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「平家物語」 古川日出男訳

2022年04月10日 | 本(その他)

今さらながらの古典ですが

 

 

* * * * * * * * * * * *

本巻は池澤夏樹さん個人編集に寄るところの、
河出書房新社「日本文学全集」全30巻のうちの9巻目となっています。

恥ずかしながら「平家物語」、中高生時代に教科書に載っていた所くらいしか読んだことがありません。
それをなぜ今さら読むことにしたかといえば、
それはアレですよ、アニメの「平家物語」に触発されまして。
そしてまたちょうどNHKの大河ドラマでは「鎌倉殿の13人」をやっていて、
平家物語とは同じ時代の裏表の関係になりますしね。
この際きちんと読んでみようかな、と。
ところが、図書館予約しておいたこの本を受け取ったときに、
そのボリュームに一瞬ひるみました。
解説も含めると905ページ。
返却期限2週間で読めるかな?
それとも途中でめげるかも・・・。

でも、読み始めるとこれが意外と読みやすい。
それはひとえにこの訳者、古川日出男さんの力でありましょう。

 

さて、言うまでもありませんが本作、
平清盛を頂点とした平家の最も華やかな、裏返せば清盛の横暴でやり放題の時代から、
やがて清盛が亡くなり、その後一気に没落していく
平家のおよそ10年足らずの出来事が、ほぼ順を追って語られています。

今までマトモに読んだことはなくても、様々なエピソードの中には知っているものも多くて、
なるほどこれが原点だったのかと今さらながら思いました。

平家物語は「軍記物」とされますが、
実際に合戦の様子が描かれるのは全12巻(+1)のうちの第4巻から。
そのせいかもしれませんが、そこまでは割と読み進むのもゆっくりめで、
すぐ眠くなります・・・(!)。
ところが、「橋合戦」と呼ばれるその最初の合戦の所から
文調もはっきりと変わって、躍動的。
迫力があって、読みつつもその激しい合戦の様子が目に浮かぶようです。

 

「前語り」で訳者古川日出男さんが述べていますが、
原文をほぼ一文も略さず、敬語もそのまま訳したとのこと。
そこで第6巻、「入道死去」の下り。
高熱に苦しむ清盛がついに息を引き取った場面。

 

悶絶死をなされました。清盛公は。

死んだ、清盛は。

 

平清盛が生きている間は、ずっと敬語が使われていたのですが、
亡くなった途端、言い換えてまで敬語をやめているのです。
エグいですねえ、平家物語・・・。

 

この物語の中で私が気になったのは、平重盛。
清盛の長男であります。
清盛の息子とはとても思えぬ、穏やかで道理をわきまえている人。
過激な父・清盛の言動を諫めることができるのはこの人だけだったのです。
他の臣下の者は、恐ろしくて誰も清盛の言葉に逆らおうとはしなかったのだけれど・・・。
重盛は後白河法皇のことも大切に敬い、良い関係を築いていました。
ところが、この方が真っ先に病で亡くなってしまうのです。
この方が生きていれば、平家の滅亡は防げたのかも・・・。

アニメ「平家物語」でも、重盛はこのアニメ中の“びわ”と同じに、
人とは違う特別な“目”を持っているとして描かれていまして、
まことに、失うのが惜しい人物なのであります。

 

さて、さらに気になる人物。
平家を追い詰める源義経。
彼は人並み外れて破天荒なんですね。
大河ドラマで、菅田将暉さん演じる義経は、あまりにもムチャクチャで、
これはさすがにやり過ぎなのでは?と思うくらいだったのですが、
本作を読むと、まさに義経のイメージがそれとピッタリ重なります。
常軌を逸している感じ。
納得、納得。

 

他にも、維盛とか、建礼門院(徳子)、
鹿ヶ谷の陰謀で島流しにされた男たち、
清盛の元を去って尼になった女たち等々・・・、
気になる人はたくさんいて、そのエピソードの一つ一つはいちいち紹介しませんが、
実に読み応えのある本でした。
無人島に持って行くとしたら「聖書」を、なんてよく言われますが、
私だったら「平家物語」がいいと思う。
まさに、あらゆる人間のドラマがそこにあります。

<図書館蔵書にて>

「平家物語」 古川日出男訳 河出書房新社
(池澤夏樹個人編集 河出書房新社「日本文学全集」全30巻のうちの9巻目)

満足度★★★★★



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