ささやんの天邪鬼 座右の迷言

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

信号の話 利害と利害のバッティング

2019-04-11 11:32:38 | 日記
あちら立てればこちらが立たず。とかくこの世はバッティング、ーー利害と利害のバッティング。そんな世の慣(なら)いの只中に、この私が立たされているとは思わなかった。リタイアして隠遁生活を送っているこの私が、利害渦巻く世間の、そのバッティングの渦中におかれているとは、思ってもみないことだった。

先日のことである。リハセンの送迎車が問題の交差点に差し掛かり、赤信号で停止したとき、私はつい自慢げにこう言ってしまったのだった。
「この信号は青信号の時間が短くてですね、渡りきらないうちに赤信号になってしまうのですよ。だから困っていたのですが、もうじき改善されるのです。なに、私がちょっと陳情してみたのですよ。公明党の議員さんに話を持っていったら、その効果は抜群でした。ホント、困ったときの公明党、ですな」

すると送迎車のドライバーから、意外な言葉が返ってきた。
「ああ、そうですか。でも、それは困るなあ。この道路、いつも渋滞がひどいでしょう。それがますますひどくなりますからね」

なるほど!このドライバーの言葉で、私はすべてを了解した。この交差点の(歩行者側の)青信号が、身障者や高齢者の都合にお構いなく、(壮年層の)健常者の歩行スピードに合わせて設定されているのは、この道路を走行するクルマの渋滞を考慮してのことだったのだ。「のろくさ歩行者の都合」と「せっかちドライバーの利便」とは、たしかに利益相反の関係にある。「あちら立てればこちらが立たず」の関係である。若い頃だったら、私もこのドライバーと同じ感想をもらしただろう。

けれども、負け惜しみの私はこんな言葉を返した。
「でもねえ、身障者や年寄りが安心して渡れない横断歩道なんて、横断歩道の意味がないでしょう。運転手さんだって、今は若い気持ちでいるだろうけど、ヨボヨボになるのは時間の問題ですよ」
するとその(年寄りの)ドライバーは、こう言って笑い声をあげた。
「それなら、横断歩道はトンネルでも掘るしかありませんな」
信号が青に変わり、老年ドライバーはアクセルを踏んだ。アクセルを踏むドライバーの姿に、私は一瞬、若い頃の自分の姿を重ねたが、抗うようにこうつぶやいた。
「いや、オレはもう若くはないんだ。オレは年寄りなんだ。それにオレは、Whill に頼るしかない身障者なんだし・・・」
さあさあ、これからリハセンでリハビリの時間が始まる。ちっとも治療効果が期待できないリハビリの時間が。
これから始まるのは、決して楽しい時間ではない。そう思うと、私の心は晴れなかった。
コメント
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