ブログ 「ごまめの歯軋り」

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熊倉正修著 「日本のマクロ経済政策」

2021年06月12日 | 書評
東京都 「池上本願寺参道」

熊倉正修 著 「日本のマクロ経済政策」 

岩波新書(2019年6月)(その4)

第1章 通貨政策1-日本は何故為替介入にこだわるのか

3) 歯止めのない為替介入の弊害
過去の二つの為替介入を例に、日本の通貨政策の問題点を論じている。一つは2003年から2004年にかけて溝口財務官が行った大規模介入と、一つは2011年から2012年にかけて民主党政権の実施した為替介入である。①平成の大介入(小泉純一郎内閣 溝口財務官)では、総額35.3兆円のFBを発行した円売り介入であった。当時の実勢相場は均衡レートよりむしろ円安であった。財務省は為替介入を、為替相場を均衡水準に誘導するための政策とは考えておらず、むしろ金融・財政政策と同様のマクロ経済政策の手段とみていたようだ。日本経済は2000年から2008年まで長い景気拡張が続いていた。溝口氏はこの長い為替介入を投機筋に対抗するためであったという。テイラー財務次官がこの日本の政策に同意を与えて日本政府が巨額の円売り介入を実施し、日銀がそれを不胎化しなければ日本経済は再生すると考えたようである。②民主党政権の為替介入では、2011年3月の東日本大震災後に対応したもので、各国が協調介入に応じてくれて直ちに効果が表れた。2010年9月15日の介入(菅直人首相)では2兆1249億円、2011年8月4日に4兆5000億円の介入が行われた。11月4日(安住財務大臣)には9兆円の介入が行われた。しかしこれらの介入が相場の流れを変えたようには思われない。2000年から2003年の黒田財務官の時代には円買い一本やりの介入を繰り返し、13.6兆円の外貨を購入した。黒田氏は金融市場と対話しながら政策を行うというよりは力でねじ伏せるタイプの官僚であり、均衡為替レートを十分に意識せず、外国の協力もとらないで巨額の単独介入を頻発に行われるようになったのもこの時期からである。為替介入が行われると為替リスクが増加するだけでなく、現行の政府会計規則の下では、外為特会の資産が増加するほど一般会計の財政規律が弛緩するのである。

4) 諸外国の為替介入
変動相場制を採用している先進国では、一般に経済規模が大きいほど対外経済取引が自国に与える影響が小さいので為替介入に頼る必要性も低いはずである。日本と韓国を除いて、中央銀行と政府が協議したうえで政府が介入するケースが多い。アメリカやスウェーデン、イギリス、カナダは20世紀末より、ユーロやスウェーデンは2002年以降為替介入はしていない。日本と韓国だけは断続的に実施している。ユーロ圏ではユーロ安が続く中で、中央銀行によって構成されるユーロシステムに実施権があることを確認した。しかし為替介入はうまくゆかなかったのでその後一切為替介入を実施していない。観故国は介入の情報を公表していないが、日本では四半期分がまとめて公表されている。

(つづく)