猫猿日記    + ちゃあこの隣人 +

美味しいもの、きれいなもの、面白いものが大好きなバカ夫婦と、
猿みたいな猫・ちゃあこの日常を綴った日記です

電気ブランと少年と。

2009年07月06日 18時10分16秒 | ゴンザも隣人!?

 

今も昔も庶民が集う。

 

少年の頃、水商売の世界に入ったゴンザが。

師と仰ぐ人から言われたことがあるという。

「【銀座・ライオン】の『生ビール』、
 そして、【浅草・神谷バー】の『電気ブラン』を飲んでなきゃ、
  一人前のバーテンダーとは言えない」.....と。

銀座・ライオンのビールサーバーの前には、
それを注ぐ専門のおじさんがいて。

その人の注ぐそれは、とても旨いのだそうだ。

 

行ってきました、浅草へ。
私も乗り換え以外では久しぶり。

 

「.....で?ゴンザはライオンの生ビールを飲んだことがあるの?」

客でいっぱいの【神谷バー】の座席に腰掛け、私は尋ねる。

「うん.....。だからここにも、ずっと一度は来てみたかったんだ」

 

明治期に開業した、この老舗を。

私も外から眺めることはあっても、
こんな風に訪れる日が来るとは、思ってもみなかったが.....。

こうして、ゴンザの配偶者として、
彼のバーテンダーとしての節目に、立ち会うこととなるとは。

 

いろいろ見て、歩いて、食べて。
今日の最終目的地はこちら、【神谷バー】。

 

『美味しい』とは、決して言えない、電気ブランやハチブドー酒でも。

彼にとっては、特別な味がしたことだろう。

「なんか、感無量だな.....
  二十年で、やっと一人前になれたか」

甘ったるい液体を飲み干し、呟くゴンザは。

......きっとそのうち、師であるその人に。

片の小指が少し曲がったその人に、
それを報告に行くのだろう。

 

『電気』が最新のものの頃に、
ブランデーの味を真似たから【電気ブラン】。
日本人の味覚に合うよう、蜂蜜を加え甘くした
【ハチブドー酒】は、大いに人気を呼んだという。

 

「この小指は、
 聞きわけのないコイツを殴ったときに、曲がったままなのだ」と、
ゴンザを顎で指し、笑う、その人に。

私には、『一人前』の報告を聞き、
その人がするであろう遠い目が、思い浮かぶようだ。

ちょうど今、電気ブランを飲んだゴンザがしたのと同じ、遠い目つきで。

.....その遠さの間には、彼らの歩んだ道がある。

 

1880年、酒の一杯売りをはじめ、1882年、電気ブランを発売。
現在建つビルは、1921年落成のもの。

 

かつての少年は大人となり、
師である人の髪が、すっかり白くなっても.....

カウンターとグラスの前には、
その道が、まっすぐ、あるいは曲がりくねって伸び、
二人の関係だけは、いつも変わらぬままだ。

 

......人生の節目は、いつも、思いがけなく訪れるもの。

私とゴンザが出会ったのも、その人の前でのことだった。

 

五平餅と安倍川餅に大喜びの三歳児だけど。
二十年、いっぱい頑張ったんだね。

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3 コメント

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一緒に (いなひこ)
2009-07-07 02:26:23
ゴンザさん 人生の師に出会えてそして今でも教えを守っていたんですね。その教えをerimaさんも一緒に体験して、ゴンザの気持ちに添うように温かく見守って感じ取ってる。 
ほんとに素敵な時間を共に歩んでいかれてる。そして、その時間の過ごし方がとても自然体で、私までホンワカさせてくれてる。

主人にも師と仰ぐ人がいました。私達の仲人です。
私にもとても奥様共々良くしていただきました。主人が今の地位にいられるのも主人の会社がここまでになったのもこの方のおかげでした。それは今でも感謝しています。しかし、ある事がきっかけで、この師と仰いでる方が変わられてしまった。師が教えてくれていた「これはダメだぞ」を師 自らしてしまった。主人がそれこそ断腸の思いで、師の教えを貫く為に、結果としては、師を裏切る形になった。 師と奥様に恨まれ、辛い日々を送っていましたが、先日、ある方の葬儀で師と奥様に主人はお会いして、声を掛けていただいたそうです。 主人は驚いたそうですが、ちょっと嬉しそうでした。 師に従うのか、師の教えに従うのか? 私は主人の考えに従いたいと思った。


話はガッラッと変わっちゃうけど・・・。

ビールって注ぎ方で美味しさが全然違うんだよね。
私は、いっぱい好きじゃないけれど、京都で飲んだビールは、旨かった。泡もきめ細かくて 

 ゴンザさんの嬉しそうなお顔がホッとさせてくれますね。 素晴らしい20年だったんだなぁ~って思いました。
返信する
ごめんなさい (いなひこ)
2009-07-07 02:29:34
ゴンザさんの「さん」が抜けちゃってました。 
返信する
いろいろあったと思いますが。 (erima)
2009-07-07 21:32:27
いなひこ様

この世界に飛び込んだとき。
ゴンザはまだ子供で、師となった人の影響はもう計り知れないほどだったと思います。
今、ゴンザが手品が得意なのも、確かこの方が、「お前、喋りが出来ないなら手品のひとつも覚えろ」と言ったからだそうですし、美味しいものを教えてもらったり、たくさんの知識を与えてもらったり...
会話の節々に、今も頻繁に師の名前が出てくるのは、彼らの過ごした時間の現れなのだと思います。

女性でも男性でもそうですが、そんな風に誰かを師と仰ぎ、生きていけるのは、とても幸せなことなのかもしれないですね。
時間の流れとともに、状況は変わり、ときに反発したり、対峙しなければならないときがあったとしても、教えてもらったこと、共に過ごした時は、変わらない...。

いなひこ様とご主人さまのお話を伺って、これから私たちが歩む道のことを思いました。
私もいなひこ様のように、ゴンザとともに、考えていきたいなぁと。
電気ブランの味を一緒に体験したように。

いなひこ様、ありがとうございます。

あ、ビールの味は、もう注ぐ人によって、全然変わりますよね。
泡の持ちとか、高さとか...
上手な人に注いでもらっての一杯目の旨さは格別なものがあると思います♪
ライオンのビールも飲んでみたいな~。
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