おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

昭和残侠伝 死んで貰います

2019-08-05 14:37:41 | 映画
「昭和残侠伝 死んで貰います」 1970年 日本


監督 マキノ雅弘
出演 高倉健 池部良 藤純子 
   中村竹弥 荒木道子
   加藤嘉 永原和子
   松原光二 下沢広之
   山本麟一 長門裕之

ストーリー
東京下町の古い暖簾を誇る料亭「喜楽」に生まれた秀次郎は、父が後妻をめとり妹が生まれたとき、家を出て渡世に身を沈めた。
雪の降る寒い夜、秀次郎は、なけ無しの金をはたいて挑戦した勝負でイカサマとも知らず無一文になり、雪をしのいで軒下にうずくまっていた。その時出会ったのが、芸者見習いになったばかりの貧しい娘・幾江だった。
それから三年、押しも押されもせぬ堂々たる渡世人になった秀次郎は、イカサマ師とのごたごたで刑を受ける身となった。
時は流れ、秀次郎の服役中に関東大震災が起き、「喜楽」は一家離散の瀬戸ぎわにと追い込まれるが、これを支えていたのは板前の風間重吉と小父の寺田だった。
大震災を境いに新しい近代都市として生まれ変っていく東京。
「喜楽」もまた、苦しい内情とは裏腹に、木の香も匂う真新しい建物となった。
出所した秀次郎は板前として働くこととなり、その姿を寺田は涙の出る思いで見守っていた。
一方幾江は芸者となって秀次郎の帰りを待っていて、重吉と寺田の計いで二人は七年ぶりに再会する。
そんな頃、寺田一家のシマを横取りしようとことあるごとに目を光らせていた新興博徒の駒井が、「喜楽」を乗っとろうとしていた。
秀次郎の義弟・武志は相場に手を染め、むざむざと「喜楽」の権利書を取り上げられてしまう。
それを買い戻す交渉に出かけた寺田が、帰り道で襲撃され殺される。
駒井の執拗な挑発に耐えてきた秀次郎だが、かけがえのない恩人の死に、ついに怒りを爆発させる。


寸評
「義理と人情を計りに掛けりゃ、義理が重たい男の世界・・・背で泣いてる唐獅子牡丹」と高倉健の腹に響く歌声が聞こえてくる。
唄の内容どおり人情よりも義理を重んじて、つまるところ惚れた女をふりすてて斬り込んでいく。
仁侠映画は決まりごとの連続で、観客もその決まりごと通りに話が進むので安心していたような所がある。
我慢に我慢を重ね、最後は惚れた女の未練を断ち切っての殴り込みとなるのだが、女は、男を理解し包み込むような愛情をもつ芸者さんなんかがいい。
まさにこの映画では藤純子がその芸者を演じて、雰囲気を醸し出す立役者の一人となっている。
「今度はアタイだけの義理と情けに生きて欲しい」と送り出す。 名セリフだねえ~。
思いつめたように風間重吉(池辺良)が歩いてくると、素足に雪駄、服装は着流し一枚の花田秀次郎(高倉健)が柳がなびく掘割で待っている。
木は、桜やモミジじゃあダメで、柳とかイチョウでないと似合わない。
流れるようにラストに向かっていくのだが、この期に及んで長いセリフはいけない。
重吉が「お供させていただきます」と声を掛けるだけなのだ。
二人は無言で歩き始める、いわゆる道行きで、今度は主題歌が流れ一番盛り上がる場面だ。
場内は、手順を間違えることなく進んできたこのシーンになって、待ってましたとばかりに大きな拍手が巻き起きる。
その阿吽の呼吸がたまらなくいい。
この映画はその構成において申し分がなくシリーズ中の最高傑作だし、任侠映画の中でも記憶に残る作品だ。

始まりは秀次郎が賭場絡みのいざこざで叩きのめされるシーン。
それが終わるとテーマ曲に乗ってキャストの真っ赤な文字が表示され出す。
歌は流れずメロディだけなのだが、昭和残侠伝のファンならこのメロディを聞いただけで、その世界にどっぷりと浸れる。
この映画ほど気の利いたショットと台詞を有している任侠映画は数少ない。
池部良が渋い表情を見せて画面を引き締める。
刑務所の秀次郎に面会に行った時の斜めに構えた姿勢と表情が何とも言えない。
池部良もいろんな名前で残侠伝シリーズに出ているが、この作品の風間重吉が一番いい。
また重吉がタチの悪い客ともめた秀次郎を折檻し、それを詫びる場面での重吉のセリフも忘れられない。
「流れ流れた食い詰め者が、先代に拾われて、やっとどうにかカタギの道を歩けたというのに・・・」
この後に今は盲目となり秀次郎を義足と知らないオカミサンに謝りに行くシーンが続き、初めて死んだ父と妹の仏前火を灯す。 泣けるシーンだ。
秀次郎は背中の刺青を隠すために遠くの銭湯に通っているが、そこでヤクザ仲間の長門裕之と出会う。
長門のひょっとこの松もまた同じ理由でその銭湯に来ていたのだ。
一度入ったヤクザの世界からは容易に抜け出せないことを、そのエピソードで示していた。
だからかつてイザコザを起こした熊倉(山本麟一 )との一件に、話としての値打ちが出てきたと思う。
そこで売れっ子芸者の富司純子が「私は三味線も踊りも出来ないが、この人の女房なら立派に努めてみせます」と秀次郎をかばうのだが、これまた名セリフを吐くいいシーンだ。
二人のラブシーンは雰囲気だけのしっとりとしたものだ。
「馬鹿だなあ、俺は・・・」
「馬鹿が好きよ、アタイが馬鹿だから惚れたのよ・・・」とそっと寄り添う。 粋だねえ~!

公開時、最後の「死んでもらうぜ!」には「異議な~し!」の掛け声が飛んだことが懐かしい。


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