊ダイヤモンド 16年7月23日号)を転載します。
 「英国の欧州連合(EU)離脱は欧州委員会に対する不信任案だ。Brexitの論議は英国の経済とその波及にとどまっている感が強いが、欧州委員会らの行政姿勢が劇的に改善されなければ、英国に追随する国が続出する可能性は高い。 
 欧州委員会は深刻化する移民問題を憂える声に対し、「ゼノフォビア」(外国人嫌い)や「イスラマフォビア」(イスラム嫌い)のレッテルを貼り、多元文化主義を念仏のように唱え続けた。その結果、移民問題は西欧や北欧の国民の不安と怒りを増大させ、右翼化を爆発的に加速させた。
 多くの警告を無視して突き進んだ緊縮財政策がもたらしたものは、南欧の極めて高い失業率と欧州のさらなる南北格差だ。ギリシヤのGDPは30%も落ち込み、失業率は25%を超え、人口の3分の1は貧困層となっている。失政のかじ取りを大きく変える動きも反省もなく、南欧のEUに対する不信感は怨嗟に変わりつつある。
 国民の声を聞く耳を持たない例は枚挙にいとまがない。EUでは電力を無駄にしている消費者を「再教育」するために、2014年に1600ワットの大型掃除機の販売を禁止した(しかし新規制下の機種では吸引力が弱い分、長く掃除機を使わなければいけないため、電力消費量は増加)。バナナやきゅうりの曲がり具合を規制しようとし、レストランでオリーブオイルを浸す皿を禁止しようとした。「欧州のトイレ水分使用量の統一化」に2年半の歳月と費用をかけた60ページにもわたる「技術レポート」はまだ(幸いなことに)日の目を見ていない。このような政策が矢継ぎ早に出るのも、EUの官僚主義が末期症状にあるからだろう。常に「上から目線」で、各国の事情を考慮しない姿勢にはフランシスコ・ローマ教皇までもが苦言を呈したほどだ。
 EUの行政機関における官僚主義はトップから下層にまで深く浸透している。ルクセンブルクで多国籍企業の脱税を促すタックスヘイブン(租税回避地区)の基盤を作り上げていたことが暴露された欧州委員会トップのユンケル委員長は、批判が高まっても引責はおろか、謝罪の言葉もない。6月23日のBrexitでも「逆ギレ」をして英国に脱EUの手続きを催促し、メルケル独首相に戒められる有様だ。
 英国の離脱により、EU基本条約の改正が必要となる。その際には表面上の条約改定だけではなく、執行部の官僚制の廃棄が求められている。移民問題、右翼化・国家主義の高まり、保護貿易主義への回帰の可能性、シェンゲン協定(国境検査をなくす協定)の崩壊、ロシアの脅威、地域独立運動など、EUの問題は山積みだ。これらに前向きに取り組める組織力が果たして欧州委員会にはあるのだろうか? 答えは否、だ。EUの行政は各国民の直接選挙で選ばれる欧州議会へ権力を早急に移し、欧州委員会の提案を否決する力を与えるべきだ。
 EUの行政を擁護する人たちは必ずと言っていいほど「これだけ多様な格差や価値観を取りまとめなければならないため、困難が伴う」という主張を展開する。しかし、困難を伴うのは承知の上だ。その困難な統治が無理ならば、それはまさにEUが拡張し過ぎたことの証しなのではないだろうか。」
<2016年9月13日>
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