あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

海が見える家

2018-05-20 16:44:29 | 

 『虹の岬の喫茶店』に引き続き、千葉は南房総が舞台の小説です。主人公・文哉は新卒で入社した会社をGW明けに、メール一本で退社。研修もままならずに、商品クレーム対応に着任したが、残業手当も加算されず、ブラック企業に入った自分を責めるしかなかった。そんなときに、知らない人からの電話が携帯にかかる。「あんたの親父、亡くなったぞ」

 急遽、南房総の館山の病院に直行。札幌の姉を呼び寄せ、父を火葬し、父は灰となって、住んでいた家に戻り、今後の対応について話し合うも、わからないことばかり。文哉が小学校2年の時に、両親は離婚。父が都内の中堅不動産会社を定年まで勤め上げ、姉弟を男手ひとつで育て、大学まで卒業させる。しかし、二人とも、無口で愛想のない父とは会話も少なく、特に、文哉は就職期間中に、父と口論になるほどで、それからは疎遠になる。子どもたちが家を出て、定年退職を迎えた父は南房総に一人移住する。

 無職となった文哉は、父の死後の対処を任されて、南房総で、父と交際していた住民に話を聴き、父がどういう暮しをし、どういう余生を送っているのかを知り、父の、過去を含めた、本当の生き様を知る。

 「自分の人生がおもしろくないなら、なぜおもしろくしようとしないのか。他人にどんなに評価されようが、自分で納得しない人生なんてまったく意味がない」

という言葉を父は実行に移していた。その言葉を父に言ったのは、誰でもない、文哉だった。その彼が職を失い、これからの生活に模索している時に、文哉は目が覚める。父の後ろ姿に彼の生き方のヒントがある。

 人にどのように思われようが、批評されようが、世の同調圧力に負けず、自分に正直に生きる。この小説のメッセージは現代日本人には大きく響くはずだ。

『海が見える家』(はらだみずき著、小学館文庫、本体価格650円)

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 湯を沸かすほどの熱い愛 | トップ | 雪には雪のなりたい白さがある »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

」カテゴリの最新記事