おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

曽根崎心中

2019-09-21 07:52:10 | 映画
「曽根崎心中」 1978年 日本


監督 増村保造
出演 梶芽衣子 宇崎竜童 橋本功
   井川比佐志 左幸子 木村元
   灰地順 目黒幸子

ストーリー
大阪内本町の醤油屋・平野屋久右衛門(井川比佐志)の手代・徳兵衛(宇崎竜童)は、堂島新地天満屋の遊女・お初(梶芽衣子)と深くいいかわしていた。
しかし、天満屋の亭主の吉兵衛(木村元)とお内儀(目黒幸子)は、徳兵衛は律儀者だが銭にならぬので深入りしないよう、事あるごとにお初に文句を言っていた。
徳兵衛の主人であり伯父でもある久右衛門は、彼の正直さを見込み、自分の妻の姪・おはると徳兵衛を一緒にさせようと考えていた。
徳兵衛に否応いわせぬため、徳兵衛の継母であるお才(左幸子)を呼びつけて銀二貫目を渡した。
金に目のないお才に異存はなかったが、久右衛門からこの話を聞いた徳兵衛は驚いた。
母と勝手に相談して祝言を押し付けるのはひどすぎると抗議する徳兵衛に、久右衛門はこの話を止めてもよいが、母親に渡した金を来月七日までに返す事、できない場合は大阪から追放するという条件を持ち出した。
大急ぎで田舎の母親のもとを訪れた徳兵衛は、やっとの思いでその金を取り戻した。
一方、天満屋では、徳兵衛の事を心配し続けるお初に、好意を持たぬ客からの身うけ話が持ち上っていた。
田舎からの帰路、徳兵衛は偶然、親友の油屋九平次(橋本功)に出会った。
九平次は博打に負け、自分の店を売らなければならない破目に陥っている事情を徳兵衛に話した。
親友の窮状を見るに見かねた徳兵衛は、その金を来月三日の朝までに返済するように約束して九平次に貸したのだが、期限を過ぎて返済を迫ると九平次は「借金などは知らぬ」と逆に徳兵衛を公衆の面前で詐欺師呼ばわりしたうえ散々に殴りつけ、面目を失わせるのだった。


寸評
僕が見た心中物作品の中では篠田正浩の「心中天網島」と双璧をなす作品で、増村保造晩年の傑作だ。
悲しいまでの死への道行だが、美しいまでの道行でもあった。
お初、梶芽衣子の死装束が薄暗い森の中で黒と白のコントラストを見せ何とも美しい。
何よりも梶芽衣子の目がいい。
もともと大きな目をした梶芽衣子であったが、その目に支えられたキリリとした顔立ちは女の決心を見せつけた。
舞台劇の様な二人のセリフ回しはリアル感に乏しいが、それが抑揚をもって音楽のように響いてくるから驚きだ。
浄瑠璃の雰囲気を残しておきたかったのかもしれない。

映画は心中するために露天神の森へ向かう二人の姿を追い続けながら、ここに至った出来事を挿入していく。
愛する者のためになら一緒に死ねるという情念が男女ともに燃え上がるのだが、特にお初、梶芽衣子の一途な気持ちが迫ってくる。
二人は露天神の森で根を一つにする松を見つけ、それに体を縛り付けて心中を図る。
数珠を手にしたお初が喉を突いてくれと頼み、徳兵衛が刃を向けるが「俺が愛した女、可愛いと思って抱いたきた身体に傷が付けられるものか!」とためらってしまう。
お初はためらう徳兵衛を励まし命を果てるのだが、二人の愛が一気に燃え上がるシーンとなっている。
徳兵衛の刃で血を流すが、切りつけた傷では死ねない。
「苦しめるのか」とお初が漏らすと、徳兵衛はお初の喉に刃を突きさす。
お初の声がかすれていき、ぐったりとなる。
徳兵衛はお初の持ってきたカミソリで自らの喉を斬り、血がしたたり落ちる。
女の意地は愛を通すこと、男の意地はメンツを保って生き恥をさらさぬ誇りとばかりに、二人の意地が命を奪う。

二人の最後が壮絶なものとなるのは、直前に描かれた二人の幸せが見えたことによる。
それを引き立てるのが悪役九平次の橋本功である。
橋本功の怪演なくしては、宇崎竜童の徳兵衛も、ましてや梶芽衣子のお初も引き立たなかった。
何といってもこの作品では梶芽衣子なのだが、あえて大芝居を見せた橋本功は陰の功労者である。
徳兵衛、お初が心中に向かったところで、九平次のサギ行為が明らかになる。
まだ天満屋に滞在していた平野屋久右衛門が甥の無実を知り、九平次を傷みつける。
九平次に従っていた町衆や、天満屋の亭主が自分たちの浅はかさを詫びる。
そして自分の至らなさを反省した久右衛門は、お初の聡明さを認め、自分が身請けをして徳兵衛と所帯を持たせ江戸の店を任せようと述べる。
それが夢物語に終わることが分かってはいるが、「ああ幸せになれたのに…」と思ってしまう。
そこでかの九平次、橋本功が悪態をついて悲劇を盛り上げた。

もう少し我慢していれば幸せになれたのにという気持ちがあって、やはり胸打つラストシーンとなっている。
徳兵衛を演じた宇崎竜童の音楽が、ポップな心中映画を支えていたと思う。
音楽と相まって、悲劇と言うよりは何か前向きなものを感じさせる作品に思えたが、それが増村保造なのだろう。


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