goo blog サービス終了のお知らせ 

Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

開かない扉

2017-03-10 01:00:00 | 雪3年4部(穴〜囚われた虎)


瞼の裏に広がる深い闇は、やがてそのまま遠ざかって行った。

雪は冴えてしまった頭を抱えながら、ゆっくりと上半身を起こす。

「あ‥眠れなくなっちゃった」



パッ



雪は立ち上がり、部屋の電気を点けた。

暗闇に慣れた目が、その光の眩しさに眩むようだ。

「‥‥‥」



雪はベッドの横にある姿見の前に座った。

そこには冴えない顔をした自分が映っている。



見慣れない顔



真逆に映った自分の顔。

それはまるで初めて出会った人がじっとこちらを見ているかのような、居心地悪さを雪にもたらした。

そして同時に、去って行った彼の背中を思い出す。

迷いなく吹っ切れたようなあの姿



私はいつも、河村氏のああいうところが羨ましかった。



他者の間で曖昧に揺れる自分とは真逆の彼の姿が、雪の心を刺激する。

雪はぼんやりと天井を見つめながら、今自分が置かれている状況を客観視してみた。

それでも私のやるべきことは変わらない。

四年生になること、アルバイト、就活、人間関係




その中で今、一番に考えなければならないことは。



暗闇の中に、彼が立ち尽くしている。

彼女が発する言葉を、じっと待ち続けながら。



雪は心の中で、先輩に向かって言葉を紡ぎ出した。

やるべきことは決まっているのに、自分が一体どうしたいのかが分からない。

その上でどうすればいいのか、混乱しているんです。先輩




先輩のことを「おかしい」と思ったのも私で



それを受け入れると決めたのも私



先輩が健太先輩に対して何をしたとしても、

別に何とも思いません




だけど‥



自身の手。

この手が彼の手を掴んで離さないことを、彼は知った上でそれを黙っていた。

自分が当事者となると話は別だった。

何か形として、被害を受けたわけじゃないけれど




彼が握るその答えを、聞かなければならない。

答えの眠るその扉を、開けなければ始まらない。



プルルル



呼び出し音が小さく響く。

たった数秒のことなのに、果てしなく長い時間に思えた。



「‥ん、雪ちゃん‥」







少し掠れた低い声が、呼び出し音が切れると同時に聞こえた。

雪は少しの間を置いてから、ゆっくりと話し出す。

「こんな時間に電話してごめんなさい」



「いや、むしろありがたいよ‥」







疲弊した声。

いつも耳にする彼の声とは、まるで違っている。

「会社、すごく忙しいんでしょう?」「うん‥」

「少し休みたいんじゃないですか?」「うん‥」



それでも、この胸の憂鬱を見て見ぬふりは出来なかった。

「私もです」







暗く深い闇の中で、淳は雪のその言葉を聞いていた。

それに対する答えを飲み込んだまま。



「‥‥‥‥」



暫く雪は彼からの返答を待ったが、まるで返ってくる気配が無かった。

沈黙の後、雪はその問題を自ら口にする。

「考えてみたら、私本当におかしかったですよね。

いきなり手を掴んで、縋り付いて‥」


「違う。全く」



「君はおかしくなんかない」



まるで頭からその疑問を打ち消すかのような、強い否定が雪を肯定した。



俯いた雪はその先の言葉を誘うように、ゆっくりと真実を探って行く。

「そのこと‥いつから知ってたんですか?」



けれどその先には、鍵が掛かっていた。

「一度でいいから、答えて下さいよ‥」



「たった一度でいいから‥」



扉は開かない。

「‥ごめん」







答えには、辿り着けない。

「ごめん」







沈黙の中で、雪は道を見失った。

その答えが眠る扉は依然として、鍵が無くて開けられない‥。









暗く深い闇の中で、彼はゆっくりと呼吸していた。

間接照明が照らす僅かな光が、その空間を照らしている。



床に散らばっているのは無数のガラスの破片と、

かつて彼が大切に守っていたコレクションの品々だった。



サインボール、限定もののスニーカー、

そして大事に飾っていたラジコンカーまでもが。






サインの入ったシューベルト「楽興の瞬間」の楽譜は、破られて捨てられていた。

これを渡す相手は、もうここには居ない。



まるで力尽きた子供のように、淳は床に横たわっていた。

先程まで彼女と通話していた携帯電話は、沈黙のまま放られている。








扉の内側で守って来たもの全て、傾いで転げ落ちて行く。

全ての価値観が今、覆りそうになっていた。





「雪ちゃん‥」



淳が掠れた声でそう言った。

けれどその声も、いつしか闇に溶けて消えて行く‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<開かない扉>でした。

