ふろむ播州山麓

京都山麓から、ブログ名を播州山麓に変更しました。本文はほとんど更新もせず、タイトルだけをたびたび変えていますが……

電子書籍元年2010 №9 「長尾真構想」

2010-08-14 | Weblog
 電子書籍元年、注目される人物のひとりが、長尾真・国立国会図書館館長です。14年も前のインタビュー記事を読みました。日本経済新聞論説委員だった西村武彦さんの著作『半記』に採録されています。当時、長尾先生は京都大学付属図書館長。のちに京大総長をつとめられました。1996年11月2日の日経新聞掲載。

 情報技術革新の時代、本の未来はどのようになるのでしょうか?という、西村氏の問いに「電子新聞がいつ、どのような条件の下で実現するか。出版のありようが変わる前に、この変化がどの程度、顕著になるかによるだろう。…精度の高いポータブル(携帯用)の端末機ができて、それに電子新聞が乗り、綺麗に活字が読めるようになればよい。…端末機の普及も大切な問題で、実用性が高いから、急速に安くなるだろう」
 そして電子書籍の普及について、「根拠はないが、20年後(2016年)には70%が電子化、30%は紙の本と予測している」
 電子出版から、社会的にいろいろ問題が出てくるのではないか、という西村氏の質問に「人間の精神構造にどのように影響するかとか、取り返しのつかない要素があるとすれば、気を付けねばならない。一般に科学に対する批判が増えてくる可能性があるから、その辺のことをしっかり認識してかかる必要がある」
 
 10数年も前の発言ですが、ごく最近、日本経済新聞と産経新聞は、有料のWeb配信を開始しました。産経は発売なった端末機<iPad>で読める。鮮明で読みやすいようだ。

 この7月に新刊『ブックビジネス2.0ーウェブ時代の新しい本の生態系』が刊行されました。実業之日本社、共著。長尾館長は同書で「ディジタル時代の本・読者・図書館」を分担執筆されています。
 「2010年は電子ブック元年といわれる年になるかもしれない。電子書籍端末装置が日本でも売り出され、新聞も電子配信」が始まった。
 国会図書館では昨年の著作権法改正で、所蔵するすべての本をデジタル化することが可能になった。また同年の補正予算によって、90万冊の書籍の電子化の目途がたった(全蔵書図書数は900万冊)
 国会図書館のすべての蔵書をデジタル化し、法律で義務づけられている紙本1冊の納本を、これからは出版社がデジタル情報でも納めるようにしたらどうか。そうすれば日本の本のまずすべてを、国会図書館のデジタルアーカイブで読むことができる。
 著者に印税、出版社に手数料を払わねばならないので、非営利法人「電子出版物流通センター」とでも称する団体を経由して、読者に課金すればよいのでは。長尾構想・ジャパニーズブックダム計画とも呼ばれる。壮大な構想です。

 しかし麻生自民党政権のおりに120億円も配された電子化予算ですが、民主党時代になって、これからはあまり期待できない可能性が強い。なおそれまでのデジタル化予算は毎年1億円ほどだったので「一気に100年分の予算がついた!」と、図書館関係者は驚いておられた。
 国立国会図書館は名の通り、国立であり、運営を国家予算に頼っている。すばらしい構想も、長期にわたる財政基盤がしっかりしてこそ実現します。現状では、あまりに基盤が脆弱すぎます。

 国立国会図書館法第2条には、「図書及びその他の図書館資料を蒐集し、国会議員の職務の遂行に資するとともに、行政及び司法の各部門に対し、更に日本国民に対し、この法律に規定する図書館奉仕を提供することを目的とする。」
 あくまで国立の官、議会図書館なのです。電子書籍のインフラは、民が互いに競いながら、官とも連携しつつ進めるのが、あるべき姿ではないでしょうか。予算次第の官主導は、危険です。
<2010年8月14日 しばらくお盆で休載します>
コメント
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