おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

39 刑法第三十九条

2019-07-01 10:53:11 | 映画
「39 刑法第三十九条」 1999年 日本


監督 森田芳光
出演 鈴木京香 堤真一 岸部一徳
   江守徹 杉浦直樹 吉田日出子
   山本未來 勝村政信 國村隼
   樹木希林 土屋久美子

ストーリー
大学で心理学の研究をしている精神鑑定人の小川香深(鈴木京香)は、精神医学者の藤代(杉浦直樹)の助手として、司法精神鑑定に参加することになった。
事件の容疑者である柴田真樹(堤真一)は、雑司ヶ谷に住む若い夫婦・畑田修(入江雅人)と恵(春木みさよ)を殺害した罪で逮捕、告訴されており、本人は大筋で罪を認めているものの犯行当時の記憶がなく殺意を否認。
そこで、刑法第39条により無罪を主張する国選弁護人・長村(樹木希林)が被告の精神鑑定を請求したのだ。
藤代と共に拘置所を訪れた香深は、初めは藤代の横で記録を取るだけだったが、次第に彼の経歴について質問を浴びせるようになる。
そんなある日、香深たちの前で柴田にもうひとりの人格が現れた。
どうやら、彼は子供の頃に父親から受けた虐待によって、多重人格症になっていたのだ。
しかも戦闘的なその人格は、柴田と違って左利き。
畑田を殺害した犯人も左利きであったことなどから、藤代は法廷で柴田は犯行時には精神が解離状態で心神喪失していたと鑑定する。
ところが、香深は藤代と違い柴田は詐病であるとの結論を出していた。
そのことを裁判長に申し立て、訴えを聞き入れられ再鑑定を任されることになった彼女は、柴田には畑田を殺害する動機がないことから、畑田自身の経歴を探っていくうち、彼が少年時代に工藤温子という少女を強姦の末、殺害した過去があったことを知る。
だが彼は未成年であり、犯行当時心神喪失状態にあったとして刑法第39条により裁かれてはいなかった。
その事件に注目した香深は、少女の家族でたったひとりの生存者である兄・工藤啓輔の行方を追って、刑事の名越(岸部一徳)と共に門司へ飛んだ。


寸評
登場する人物がすべてどこか異様な雰囲気の人間ばかりだ。
鈴木京香の香深(カフカ)、堤真一の柴田、吉田日出子の母親などだが、その他にも杉浦直樹の藤代、江守徹の検事などもどこか狂人的なのだ。
おまけに相手の目を見ようともせずにぼそぼそと話すので聞き取りづらく不快感がつきまとうが、その不快感こそ森田芳光監督がこの作品の中で描きたかった異常性なのかもしれない。
もちろん刑法第39条の『心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する』ということへの疑問の投げかけは大きなテーマなのだが、それ以上に異常な世界あるいは異常な社会を映し出していた。

殺害された畑田修には、工藤温子という少女を強姦した後に殺害した過去があったのだが、しかし畑田は当時15歳の未成年で、しかも刑法第39条による心神喪失状態による無罪となっている。
映画はそのことに対する疑問を呈しているが、僕もこの刑法39条と少年法には納得できないものを感じている。
少年である、あるいは心神喪失であるということで罪に問われないのなら、殺された被害者の遺族ははたして救われるのだろうかと思うし、仇討ができない以上それを法が代行すべきではないのかと思うのだ。
遺族があれは事故だったのだという思いに至らないようであれば、やはり裁かれるべきだと僕は思っている。

法廷サスペンスと言えなくもないが、素顔に戻った柴田が「私が本当に凶器を突き刺したかったのは、刑法第39条だったのだ」と訴える悔しさのようなものがイマイチ弱い。
被害者側の苦悩と、犯人を追いかける執念が描き切れていないことが39条の是非についての問いかけを弱わくしていて惜しい。
ただ犯人の異常性を浮かび上がらせるような雰囲気作りとして、奇抜なシーンは随所に挿入されていて、この映画の独自性を保っていたと思う。
視覚的には急に揺れだす画面や斜めのカメラなどであり、シーン的には刑事の意味不明な手の動き、大量の料理が並べられた食卓、香深が母親の口元についたご飯粒を舐め取ったり、あるいは裸の裁判官が急に挿入されたりなどだ。
そのほかにもグランドに転がる無数の軟球、カモメの無慈悲な目などのショットが目を引いたし、さして意味のないショットも随所に入り込む。
柴田が落としたと思われるサングラスを、後に香深が拾い、それを通してカモメを見るシーンは印象に残る。

もし畑田の妻・恵が偶然殺されてはいなかったら、はたして柴田(工藤啓輔)は畑田恵を殺害できただろうか?
柴田が誤算と表現した「共犯者」とはどういう意味だったのか?
と最後に思わせたが、僕は共犯者の意味は刑法39条が犯人を救うものではないという主張に対する共犯者ということだったのではないかと振り返ってみて思った。

鈴木京香や堤真一の熱演は当然評価されるべきだが、登場シーンでずっとガムをかみ続けていた岸部一徳の雰囲気がやけに印象に残った。


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