ささやんの週刊X曜日

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

「地獄」と財産の話

2023-11-06 14:36:03 | 日記
きょうは「地獄」の話をしよう。「天国」とは対照的な、どん底の「地獄」の話をすることにしよう。ーーきのう本ブログで私はこういう予告をしたが、これを読んだ読者は、この「地獄」という言葉で、何をイメージしただろうか。


おそらく大部分の人は、(日夜イスラエル軍の熾烈な爆撃にさらされている)パレスチナ「ガザ地区」の悲惨な状況を思い描いたのではないだろうか。


パレスチナ「ガザ地区」の地獄絵図は、我が国のテレビや新聞のメディアによって連日報じられている。けさの朝日新聞も「10月7日の戦闘開始からの死者数が9770人になった」とするガザ保健省の発表を伝えていた。


メディアの報道によってガザの地獄絵図を多少でも見聞きした人は、こう考えるに違いない。同じ中東地域だというのに、アラブの産油国とガザ地区とではえらい違いだ。まるで月とスッポンではないか。石油のあるなしでこうもこうも違ってしまうのか、と。


だが、「石油のある国は天国になり、石油のない国は地獄になる。石油の存在は天国をもたらし、石油の不在は地獄をもたらすということか」と考えるとしたら、それは早とちりというものである。ガザの地獄は、むしろ「石油の存在」がもたらしたものと言えなくもないからである。


どういうことか。


先日、本ブログで紹介したように、パレスチナのアラブ民族と、イスラエルのユダヤ民族との対立・抗争は、その昔、この地域を支配していたオスマン帝国の、その広大な領地に豊富な石油資源の存在が発見されたことに端を発する。
オスマン帝国の豊富な石油資源に目をつけたイギリスが、オスマン帝国を滅ぼそうとして、内部崩壊に導くべく、国内のアラブ人とユダヤ人の勢力をたきつけ、オスマン帝国軍に攻撃を仕掛けさせたのが、事の始まりだった。


このイギリスの謀略は功を奏して、オスマン帝国は崩壊し、イギリスはまんまとこの地の石油採掘権を手に入れたのだが、問題は、イギリスがアラブ人、ユダヤ人の両勢力に約束した「アラブ人国家の建設」と「ユダヤ人国家の建設」という二つの要求が「あちら立てればこちらが立たず」の関係にあったことである。イギリスはこの二つの要求を同時に認めることはできず、「ユダヤ人国家の建設」だけを認めて、「アラブ人国家の建設」は認めなかった。


その結果、ユダヤ人が建国したイスラエルに対して、アラブ人は憎悪を募らせることになり、両者の抗争が始まる。その極点に位置するのが、今の地獄絵図、ーーパレスチナのハマスと、イスラエルが繰り広げる今の地獄絵図なのである。


もしイスラエルか、パレスチナの地に豊富な石油資源があったら、この抗争はより複雑なものになり、より残虐なものになったことだろう。人間万事塞翁が馬。何が幸いし、何が災いするかは誰にもわからない。


財があるから幸福になるとは限らず、かえって財が不幸を招くこともある。これは国についてだけでなく、個人についても言えることだろう。
うろ覚えの記憶で恐縮だが、18世紀のドイツの哲学者・カントがこんなことを言っていた。
財産は幸福をもたらすというが、莫大な財産がかえって不幸をもたらすこともある。莫大な財産を持てば、人は残虐な強盗にその財産を奪われはしないかと心配で夜もおちおち眠れず、不安と不眠に苛まれることになる。実際に強盗団に襲われ、危害を加えられて命を損なうこともある。


まあ、人生いろいろである。無病息災もあれば、一病息災もある。リッチな生活もいいが、貧乏であるためにかえって気楽な安心・安全な生活を送ることができるとも言えるのだ。ーーそう考えて、石油のない国・日本の小市民であるあなたも、貧しい年金生活者であるぬくぬく老人の私も、ひとまず納得することにしよう。

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