鏡を見ながら自分を客観視する雪ちゃん。



以前、奨学金を譲ったことで言い争った後で、

鏡を見ながら内省していた淳のシーンとかぶりますね。

 

どちらも淳が「おかしい」ということに関して考えている点を見ても、ここのシーンはリンクしてるんでしょうね。

反対になっている自分の顔を見て、自分と真逆の性格の亮を思い出す所なんかも作り込まれてるなぁと感じました。

いや〜すごいわスンキさん‥

そしてやっぱり暗雲展開ですね。淳、全部壊したのか‥おおお‥

個人的に気になったのはこの淳の頭上にある木の棒です。



まさか‥鹿‥?



鹿〜〜〜〜〜〜

本体がどうなっちゃったのか知りたいような知りたくないような‥鹿ぁーーーー!!



次回は<迷子達>です。

☆ご注意☆ 
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!

人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています〜!

2017-03-08 01:00:00 | 雪3年4部(穴〜囚われた虎)


ふと空を見上げながら、雪が言った。

「あれ?」



「今ポツッと雨降って来なかった?」

「そう?分かんなかったけど」



雪が夜道を恵と共に歩いていると、ふとポケットの中の携帯が震えた。

ディスプレイには「河村静香」と表示されている。

「明日雪降るんじゃない?」



けれど雪はその着信を無視して、再び携帯をポケットに仕舞い直した。

「ううー、最近特別寒いよね、雪ねぇ」



そう言って身を寄せてくる恵の手を取り、雪は笑顔を浮かべる。

「手袋ないの?ほら、ポケットに手入れて」






二人は楽しそうに笑い合いながら、その場から歩き出した。

そしてそんな二人の背中を、少し離れた場所から見ている人物が居た。






河村静香。

携帯を持つ手が震えている。

「無視かよ‥?」



「店休んでる上に電話まで‥」



「無視かよっ‥!!」



高ぶる感情に任せて、静香は携帯をガラス戸に投げつけた。

ガシャンという音と共にガラスにはヒビが入り、傷の付いた携帯は地面に転がる。



胸の中に燃える炎が、全てを焼き尽くそうとしていた。

「あああっ!!」



「これのどこがあたしの味方だよっ‥!!」



まるで真っ暗な穴に吸い込まれて行くような気分だった。

震える静香の隣で、深い孤独が口を開けて待っている。

「もう本当に誰も居ない‥誰もっ‥」



「そもそも一体誰のせいで‥」



そう言って静香は歯をギリリ、と食い縛った。光はだんだんと遠ざかる。

「許さないから‥あたしを捨てるならー‥」





静香は床に置かれた携帯に視線を走らせた。

この中に、自分を穴に落とした奴らの連絡先が入っている‥。












そこに縁のある者が見れば、垂涎物のコレクションの数々。



それは整然と、秩序を守られ飾られていた。



一番見栄えの良い棚に飾られているのは、選りすぐりのお気に入りだった。

サインボール、蝶の標本、限定物のラジコンカー。







青田淳は、それらを暗い瞳で見つめていた。

かつての自分が、大切に守って来たそのコレクション。

けれど今その価値が、意味が、ゆっくりと傾いで崩れて行く‥。











その頃雪は、ぼんやりと明かりのついた寝室に寝転んでいた。

天井を見つめながら、昨日去って行った亮の背中を思い出す。

河村氏は一度も振り返らずに、前を向いて去って行った。







横に置いてある携帯がチカッと光った。きっとまた静香からの着信だろう。

雪は憂鬱な気持ちを押しながら、画面を立ち上げる。

そろそろ静香さんに応えるか‥

なんだか河村氏が行っちゃったことで孤独感が増して、私への執着が強まってる気がする




そう思いながらも、雪は携帯を置き目を閉じた。

いずれにしても勉強の約束もあるし、そろそろ会わなきゃいけないんだけど‥



私も‥静香さんもだけど、お互い余裕が無い状況で‥



瞼の裏に、真っ暗な穴が口を開けて待っている。

少しでも気を緩めれば、身体ごと持って行かれそうな深い闇が‥。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<穴>でした。

なんだか不穏な雰囲気ですね‥。

ていうか静香‥本当に依存体質なんですね。これをなんとかしないことにはラストは見えてこないような。


次回は<開かない扉>です。

☆ご注意☆ 
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!

