「ゆるちょ・インサウスティ!」の「海の上の入道雲」

楽しいおしゃべりと、真実の追求をテーマに、楽しく歩いていきます。

「月夜野純愛物語」(ラブ・クリスマス2)(11)

2013年12月10日 | 今の物語
日曜日の夕方、ミウが昨日テルコと来た居酒屋「松野」に、またミウは顔を出していた。


昼間、テルコから、

「昨日は楽しかった。もしよかったら、今日もガールズトークしたいので、飲まないかい?」

というメールが届き、テルコと話していると、母親と話しているような、母親に許してもらっているような思いを感じたことを思い出し、ミウも、

「いいですね。行きます」

と返事をしたのだった・・・。


「テルコさん・・・来ました・・・」

と、テルコの座るテーブルに来たミウの足が少しだけ止まる。

「ミウちゃんとお酒を飲みながら、ガールズトークをしたって言ったら、興味持ったみたいだから、誘っただが」

と、テルコが言うそこには、咲田ヨウコの姿があった。

「お前が酒を飲めるっていうからよ、どんな話が出来るのか、見てやろうと思ってよ・・・」

と、ブスっとしている咲田ヨウコだった。

「どうせ、中身の無いお嬢さん話なんだろ。飲み会ってのはよ、自分の笑い話とか、つらい話とか、そういうのが出来ねえと失格だからな」

と、咲田ヨウコは飲み会の哲学の話をしている。

「お前の好みの男の話なんて、聞かされても不快なだけだからな。そういう話だけは、やめてくれよ」

と、咲田ヨウコは最初から牽制している。

「まあ、まあ、とりあえず生ビールで乾杯しようだが」

と、テルコがとりなしてくれる。

ミウら3人は生ビールを貰い、乾杯してから、3人とも最初の一口をゆっくりたのしむ。

「んぐんぐ、ぷはー・・・やっぱり、この瞬間だべや・・・最高に気分いいのわ」

と、テルコが豪快な感じで、言う。

「そうですね。美味しい、ビールが・・・」

と、ミウも言う。

「やっぱ、この瞬間だよなー」

と、そこは機嫌のいいヨウコだった。


「そういえば、昨日、聞き忘れたんだが、姫ちゃんって、一人娘なんだよな?」

と、テルコはミウに聞いてくる。

「そんな感じで、話してたから・・・母ちゃんとうまくいってないのは、それが理由だが?」

と、テルコはミウに言う。

その言葉に、ヨウコは静かにミウを見る。

「実は・・・今はひとり娘状態ですけど・・・実はわたしが大学3年生になるまで・・・弟がいたんです」

と、ミウは言う。

「弟・・・」

と、ヨウコが口にする。

「私が大学3年生の時、高校2年生で、サッカー部のキャプテンをやっていた、弟の姫島ユウ(17)は交通事故で亡くなりました」

と、ミウはビールのジョッキを置いて、静かに話し始める。

「朝早い時間に登校するために、信号待ちしていた弟達サッカー部の集団に酒酔い運転の車が突っ込んで・・・同時に5人もの人間が亡くなりました」

と、ミウは静かに話す。もう何度も話して・・・話し慣れているような感じだった。

「車を運転していたのは、大学に馴染めずお酒に逃げてばかりいた大学一年生の男性で・・・彼は事故後、自宅のアパートで自殺しました」

と、ミウは淡々としゃべっていく。

「事故を起こした男性の両親はすぐに謝りに来て、皆の前で土下座しましたけど・・・その両親も数日後には、自殺しているところが発見されました」

と、ミウは事実を確認するように話していく。

「そういう事実がありました・・・我が家はその事故が起こるまで、本当に明るい家族だったんです」

と、ミウは言う。

「弟はスポーツマンで、女性にも愛されていた・・・でも、将来は私みたいな女性と結婚するんだって言ってくれていました。それだけかわいい弟でした」

と、ミウは言う。

「弟の笑顔を中心に、わたしも、両親もいつも笑っているような、そんな家族だったんです。でも、その事故以来・・・まるで、笑いを忘れてしまったかのように・・・」

と、ミウは遠くを見るように言う。

「どんなに泣いても・・・どこにもぶつける先が無かったんです。弟も弟の友人たちも誰も悪くない・・・それなのに、理不尽な死が突然やってきて・・・」

と、ミウはいつの間にか涙を流していた。

「あの大学生の青年だって・・・その両親だって・・・死ぬことないじゃないですか?ちゃんと罪を償ってくれれば、ううん。私たちの思いをぶつける先になってほしかった」

と、ミウは涙声で言う。

「私たちの思いは、どこにもぶつけられずに・・・宙をさまよったままだった・・・それ以来、わたし達家族は、しっくりいかなくなってしまって・・・」

と、ミウは言う。涙を拭った。

「その頃から、母と・・・わたしはあまり上手くいかなくなっちゃったんです」

と、ミウは言う。

「父は・・・大学生の青年の両親に怒りをぶつけた事が・・・その両親の死につながったことを後悔しているみたいでした・・・それもやりきれなくて・・・」

と、ミウは言う。

「そんなことがあっただが・・・」

と、あまりの話に・・・少し引いていたテルコだった。

「弟・・・かわいがってたのか?」

と、ヨウコがミウに聞く。

「4歳年下で・・・サッカー部のキャプテンやってて、女性にモテてた・・・でも、わたしの事大好きで、よくわたしのアパートに遊びに来てたの。かわいかった」

と、ミウが言うと、

「つらかったか・・・弟の死・・・」

と、ヨウコが聞く。

