寒さを感じてから、頭痛や胸痛に襲われたという人は高血圧による血管病を警戒した方がいい。血管は寒さから身を守るために収縮し、血圧は想像以上 に高くなる。その結果、血管が破れたり、血栓ができて梗塞して死ぬことがあるのだ。いまの時季は会社の健康診断で正常血圧だったとしても安心してはいけな い。2016年の厚労省人口動態調査によると、2月の「月別にみた年次死亡率」(人口1000人当たり)は11・5人。1月、12月に次ぐ高さだ。長浜バ イオ大学(医療情報学)の永田宏教授が言う。

「2月の死亡者総数は11万4526人で、そのうち、がんで2万9700人が亡くなり、肺炎やインフルエンザなど呼吸系疾患で1万9368人が死亡しています。しかし、断トツに死亡数が多いのが3万1930人を数える循環器系の病気です」

 老衰などさまざまな原因で心臓が十分働けなくなった状態を指す心不全(6708人)を除くと、目立つのは脳梗塞(5522人)、急性心筋梗塞(3690人)、脳内出血(2888人)、大動脈瘤及び解離(1676人)だ。

 東邦大学医学部名誉教授で平成横浜病院健診センター長の東丸貴信医師が言う。

「冬は寒さが刺激となって交感神経が活性化し、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンなどのカテコールアミンが放出され、血管が収縮されて血圧が上 昇することがわかっています。欧米の研究では夏に比べて冬は収縮期血圧が5〜10?Hg高い。春の健康診断で130台の正常高値だったのに、2月に測った ら180?Hgを超えたという高齢者の患者さんは少なくありません」

 血圧はとくに朝に跳ね上がりやすい。体の日内周期変動で交感神経が活性化し、血圧と心拍数が一気に上昇するからだ。起床後1時間は、血液が固まりやすいことも影響するため、急性心筋梗塞は午前6〜10時に起きやすいといわれている。

「しかも、何げない行動が危険な水準まで血圧を押し上げることがあります。トイレやゴルフ、掃除などで前かがみにしゃがむ姿勢は心臓が圧迫され呼吸しづら く、血圧が高くなりやすい。排便時に軽くいきむだけで最大血圧が60〜70以上アップすることも。朝、跳ね起きるなど急に立ち上がることも危険です。暖か い居間から寒いトイレやお風呂、車内から屋外など温度差10度以上の場所への移動も血圧が急激に上がります」(東丸医師)

 では、どんなタイプの人が危ないのか?

 運動量が減り血管の柔軟性も失いがちな65歳以上はもちろんだが、現役世代でも離婚歴のある独身男性は気をつけた方がいい。

「離婚は相手に存在を拒絶された、いわば自己否定された状態です。社会再適応尺度によると、その精神的なストレスは死別を100としたとき75です。解雇でも47ですからその高さがわかるはずです」(永田教授)

 離婚のストレスは男性の方がはるかに大きい。女性はパートナーへの依存度が低く、子供を心の支えにできるからだ。

■普段の食生活が大きな影響

「心臓や脳の血管病は普段の食生活に大きな影響を受けます。女性は自炊の習慣があるので心配ありませんが、男性は違います。しかも循環器の病気は真面目で 人付き合いの苦手なタイプがなりやすいが、男性は離婚で仕事以外の人付き合いが一気に減るためリスクが高いのです」(永田教授)

 それは死亡率にも表れている。例えば2015年に急性心筋梗塞で亡くなった45歳から64歳までの男性は3541人。そのうち妻帯者は1569人、独身者は1969人(未婚1205人、死別78人、離別686人)、不詳3人だった。

 これに2015年の国勢調査を使って同じ年代の妻帯者、未婚、死別、離別それぞれの急性心筋梗塞による死亡率を調べて比べたところ、離別が一番高く妻帯者の4・8倍。同3倍弱の未婚や死別を大きく引き離した。

「循環器の病気の発症リスクを高めるものに、糖尿病、前立腺肥大、 COPD(慢性閉塞性肺疾患)、高尿酸血症、睡眠時無呼吸症候群などがあります。イン フルエンザもリスク要因でワクチンを打つと15%以上、不安定狭心症や急性心筋梗塞を抑えるという報告もあります」(東丸医師)

 妻や子供がいれば、こうした病気も未然に防げるかもしれない。

「寝息がうるさい」「みっともないので太らないで」「子供のために禁煙し、ワクチンを打って」「夜中におしっこに立つけど大丈夫?」などと注意されるからだ。しかし、独身だとそうはいかない。

 離婚歴のある独身中高年男性は老後を心配して貯金するよりも、まずはパートナーを探すことだ。