映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

インポッシブル

2013年06月21日 | 映画(あ行)
一番恐ろしかったのは、たった一人になってしまったとき。



* * * * * * * * *


2004年、スマトラ島沖地震による津波に襲われた家族の物語です。
実話を元にしていますが、
言うまでもなく日本はもっと間近でそういう体験をしているわけで、
また改めてその恐ろしさを感じ、背筋が凍る思いをしました。


この家族は5人。
夫ヘンリー(ユアン・マクレガー)、
妻マリア(ナオミ・ワッツ)、
長男ルーカス(トム・ホランド)とまだ幼い弟達2人。
タイのリゾート地にバカンスで訪れていたのです。
津波に襲われたのは12月26日。
つまりここのリゾート地はクリスマス休暇の家族で賑わっていたということ。
クリスマスの夜の平和な美しい光景からは
その後の悲惨な状況を想像することは難しい。



しかし、大津波は突然に襲ってきます。
母親と長男は同じ方向に流され、
必死で離れ離れにならないように手をつなぎ合わせます。
濁流には雑多なものが渦巻いており、母親は大きな傷を負ってしまう。



通常のドラマならば、そこで気を失った母は、
気がつくと病院の清潔なベッドの上にいたりしますよね。
でも今作はどうにもならない苦しい時を克明に追っていきます。
波に呑まれないよう、ただ必死。
一度大きな波は止まったように見えても
また次の波が来るかもしれないという恐怖。
情報など全くなく、傷を負い動くこともままならないので、
ひたすら救助を待つのみ。
ようやく現地の人に救出されるけれど、
言葉は通じないし、医療施設があるわけではない。
それからやっと病院へ運ばれるけれど、
そこも多くの人が運び込まれ、
母子が離れ離れで互いの居所がわからなくなってしまったりする・・・。
すべてが混乱の渦中。
夫や他の子供達がどうなったのか、それを知るすべもない。
災害というのはこういうものなのですよね。
東日本大震災を知ったつもりになっている私は、
やはり本当のことは何もわかっていなかったのだと、
思い知らされる作品であったような気がします。



この母と行動を共にした長男ルーカスは、
反抗期に差し掛かるという年頃。
母親は口うるさくて鬱陶しいと思っているし、
弟達の世話を押し付けられるもの不満。
そんなふうでした。
でも、傷を負った母を見てから、明らかに彼は変わります。
ああ、男の子だなあ・・・と、思わず眩しく見てしまう。
しっかり母を助けなくてはという責任感のめばえ。


父親のヘンリーは息子にこんなふうにいいます。
「一番恐ろしかったのは、津波がやってきた瞬間ではない。
子どもたちを見失って一人になってしまったときだ。」
助け合い、守り合う人がいるから
人は強くなれるのでしょう。
そしてまたそれは、肉親だけのことに限らない。
人と人とのつながり、思いやり、
そういうもので随分沢山の人が助かって、
生きる希望を見出していったのであろうことが見て取れます。



なにやら、自然災害が多発しているように感じられる昨今、
とても大切な作品です。

「インポッシブル」
2012年/スペイン・アメリカ/114分
監督:J.A.バヨナ
出演:ナオミ・ワッツ、ユアン・マクレガー、トム・ホランド、ジェラルディン・チャップリン、サミュエル・ジョスリン

家族愛度★★★★☆
災害のリアル度★★★★★
満足度★★★★☆



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