おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

渇水

2024-08-25 08:10:17 | 映画
「渇水」 2022年 日本


監督 高橋正弥
出演 生田斗真 門脇麦 磯村勇斗 山崎七海 柚穂
   宮藤官九郎 宮世琉弥 吉澤健 池田成志 篠原篤
   柴田理恵 森下能幸 田中要次 大鶴義丹 尾野真千子

ストーリー
雨が降らない日照りの日が続き、ついには県に給水制限が発令された。
市民プールにも水が入らない空のプールになってしまい、幼い姉妹ががっかりしていた。
水道課の停水執行を担当している岩切と後輩の木田は、水道料金が滞っている家庭に出向いていき、料金を払うように促した。
一軒目は無職の伏見宅だったが、どうやらエアコンがついている所を見ると電気代は払っているようだ。
岩切はそのことを理由に水道料金を払うよう説得したが、水はタダでいいと開き直られる。
次に向かったのはシングルマザーの小出有希宅で、有希はスマホ代は払っているようだった。
同じく水道料金を払うよう説得したが、スマホは商売道具なのでと言い訳され水道料金を払おうとしない。
停水執行に踏み切ろうとした岩切だったが、そこに先程の姉妹が帰宅し、結局、停水執行を踏みとどまった。
岩切には妻と二人の娘がいたが、現在は別居中だった。
翌日もまた停水執行の仕事が続いた。
有希はお金を姉の恵子に手渡し仕事に向かい、そこに岩切たちが訪問してきた。
恵子は先程もらったお金と持っていたありったけのお金を出して水道料金を払おうとした。
しかし岩切はお金を受け取らず姉妹に水を溜められるだけ溜めるよう指示、木田にもそれを手伝うよう伝え、停水執行を決めた。
水を止める所を見たいという恵子たちの希望に応えた岩切は、書類を有希が帰ったら渡すよう恵子に伝えると帰っていった。
雨は一向に降る気配もなく、恵子の持っていたお金も底をつき、恵子はスーパーで万引きをしたり、公園の水を汲んできたりしなければならなくなる。
岩切は自分に似てきた息子の崇との向き合い方に悩んでいた。


寸評
電気、ガス、水道といったインフラを止められている家庭を見たことがなく、僕には多分極貧家庭なのだろうというイメージだけがある。
この映画で水道料金を滞納している人々が描かれているが、彼らは僕のイメージとは違ってそうは見えない。
払おうと思えば払えるように思えるのだが、生活費に困窮すれば水道料金の未払いが手っ取り早いのだろう。
滞納者に水は天から恵まれたものとの思いもあるのかもしれないし、電気やガスと違って生死に直結する水を止めにくい事情もあるのかもしれない。
門脇麦は水道料金は滞納していてもスマホの料金は払っていそうなのだが、それは金をせしめることが出来る男を探すためにはスマホが必要だからだ。
彼女の中では支払いに対する優先順位が出来ているということだろう。
払わない人に説明を施し水道を止める担当者が生田斗真の岩切で、磯村勇斗の木田とコンビを組んでいる。
水道局には必要な仕事であることは理解できるが、担当するには嫌な部署であることも理解できる。
会社勤めをしていた頃、社内にもクレーム対応をする者がいたが、あまり評価されていない営業マンが兼任していてブラックな仕事のイメージが定着していた。
ストレスをため込む彼を伴ってある施設に同行したことがあったが、精神的にきつい業務であることを知らされた。
岩切はそんな仕事を淡々とこなしている。
同僚から仕事内容に疑問を持たないかと聞かれても「別に・・・」と気のない返事をするだけで、滞納者から責められても「規則ですから・・・」と事務的に返答する。
そうでなければやれない仕事でもあると思うが、回りの人から見れば冷たい人に見えるだろう。

岩切は自身の幼少からの親子関係が尾を引いて、家庭生活を上手く作れず別居を余儀なくされている。
そんな私生活も影響して仕事中の岩切は無表情なことが多く感情を表さない。
しかし恵子と久美子姉妹に対した時の彼は普段とは違う姿を見せる。
小出家に停水執行を行うが、その前にあるったけの水を確保させる。
アイスキャンデーを買って来て4人で食べる場面があるが、辛い話が続く中でほんの少しの幸せな時間を感じさせるいいシーンになっている。
しかし姉妹に救いの手が差しのべられるわけではなく、彼女たちは夜間に公園の水を汲み、万引きを繰り返すことになる。
やがて岩切は小さなテロ行為を起こし諭旨退職となり、恵子と久美子の姉妹は施設で保護されるようだ。
水道料金の滞納世帯を回って給水停止を執行していく水道局職員の話で希望を感じさせない。
雨が降らず給水制限が厳しくなっていくが、それでも命の水はどこかにあり滝からはあふれんばかりの水が流れ落ちている。
その水を享受できる人がいる中で給水停止をされる人がいる。
社会的弱者は救われることはないのか。
小出有希は育児放棄の母親とも思えず、健気に生きる姉妹を見ているとそう思う。
原作では姉妹は自殺を試みるそうだが、そうならまったく救いのない映画になってしまう。
幸せ感のない地味な作品だが、最後に岩切が見せる微妙な表情にわずかな希望を感じさせる。