人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています〜!

河村亮

2017-03-06 01:00:00 | 雪3年4部(消えた兎〜河村亮)


雪は肩を上下させながら、呼び止めた亮に向かって問いかけた。

「河村氏‥本当に行っちゃうんですか?」



「嘘ついてどーすんだよ」



「そんじゃな」



そう言ってこの場から去ろうとする亮。

咄嗟に雪は声を出す。

「あの!それじゃ‥」



「そこまで」






突然ピッと、亮は線を引いた。

逆光と目深に被ったキャップのせいで、その表情は窺えない。







二人の間に空いた距離は、たった数メートルだった。

けれどまるでその間に大きな隔たりがあるかのように、雪はその場から動けない。

「そこまでだ」







繰り返されるストップ。

雪は目を見開いたまま、その真意を喉の奥で汲む。







亮は荷物を背負い直しながら、真っ直ぐにこう聞いた。

「オレのことが憎いだろ?」







ぶつけられたストレートなその問いは、雪の心に重たく響く。



結局受け止められずに、雪は彼から目を逸らした。

「‥‥‥‥」



亮は少し俯きながら、雪を呼び出したあの時のことを話し始める。

「あの日、確かにオレはお前を呼び出したけど‥

お前らを別れさせようとわざとそうしたわけじゃねぇんだ。

オレの高校時代の話のせいで、お前も沢山苦しんだだろ。

真実はこうだったんだって、ここを離れる前にお前に見せてやりたかっただけで」




「分かってます。心配してくれたんだなって‥。ただ私は‥」



雪は依然として目を逸らしながらそう答えた。

亮は真っ直ぐに雪を見つめながら、飾りのない言葉を投げ掛ける。

「淳は淳だ。アイツは変わんねぇ」



「これからどうして行くのか、全てはお前の選択次第だよ」



目を逸らしても、考えないようにしても、真実は依然としてそこに在る。

そのことを指し示す亮の言葉が、雪の心を真っ直ぐに弾いた。



「分かってます‥」







亮はフンと息を吐くと、急にこんな話を始める。

「つーかよ!マジ最後の質問すんぞ!正直に答えろよ?!」



「どう見ても淳よりオレのがイケメンだろ?マジでリアルに答えろ!」

「‥‥‥」



亮はそう言ってイケメンポーズをキメた。

突然のその話題に、雪はポカンと口を開ける。

「どーだ?そーだろ?」



それはいつもの亮だった。自信満々で、少し図々しくて。

思わず雪は笑顔になる。

「はい!イケメンです!」







亮は雪のその顔を見て、穏やかに微笑んだ。

雪の笑顔、それこそが、亮が一番大切にしていたものだった。



宝物をそっと仕舞うように、亮は雪から目を外す。

そして呟くように、自分自身に言い聞かせるように亮はこう言った。

「確かに全てに嫌気が差したこともあったよ。

けどよ、今度こそ逃げるわけじゃねーんだ」








もうどこへ行ったって、きっとちゃんと生きて行ける。

喜びにも似たその気持ちが、今亮の胸を満たしていた。

「つーわけでイケメン河村氏はマジでもう行くぜ!」



「元気でな」







そう言って亮は歩き出した。

堪らず雪は声を掛ける。

「河村氏!どこへ行ったとしても、きっと上手くやっていけますから!」



「当然だろ」



片手を上げてそれに応える亮。

彼は振り返ることなく、最後にこう打ち明けた。

「ダメージ、凛として生きろよ」



「お前に出会えて良かった」


















遠ざかる背中と共に、記憶は急速に遡って行く。


初めて彼と出会った、数ヶ月前の春の日に。





「あ」







突然現れた、河村亮という男。

なぜ雪の前に現れたのか、その素性もその真意も何もかも分からなかった。

けれど運命の糸は、意図せずして二人の関係を紡ぎ出す。


「お陰様でおもしれーモン見せてもらったぜ」



「お前は他の奴とは違う何かを秘めてると思ってたのに‥ガッカリだな」




思えば、第一印象も次に会った時の印象も最悪だった。





落とした携帯を取りに行った時だって、一筋縄では行かなくて。


「おーっと」




何度も飯を奢れと食い下がられて。


「だからって本当に訪ねてくる人がどこにいます?!」

「ここにいますけど。何か?」








夏休み、塾で思わぬ再会を果たした。

彼はいつだって、煮詰まった雪の悩みに簡単に答えを出す。

