ブログ 「ごまめの歯軋り」

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文芸散歩 4人の小説家による「文章読本」

2012年05月23日 | 書評
小説家の書く文章の心得とは 第24回

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3) 中村真一郎著 「文章読本」 (新潮文庫 1982年) (8)
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4) 口語文の改革ー詩人たちと新感覚派そして戦後文学へ(昭和時代)
 昭和になって詩人たちの詩的散文が象徴詩のように出現した。佐藤春夫の「田園の憂鬱」は感情の横溢から免れた、近代知性が精致に組み立てられた散文であった。なお佐藤の改革は未完で埋もれてしまった観がすると、詩人中村真一郎氏は振り返る。北原白秋は抒情小曲集「思い出」で豊富な言葉の魔術師は多くの若者の心を捉えた。木下杢太郎、吉田一穂、萩原朔太郎などが散文詩を継いだ。第1次世界大戦が終ると、いわゆる大正ロマンという時代になって伝統への反逆と破壊の運動に日本も世界と同時代的に参加した。新感覚派の一群が日本語の改革に取り掛かった。堀口大学、稲垣足穂、川端康成、中河与一、片岡鉄平、池谷信三郎らが彗星のように現れ、横光利一は「日輪」で従来の日本語の常識を無視した作品を生んだ。横光を評論家は「新感覚派」から「心理派」への転身と評した。さらに、吉行エイスケ、堀辰雄、安倍知二、伊東整らが後を継いだが、日常言語との乖離に苦しんだなかで、川端康成は長く文体実験を指導したといわれる。第2次大戦が終戦を迎え日本が米軍によって占領され、前代未聞の政治改革の中に入った。その中で文学や思想や読者層が飛躍的に増大した。戦後の文体は、野間宏「崩壊感覚」、武田泰淳、椎名麟三、福永武彦、鳥尾敏雄、吉行淳之介、大岡昇平、三島由紀夫、安倍公房など戦争直後の文学世代の様々な取り組みの中で大きな変革を受けた。旧世代の文壇の想像を絶する、話し言葉からより若い世代の動きが始まった。庄司薫「赤頭巾ちゃん気をつけて」、井上ひさし、小田実、大江健三郎らは話し言葉と行動の一体化を志し、書く事と社会的意味との同一化が進み、いわゆる文壇は消滅して久しい。
(つづく)


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