ささやんの週刊X曜日

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

SLIMの成功のニュースが

2024-01-22 15:34:40 | 日記
私が世の動向を知る情報源は主に2つ、新聞とテレビである。新聞は毎朝、起きがけにスマホの「紙面ビューアー」で朝日新聞を読む。テレビは夕餉の食卓で「NHKニュース7」を見る。「主に2つ」と書いたのは、この他に(気が向けば)ネットの森の散策を行うこともあるからである。


朝日新聞とNHK。そのニュースの話題や論調はほぼ似通っているが、きのうはこの2つのメディアの、その報道のスタンスが全く違っていた。日本の無人探査機SLIMが月面着陸に成功した、というトピックをめぐってである。


日本にとっては久々の快挙になるこの出来事を、朝日新聞は第1面トップででかでかと報じたが、NHKのほうはこの快挙を完全スルーし、言及すらしなかった。


おかしい。NHKのこの完全シカトの姿勢は、私には何やらとても不自然に思えた。NHKのニュースといえば、このところ能登半島地震の報道一本槍で、他の話題は一切無視、ーーこれが「国民の皆さまのNHK」の基本姿勢です、と言わんばかりである。「SLIMの月面着陸成功」のニュースは、「国民の皆さま」の関心には合致しないとでも言うのだろうか。


朝日新聞とNHK。この2つの「社会への窓」の、その報道のスタンスのあまりの違いに、私は戸惑った。どうしてだろう、と考えはじめたが、すぐに「まあ、どうでもいいや」と匙を投げかけた。それでも気になったので、NHKのほかに、朝日新聞を含む新聞各紙がどういうスタンスを示しているか、ちょっと調べてみた。
とりあえず、各紙の「社説」に当たるのが手っとり早いと考えた。


調査の対象にしたのは、朝日、毎日、読売、日経、産経の5紙であるが、社説でこのトピックを取り上げているのは、以下の3紙だった。


朝日《月探査 競争と協調の両輪で》
読売《月面探査機着陸 課題も残した世界的な快挙》
日経《完璧な月着陸の成功目指し技術を磨け》


社説の論旨は、3紙でほぼ共通している。
1.今回の月面着陸成功は、世界で5カ国目となる快挙であり、各国が競う月の資源開発に参加する確実な足がかりになる。
2.目標とした着陸地点から100メートル以内という精度の高い「ピンポイント着陸」の技術は、国際的に見て卓越したものであり、その意義は大きい。
3.今回の月面着陸は太陽光パネルが発電しないなどのトラブルがあり、完璧な成功とは言いがたい。課題は残るが、SLIMの企ては米中に比べ、限られた予算の中で世界的にも難易度の高いミッションを成し遂げたものとして、称賛に値する。今後はこうしたトラブルを克服し、完璧な月着陸に成功するよう技術を磨いてほしい。


以上のように、各紙とも今回のSLIMの成果には手放しでのほめようだが、宇宙開発全般の意義について、朝日の社説が次のように釘をさしていることに注目したい。


地上とは違って宇宙には領土や国境線が存在しない。国連の宇宙条約は、月を含む天体は、もっぱら平和目的のために利用されるものと定め、土地の所有や軍事施設の設置を禁じる。むろん健全な競争はあってしかるべきだが、必要なのは協力・協調であり、対立や分断を持ち込むことは避けねばならない。
(中略)
日本は、月着陸を果たした5カ国のなかで人工衛星の破壊実験をしていない唯一の国であり、宇宙の軍事利用とは一線を画してきた。調和のとれた制度や原則を取りまとめできる立場にある。21年には宇宙条約との整合性も考慮した宇宙資源法が施行され、運用も始まった。まずはこうした規範づくりの取り組みに理解を広げてゆく必要がある。」


宇宙の軍事利用ではなく、平和利用をーー。この点を踏まえた上で、宇宙開発の技術を向上させていくのなら、その成功は、「国民の皆さま」にとっても喜ばしいものになるだろう。能登の「住民の皆さま」が震災に苦しんでいるときに、浮世離れした宇宙ネタで浮かれるなんて、不謹慎だ。ーーNHKがそう考えているのなら、それはとんだお門違いだと言わなければならない。

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