「お前はオレに向かって生意気な口利くし大胆不敵だし、随分と骨のある女だなと思ってたけど、

実は自分の意見もロクに言えない、自分で自分のメシも用意出来ねぇような小娘だったとはな」





そして次第に、知ることになった。

彼が歩んで来た道を。


「お前、Impromptuって知ってるか?」




彼の明るさを。





彼と居る時、素直で居られる自分自身を。


「これ!受け取っ‥」「あーもーうっせーな‥」



ガッ!



「くぅ〜!オレの鼻がぁぁ!」








そしていつも、助けてくれた。





道に迷いそうな時、そこに居てくれた。


「お前何してんの?」



「河村氏‥」




どれだけ心強かっただろう。





本当はとても脆いものを、胸の中に秘めていたけれど。






「わ!本当にエプロンしてる!似合ってるし!」「ユニホームは必須だろ?」




途切れなかった、彼との縁。





次第に見せる、色々な顔。





限り在る関わりの中で彼はいつも、傍で見守ってくれていた。





踏み込むでもなく、見放すでもなく。









彼の奏でる少しぎこちない旋律が、心の襞を震わせる。


「一緒に勉強しても‥構わねぇかな」








あの時鮮明に見えた彼の気持ち。


今雪ははっきりと思う。


彼に出会えてよかった、と。








「私もです」



雪がそう言葉を返す。



けれどもう、そこに亮の姿は無かった。







俯くと気持ちが零れそうで、空を仰いだ。

そこにはまん丸い満月が、彼の旅立ちを照らしていた。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<河村亮>でした。

遂にこの時が‥うぐっ‥来て‥うぐっ‥しまいましたね‥

亮さんが行ってしまった‥ああ〜〜〜(言葉にならない)

回想シーンが一段としんみりさせてくれました。

そして最後の空に満月が浮かんでいる描写が感慨深い。

今まで亮さんが見上げて来た空って、曇っていて星も月もないものばかりだったじゃないですか。

それが最後にまん丸い月が出ていて‥これから彼の歩む道が明るいものであることを暗示しているようで、

ジーンとしました


けど‥

せめて雪に思いを伝えてほしかったなぁ‥ピアノでの晴れ姿見たかったなぁ‥

なんだかしばらく亮さんロスになりそうです‥はぁ〜‥


次回は<穴>です。


☆ご注意☆ 
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!

人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています〜!

虫の知らせ

2017-03-04 01:00:00 | 雪3年4部(消えた兎〜河村亮)


さわさわとした胸騒ぎを抱えながら、雪は一人帰路についた。

しんとした夜道をゆっくりと歩く。

胸騒ぎは、消えない。









立ち尽くす彼の、瞳の中に答えを探すその眼差しが、雪の心を微かに揺らす。

まだ何も答えは用意出来ていないというのに。






瞬きをすると、そこに居たはずの彼は消えた。

胸の中の重たい気持ちが、雪に幻影を見せる。

「‥‥‥‥」






彼に対してなんと言ったら良いのか分からないくせに、いざ居ないと分かると落胆した。

身勝手な矛盾を持て余しながら、雪は無言で家に入る。







真夜中の静寂。

雪は布団に横になりながらも、まるで寝付けなくて何度も寝返りを打った。



胸のざわめきは、どんどん大きくなる。







ふと鼓膜の裏で、ピアノの音が聴こえた気がした。

雪は布団から飛び起きると、身支度をして家を出る。



不意に胸が騒いで、店まで走った。







まるで虫の知らせだった。

その胸騒ぎに突き動かされるかのように、雪は駆け足で店へと向かう。






「!」



そこには「今週いっぱい休業」と書かれた張り紙を眺める、亮の姿があった。

「いっそこれで良かったんだ。未練無く出て行ける」



「違いねぇ」



亮はそう言って荷物を背負い直した。

今にも背を向けて去って行こうとする亮を見て、雪の目が見開かれる。



「河村氏っ!!」



雪は彼の名を思い切り叫んだ。

亮は足を止め、彼女の方を向くー‥。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<虫の知らせ>でした。

