国会対策委員長(兼)議院運営委員として、
日常的に他党と交渉するのが私の仕事です。
業務における対外折衝の割合は高いです。
国会対策委員長も4年以上やっているので、
ある程度は「交渉屋」としての経験を積み、
失敗を繰り返しながら学んできました。
今も胸を張って「自分はプロの交渉者だ」と
言い切るような自信はまったくありませんが、
とりあえず交渉の経験だけは増えました。
昨年は不人気な特定秘密保護法の修正協議で
交渉の当事者として指名されて苦労しました。
成功したかどうかは別として苦労しました。
今年は「結いの党」の会派離脱問題でもめて、
浅尾幹事長と二人でずっと交渉していました。
当事者の2党間の話し合いだけではなくて、
全党が参加する議運理事会でも議題になり、
胃が痛くなるような交渉が続きました。
そういう交渉で心がけてきたのは次の4点です。
1)独りよがりの論法を強弁するのではなく、
中立的な第三者が納得できる理屈を探す。
⇒党内の仲間内では通用する理屈であっても、
第三者が見ると重要でない理屈もあります。
2者間の交渉で相手と自分しかいなくても、
常に「第三者から見てどうか」という視点で
物事を考えないとうまく行きません。
2)余計なことを思いつきで言わない。
⇒これは簡単なように見えて難しいスキルです。
私にとっては未だに克服が難しい課題です。
山内昌之氏の言葉がとても説得力があるので、
ちょっと長いですが、引用させて頂きます。
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交渉や会議において、何をいうべきかを
よくよく自分なりに検討しないうちは、
しゃべりたくてむずむずしても、
その誘惑を斥ける自制心をもつ必要がある。(中略)
大事なのは、会談でも電話でも相手の提案や
批判に対して、よく考えもしないで即座に
返事しようと「見栄」をはらないことである。
一度、相手を喜ばせるか迎合するために、
不注意あるいは無自覚に言葉を出してしまうと、
その内容を否定するか、弁解することを余儀なく
されたときに、余計な補足や弁解をしなくては
ならない。
(山内昌之「政治家とリーダーシップ」より)
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3)譲る時は譲り、譲れない時は断固拒否する。
⇒これもタイミングがなかなか難しいです。
適当なタイミングで譲歩しなかった場合には、
先方の譲歩は得られず、場合によっては、
こちらが強硬過ぎると批判されます。
他方、どうしても譲れないテーマに関しては、
壊れたレコードのように同じ主張を繰り返し、
絶対譲歩しないことが必要な場面もあります。
うまく譲歩したり、うまく拒否したり、と
その潮目を見るのは難しいです。
今度は中西輝政氏の言葉を引用します。
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イギリス外交と国家戦略の特質を端的に表現すれば
「早く見つけ、おそく行動し、粘り強く主張し、
潔く譲歩する」と要約できる。
(中西輝政「国まさに滅びんとす」)
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粘り強く主張し、かつ、潔く譲歩するのは、
そんなに簡単なことではありません。
しかし、とても重要なことだと思います。
4)相手や第三者の感情をできるだけ損ねない。
⇒相手も人間です。感情を傷つけられたら、
交渉事もうまく行くはずがありません。
学生時代に履修した「交渉学」という講義で、
「Hard on interest, Soft on people」と
先生に習った覚えがあります。
利害には徹底してこだわり、人にはやさしく、
という趣旨だったと記憶しています。
チャーチルも次のように言っています。
「外交とは相手の感情を損ねることなく、
明白な事実を伝える特殊な技術のことだ。」
怒らなくてはいけない場面では怒りますが、
そういう場面は少なければ少ないほどよく、
なるべく感情的にならないように心がけ、
余計な摩擦は避けるよう努力しています。
まあ、以上のような努力を続けていたとしても、
やはり「譲り過ぎだ」と批判されることもあり、
政治の交渉というのはなかなか難しいです。