ふろむ播州山麓

京都山麓から、ブログ名を播州山麓に変更しました。本文はほとんど更新もせず、タイトルだけをたびたび変えていますが……

電子書籍元年2010 №5 「我、電子書籍の抵抗勢力たらんと欲す」前編

2010-08-01 | Weblog
 京都府庁の西となりに、老舗印刷屋があります。創業慶応元年1865。木版・活版・電算写植…。常に時代の先端を走ってきた印刷会社です。新時代に向けた変革進化は「京都の奇跡」とよばれてきました。社是は「印刷を通じた文化学術への貢献」
 1990年代半ばには、文化学術の発展はこれからは紙ばかりではなく、インターネットにあると判断。1999年からオンラインジャーナル事業を開始した。現在、日本のオンラインジャーナル市場では他社の追随を許さないほどに、事業は発展している。:同社ホームページ参考

 中西印刷専務の中西秀彦氏が最近、新著を上梓された。『我、電子書籍の抵抗勢力たらんと欲す』2010年7月刊・印刷学会出版部発行・組版印刷製本:中西印刷。
 なんとも過激なタイトルですが、印刷出版業界の論客としても知られ、同社の活版活字を1992年に全廃、電算化したのも中西秀彦氏です。中西印刷にしかない特殊活字、たとえば西夏文字までもが、電算写植に転換された。

 先代の中西亮社長(1928~1994)は世界中の文字を集めた研究家・コレクターとしても有名な方でした。なお亮氏は秀彦氏の父上。
 文字は「各国各民族の歴史的・宗教的・言語的所産、すなわち文化の結晶そのものであるといってよい。/各民族の文字の美しさ、多様性に魅せられて、私はここ二十五年来世界の各地を旅して来た。文字使用の実際を自分の目で確かめ、文字の標本―特に手写本を自分の手で集めるためである」:中西亮著『文字に魅せられて』1994年刊・同朋舎出版発行。
 中西亮氏の海外の旅は、57回におよび、訪れた国は110カ国をこえる。彼の没後、膨大な文字コレクションは国立民族学博物館に寄贈された。数多くの印刷文献、全世界の新聞など、それらは生きた文字資料といわれています。
 
 秀彦氏も父君同様に、文字・活字そして紙印刷への思いは深い。しかし手をこまめいていては、紙印刷屋なかでも出版に頼る印刷屋は、電子化の流れの中で凋落してしまうであろう。秀彦氏の新著とブログ「フロム京都」から抜粋引用してみます。
 「電子書籍は脅威です。紙の本よりもはるかに魅力が多い。検討すればするほど、電子書籍の発展は間違いないと考えるのです。だからこそ『抵抗勢力』に(出版印刷業・印刷屋として)ならないといけないわけです。圧倒的な脅威があるからこそ、抵抗しなくちゃならない」

 電子書籍元年といわれる日は、とっくの昔にはじまっていた。活字が消えたとき、活版印刷が終わったとき、実は紙の本は終わっていた。手書原稿、鉛の活字、それら物質物体は、情報としては何の役にも立たなかった。「ところが、ワープロやDTPの画面は印刷の中間形態であるとはいうものの、画面の上で読もうとすれば読めてしまう。情報になりうるのである。情報媒体が紙である必然性がそのとき失われた」
 「このままでは電子書籍の魅力を語れば語るほど、書店や印刷会社すべてが電子書籍への抵抗勢力となってしまう危うさを感じる。もちろん、私自身も含めてだ。あえて出版社とはいわない。彼らはコンテンツビジネスでしたたかに生き抜いていくだろう。/私は電子書籍の利点や有効性を露も疑ったことはない。むしろ電子書籍が失敗を続けていた頃からずっと関心をもって見守り続け、電子書籍に愛着を感じてさえいる。逆説的だが、愛情あればこそ現状の動きには警鐘を鳴らしたいのだ。抵抗勢力との闘争の中で電子書籍が出版や本もろとも滅んでしまうこと、これだけは避けたい」

 また文章が長くなってしまいそうです。著書『我、電子書籍の抵抗勢力たらんと欲す』については続編で、近いうちに記載します。なおこの本を書くにあたって、中西さんは中高生のふたりの息子さんに助けられたと記されています。特にゲーム、アニメ、若者向け動画技術など、確かにおじさんは、時代の先端を行く子どもにはかないません。
 読了しての感想は、家庭味まで感じる軽妙にして最新先端を行く警書、未来の展望方向を示唆してくれる優れたガイドかつアドバイス書、そのように感じました。それでは、続編はまた。
<2010年8月1日>
コメント
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