短い記事になってしまってすいません!

雪ちゃんまぼろし見すぎよぉ〜〜!どんだけ〜〜!

そして次回、ううううう‥

タイトルは、<河村亮>です。長いですよ!


そして今日3月4日は、河村静香氏の誕生日です〜

おめでとう静香



色々乗り越えて自立するんだよ!頑張るんだよ‥!(親心)


☆ご注意☆ 
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!

人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています〜!

音に乗せて

2017-03-02 01:00:00 | 雪3年4部(消えた兎〜河村亮)


大学を出た二人は地下鉄に乗った。

座席に座った雪の前に亮が立つ。

「店、休業中だって?」

「はい。お父さんの腰が良くないので、療養の為にも‥」



雪はずっと気になっていたことを聞いてみた。

「河村氏、高卒認定検定の方は‥」



「心配すんな。勉強は続けてるからよ」



亮がそう答え、雪は安心する。

そうして二人は、雪の叔父が経営するカフェへと向かった。



カフェの横にあるその倉庫には、電子ピアノが置いてある。

それを弾くきっかけをくれたのは、雪だった。






ゆっくりと音を出す。

雪は出入り口の辺りで立ち止まりながら、その調べに耳を澄ませた。






繊細ながらも音は色づき、いつしか亮の顔に笑顔が浮かんでいた。

弾むようなメロディが、彼の心まで躍らせる。















雪はずっと、亮の横顔を見ながらピアノを聴いていた。

普段の彼とは少し違う、シリアスな顔をした彼の横顔を。






やがて曲は終わり、音の余韻が去ると亮は真っ直ぐに両手を上に上げた。



パッと雪の方を見る。



「拍手は?」



その言葉にハッとした雪は、少しぎこちないながらも大きな拍手を彼に送った。

「わぁっ!本当に凄かったです。カンペキ!すばらしい!」

「それなりに完奏出来ただろ?」



「コンクールには出れずじまいだったけど、悲しむことなんて何もねぇっつーことだ」



力強くそう言う亮を見て、雪は穏やかに微笑んだ。

何かに焦れて苛立ちを抱えていたかつての亮は、もういない。



「実はよ、今日はこれを見せたかったんだ」



「はい、本当にすごかったです。何ていう曲なんですか?」



そう質問する雪に向かって、亮はニカッと笑ってこう言った。

「教えてやんねぇ」



「もう!何なんですか!からかって!」



亮に向かって怒る雪。

もう何度、この顔を見ただろう。もう何度、こんなやり取りを交わしただろう。

「今日お前に会ったら、伝えたい言葉が沢山あると思ってた」



「けど、違ったな。これで十分だ」



想いは全て、音に乗せた。

そして最後はこの言葉で、彼女へ伝える全てが終わる。

「ありがとな」







亮が口にする「ありがとう」を受け取りながら、雪は自分の胸がさわさわと騒ぐのを感じていた。

けれどその正体を確認する前に、亮は雪に背を向ける。

「今日のところはこの辺で」



「じゃーな」



亮はそう言って倉庫から出ると、

店の出入り口に居た雪の叔父と挨拶を交わした。



二言三言。

そしてここから去って行く。







雪はそんな亮のことを、その場に立ち尽くしたまま見送った。

胸のざわめきは、だんだんと強くなって行く‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<音に乗せて>でした。

亮さんは何を弾いたんだろうなぁ‥。シューベルトか、それともショパンか‥。

個人的にはもう一度「Maybe」弾いてほしかったなぁ‥

Yiruma, (이루마) - May Be


次回は<虫の知らせ>です。

☆ご注意☆ 
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!

人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています〜!