「つらかったわ・・・それはそうじゃない・・・わたしの事全力で見てて、わたしの事大好きで、わたしがいないと寂しがって泣いちゃうようなそんな弟だったんだもん」

と、ミウは涙をボロボロ流しながら、泣いた。

「すまねえ、思い出させて・・・」

と、ハンカチをミウに貸すヨウコ。


「人生、いろいろな事があるんだなー」

と、テルコはビールを飲みながら、そんな感想を漏らす。

「おらもいろいろある方だと思ったが・・・姫ちゃんに比べたら、まだ、平穏な方だ。誰も死んでねえから」

と、テルコは言葉にする。

「姫ちゃんにも言ったが・・・娘とうまくいっでなくてな。皆、大なり小なり、いろいろあんだ」

と、テルコはヨウコに言う。

「おめーどうなんだ。そういう話、ねえだか?」

と、テルコはヨウコに振る・・・。

「俺は・・・」

と、ヨウコはビールを少し多めに飲むと、言葉を出し始める。

「俺は・・・父の顔は写真でしか知らねえ・・・横須賀基地の米兵だったんだ・・・でも、戦場で死んだらしい。それくらいしか、わからねえんだ」

と、ヨウコは言葉にする。

「ヨウコはハーフだったんだ?それでそんなに色が抜けるように白いのね」

と、ミウは言葉にする。

「ま、まあな・・・」

と、ヨウコは言葉にする。

「それで美しい顔をしているのね、ヨウコ」

と、ミウが言う。

「別に美しくは・・・ねえよ」

と、ヨウコは言う。

「んにゃ・・・ヨウコは自分が美しいことを知ってるべ?」

と、テルコが言う。

「え?」

と、ヨウコが戸惑う。

「いつも手鏡見ながら、髪型直してるべ。化粧なんかしなくても、すっぴんが美しいから、化粧もしてねえだが?」

と、テルコにズバリ言われて、少し黙るヨウコ。

「羨ましいな・・・肌も綺麗だし、ヨウコ・・・」

と、ミウが言うと、

「これしか・・・これしか、ねえし・・・俺の財産・・・」

と、ヨウコが静かに言う。

「これしか・・・なかったんだ・・・売り物になるモノは・・・」

と、ヨウコは静かに言う。

「売り物?」

と、テルコがポカンとして言う。

「いや、それはいいんだ・・・俺もあんまりいい目に会ってねえってことだ」

と、ヨウコは言う。

「だから、しあわせそうにしてる奴を見ると、つい、嫉妬しちまう・・・駄目なおんなさ」

と、ヨウコは言う。

「見えねえかもしれねえけど・・・これでも、大学に進学して将来に夢持っていたりしたこともあったんだ、俺・・・」

と、ヨウコは言う。

「どこの大学にいたんだが?」

と、テルコが聞く。

「東王大学文学部」

と、ヨウコは言う。

「名門だが・・・誰でも知ってる大学だが・・・」

と、テルコは驚く。

「お嬢さんが多かったけど、身入れて学問やってる女も多かったよ。皆、筋通して生きてる人間ばっかだった・・・俺は好きな場所だったんだ」

と、ヨウコは言う。

「その頃はどういう職種への就職を目指していたの?」

と、ミウが聞く。

「マスコミ関係を目指してた・・・でも、いろいろあって・・・大学続けられなくなって・・・自分で金稼がなくっちゃ生きていけなくなってよ・・・」

と、ヨウコは言う。

「大学の友人達が羨ましかった・・・なんで、俺はこんな運命なんだって、自分を呪った・・・だけど、仕方ねえ」

と、ヨウコは言う。

「それから、30になるまで・・・いいことなんて、ほとんど無かった・・・信頼してた男に金持ち逃げされたり・・・散々さ」

と、ヨウコは言う。

「だから、男も信じられなくなって・・・気づいたら、笑顔が消えてた・・・ざまあねえよ」

と、ヨウコは言う。

「男にお金持ち逃げされたって・・・いくらくらいの金額だが?」

と、テルコが質問する。

「500万くらいかな。恥ずかしいけど、結婚資金つーか、そういうつもりで貯めてたお金・・・馬鹿に持ち逃げされた本当の馬鹿は俺さ」

と、ヨウコが言う。

「実入りのいい仕事してたんだが?」

と、テルコが聞く。

「水商売だよ。キャバ嬢とか、いろいろやってた・・・」

と、ヨウコが言う。

「ヨウコなら売れっ子になれそうだもんね」

と、ミウが言う。

「やるしかなかった・・・俺にはそれしか手がなかったからよ」

と、ヨウコは言う。

「だからよ・・・俺はもう男なんて信じねえ・・・そう決めたんだ」

と、ヨウコはビールを飲み干す。

「おっさん、グレープフルーツサワーくれ」

と、ヨウコは店のおじさんに頼んでいる。

「男を信じねーか・・・それもっだい無くね?」

と、テルコが言葉にする。

「んなこと言ったって・・・信じられる男なんて・・・この世にいやしねえよ」

と、ヨウコは言葉にする。

「んにゃ、いるところにはいる。ぜってーいる。探し方が悪いんだ。なあ、姫ちゃんもそうおもわねえが?」

と、テルコは言う。

「実はわたしも・・・長く男性不信で・・・」

と、ビールを飲みながら言うミウ。

「姫ちゃんもそうだが?姫ちゃんも男に騙された口か?」

と、テルコは驚く。

「騙されたのとは・・・ちょっと違うかな・・・でも、信用出来なくなることがあったの・・・」

と、ミウは言葉にする。

「ふーん、信用出来る男を見つけられたのは、俺ひどりか・・・」

と、テルコは言葉にした。

「見つけたいな・・・そういう男・・・」

と、ミウが静かに言うと、

「見つけられるならな・・・」

と、ヨウコも静かに言った。


つづく


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