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「空のあらゆる鳥を」チャーリー・ジェーン・アンダース

2021年08月30日 | 本(SF・ファンタジー)

地球と人類の破滅目前に

 

 

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魔法使いの少女パトリシアと天才科学少年ローレンス。
特別な才能を持つがゆえに周囲に疎まれるもの同士として友情を育んだ二人は、
やがて地球と人類の行く末を左右する運命にあった。
しかし未来を予知した暗殺者に狙われた二人は引き裂かれ、別々の道を歩むことに。
そして成長した二人は、人類滅亡の危機を前にして、
魔術師と科学者という対立する二つの秘密組織の一員として再会を果たす……。
ネビュラ賞・ローカス賞・クロフォード賞受賞の傑作SFファンタジイ。

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SFファンタジーですね。

少女パトリシアは魔法の才能を持ち、少年ローレンスは天才的な科学の頭脳を持つ。
しかし、その才能があまりにも人と違い特別であるが故に、
二人は周囲になじめず、いじめの対象となり、そして親にさえも疎まれる。
孤独な二人は互いに寄り添い、友情を育みます。
しかしやがて二人は引き裂かれ、別々の道を歩むことに。
そして成長した2人が出会うところから、物語は大きく動き始める。

 

この2人の生きる時代設定が、ユニーク、
というかユニークなんて言っている場合ではないのかも知れません。
地球の環境破壊が進み、各地で大災害が多発。
人が安心して暮らせる場所が次第に限られたものになっています。
こうなると各地・各国間の諍いはますます過激なものとなり、
余計に安全な生活が遠のいていく。

ローレンスは科学の力で、パトリシアは魔法の力で、
この地球の、そして人類の危機を乗り越えようとしているのです。
2人は個人としては互いに好意を持ち続けているのですが、
でも2人は組織の一員として活動しているわけで、
その組織は互いに相容れるものではありません。
この2人の揺れ動く気持ちが、なかなかリアルなラブストーリーになっていて、
そういう点でも楽しめます。

 

また、SNSと連動した人工知能は、もともとローレンスが構築したものですが、
それに命を吹き込んだのはパトリシアだった。
独自に密かに成長を続けていたそれは、やがて大きな救いをもたらすものとして登場します。
このあたりのストーリーに、ワクワクさせられました。

 

最近頻発する水害や土砂崩れ、異常な暑さ・・・。
日本だけではなく、地球上の各地からも聞こえてきます。
本当に、そう遠くない将来、このストーリーのような
人類の危機的状況に陥るのではないかと思えてしまうのが恐い・・・。

 

さてしかし、本作のように現時点では現実味のない「科学の力」は、
言ってみれば魔法と同じですよね。
そもそも、元々私は「魔法」の出てくるストーリーはちょっと苦手。
でもまあ、ここで言う「魔法」というのは、もともと「自然」が持つ力、という含みもあるのか。
科学VS自然という構図だと思えばわかりやすいでしょうか。
魔法というのはやっぱりご都合主義に思えてしまえて、
私としてはモヤモヤしてしまうのです・・・。

 

<図書館蔵書にて>

「空のあらゆる鳥を」チャーリー・ジェーン・アンダース 市田泉訳 東京創元社

満足度★★★☆☆

 



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