無敵、だと思われていた内山高志が、昨年の4月27日、挑戦者のジェスレル・コラレスに、あっけなく2ラウンド、KO負け。長年保持し続けたWBAスーパー・フェザー級のベルトを失った。
そして、そのショックもいえて、再起を決め、再び、相手にしたのが、コラレス。
昨年の大晦日。誰もが、かつてのように(写真左下)KO勝ちし、ベルトを奪い返すと、期待したのだが・・・・・。
なんと!接戦のすえ、1-2のスコアで、再びコラレスに負けた。
12ラウンド、フルのスコアは、内山からみて、112-115。110-117。そして、残る1人が114-113。
誰の目から見ても、惨敗ではなかった。
しかし・・・・同じ相手に、2度も連続負けたという事実。
内山は体だけでなく、心も打ちのめされ、最近まで約1か月間。ブログを閉じていた。
かといって、引退届けを出して、再び、かつてやっていた事務員や営業マンとして、就職し、サラリーマンとして働き出した訳ではない。
これまで、幾つものスポンサーの金銭的援助を得ており、しばらくは、食べていくには困る身ではない。
2度あることは、3度ある、という言葉もあり、この先、どうしていこうか、迷っていることだけは確かだった。
すでに、37歳。
ベルトを巻いた経験が無ければ、すでにこの年齢で現役引退を規則上、余儀なくさせられる身だが、内山は元王者の特例により、リングに自分の意思で上がろうと想えば、この先、再起は可能だ。
そんな行方迷える内山に、この1月31日の夕刻。
思わぬ宴席が催された。
会場は、ボクサーの甲子園球場ともいうべき後楽園ホールの真正面に位置する「後楽園飯店」。
内山高志を招き、「再起を願い、励ます会」とも言うべき会が催された。
出席したのは、100名にものぼった。
マスコミには知らせることなく開かれたのだが、主催した、かねてより内山の支援をし続けていた人から、その模様を聞き込んだ。
その席上、内山は、激励の言葉の数々には感謝こそしたものの、その席で「カムバックします」「もう一度、再起してみます」・・・・・とは言わなかったものの、参集した人達は、その言動から、再起を確信したという。
そんな極秘の再起に向けての激励会があったことなど、おくびにも出さず、内山のブログには、2月3日の節分の豆まきに呼ばれたことだけが書き込まれていた。
そんな、久々のブログにも、まだ38名ものファンから、再起を望む声が寄せられていた。
おそらく、内山の性格から考えても、その声援と期待にも応えて、もう一度だけやってみるか!との、まさに背水の陣でリングに立つことだろう。
昨年末、やっぱり、大方の予想通り、井上尚弥に負けた、同じジムの河野公平。その彼もまた、同じ日に「豆まき」をしたのだが、コメントを寄せたのは、わずか2人だけ。
負けても、今後も応援し、声援を送り続けようとさせる人格と人気が、河野にはまったく無い。
すでに36歳。今までも、いくつか指摘してきたが、他人に対する言動に、非常に問題多い性格。今まで、父の庇護(ひご)のもとだけで生活出来ていた彼。
妻を食べさせなければならず、今後の生活への道のりは厳しく、河野が予想していないことが、起こるであろう。
自分が、今まで、どんなふうに他人に思われていたかを、否が応でも、これから知らされるはずだ。
さて、内山。おそらく、年内には再起戦が組まれるはず。ジムの柱と人気と知名度は、まだまだ田口良一ではなく、内山が大きくリードしている現実。
だが、すぐにタイトル戦というわけにはいかず、コラレスとのリターンマッチは、まだまだ先のこと。
道は、今までと違い、厳しいものはある。
というのも、埼玉県の私立花咲徳栄(とくはる)高校からボクシングを始めて、すでに21年。
プロボクサーになって、11年半。
これまでの戦績を見れば分かるように、アマチュアで113戦、プロになって27戦。24勝2敗1引き分け。
2敗は、昨年のコラレス相手のもの。24勝のうち、ノックアウトと、レフェリーストップ勝ちで20勝。
いかに、強打で、次々と相手をぶっ倒してきたか、が、この数字だけでも分かるだろう。
だが、観て、歓声を挙げている者には分からないだろうが、実は内山のような強打者には避けて通れない事実がある。
拳(こぶし)や手首や指や、手の甲の骨折と、ケガと、故障だ。
本来、拳は、殴る、叩く、ために使う部位では、当たり前のことだが、ない。
それなのに、練習の時から、打ち当て続ける。ミットに、サンドバッグに、相手の肉体に。憎くもないのに。
どんな強打者でも、日に日に拳にガタがくる。
数多くの強打者を見てきた結果、拳の年齢、拳寿命の年齢を、私は17~18年と見ている。だましだまし打ち続けても、限界は20年。
内山にしても、これまで何度も、左右の拳や手の甲や指を痛め、ヒビが入り、割れ、骨折。骨がつながるまでの間は、ロードワークと言う名の、ランニングだけをこなす日々も、何度も続けてきた。
ある日のこと。ノックアウトで勝って、試合翌日の会見後の、何気ない会話で知った。
茶わんが、持てないのだという。箸(はし)も、満足に持てない、とも。痛くて、腫れていて。
大体1週間、長引くと10日間。食事は「それなりに・・・」と、内山は、苦笑い。
ある別のボクサー。
取材ノートに文字を書いもらおうと、ボールペンを持たせたが、小刻みに震えて、満足に文字や数字が書けなかった。
そのくらい、パンチの威力の影響は、我々見るだけの者にとって想像出来ないくらい大きく積み重なっていく。
そして・・・・・・・・。
やがて、同じ軌道、同じ威力で、相手の身体を打ち抜いたはずなのに、相手は倒れない、ヒザすらガクッと曲げない。
以前は、間違いなく倒れたパンチなのに・・・・・。
おかしいなあ、と思い始めるという。
やがて、拳の威力が弱くなっていることを、否応なく、知らされてゆく。
内山ですら、だ。
日々、限界を知る残りの日々。
先日、プロデビュー13年、ノックアウト勝利60%のチャンピオンの試合を観た。
以前なら、相手が倒れていたパンチがヒットしたというのに・・・・・倒れなかった・・・・。
ああ・・・・・・・。
これから内山高志が待ち構える、再再起戦。
敵は、相手ではない。
自分の拳、手の甲、指。そして、おのれの心
どのような闘いぶりを見せてくれるか、静かに、冷静に見続けていきたい。