ふと空を見上げながら、雪が言った。
「あれ?」
「今ポツッと雨降って来なかった?」
「そう?分かんなかったけど」
雪が夜道を恵と共に歩いていると、ふとポケットの中の携帯が震えた。
ディスプレイには「河村静香」と表示されている。
「明日雪降るんじゃない?」
けれど雪はその着信を無視して、再び携帯をポケットに仕舞い直した。
「ううー、最近特別寒いよね、雪ねぇ」
そう言って身を寄せてくる恵の手を取り、雪は笑顔を浮かべる。
「手袋ないの?ほら、ポケットに手入れて」
二人は楽しそうに笑い合いながら、その場から歩き出した。
そしてそんな二人の背中を、少し離れた場所から見ている人物が居た。
河村静香。
携帯を持つ手が震えている。
「無視かよ‥?」
「店休んでる上に電話まで‥」
「無視かよっ‥!!」
高ぶる感情に任せて、静香は携帯をガラス戸に投げつけた。
ガシャンという音と共にガラスにはヒビが入り、傷の付いた携帯は地面に転がる。
胸の中に燃える炎が、全てを焼き尽くそうとしていた。
「あああっ!!」
「これのどこがあたしの味方だよっ‥!!」
まるで真っ暗な穴に吸い込まれて行くような気分だった。
震える静香の隣で、深い孤独が口を開けて待っている。
「もう本当に誰も居ない‥誰もっ‥」
「そもそも一体誰のせいで‥」
そう言って静香は歯をギリリ、と食い縛った。光はだんだんと遠ざかる。
「許さないから‥あたしを捨てるならー‥」
静香は床に置かれた携帯に視線を走らせた。
この中に、自分を穴に落とした奴らの連絡先が入っている‥。
そこに縁のある者が見れば、垂涎物のコレクションの数々。
それは整然と、秩序を守られ飾られていた。
一番見栄えの良い棚に飾られているのは、選りすぐりのお気に入りだった。
サインボール、蝶の標本、限定物のラジコンカー。
青田淳は、それらを暗い瞳で見つめていた。
かつての自分が、大切に守って来たそのコレクション。
けれど今その価値が、意味が、ゆっくりと傾いで崩れて行く‥。
その頃雪は、ぼんやりと明かりのついた寝室に寝転んでいた。
天井を見つめながら、昨日去って行った亮の背中を思い出す。
河村氏は一度も振り返らずに、前を向いて去って行った。
横に置いてある携帯がチカッと光った。きっとまた静香からの着信だろう。
雪は憂鬱な気持ちを押しながら、画面を立ち上げる。
そろそろ静香さんに応えるか‥
なんだか河村氏が行っちゃったことで孤独感が増して、私への執着が強まってる気がする
そう思いながらも、雪は携帯を置き目を閉じた。
いずれにしても勉強の約束もあるし、そろそろ会わなきゃいけないんだけど‥
私も‥静香さんもだけど、お互い余裕が無い状況で‥
瞼の裏に、真っ暗な穴が口を開けて待っている。
少しでも気を緩めれば、身体ごと持って行かれそうな深い闇が‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<穴>でした。
なんだか不穏な雰囲気ですね‥。
ていうか静香‥本当に依存体質なんですね。これをなんとかしないことにはラストは見えてこないような。
次回は<開かない扉>です。
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とんでもないことが起こる前に。って思ってしまうねぇー
りょうさまロス。
亮が去り雪の無視を確認し
とうとうどん底まで来ましたね。
でも佐藤先輩は?
こんな時も思い出さないんかーい(笑)
これから彼女が何かをしても
結局自分の首を絞めるオチにしか
ならない気がしますが、、、
常に責任を転嫁し誰かのせいにする事で現実逃避し続けて来た静香は自分で這い上がる以外本当の成長にはならないでしょうから、、
酷いようですが私は落ちるとこまで落ちた方が良いと思いますね。
じゃないと静香のエピソード、救いが無さ過ぎる。河村姉弟、いよいよ終盤な感じしますね。さみちい。。
それにしても前回のコメント数に皆様の亮さん愛を感じました(笑)
青さん、車の件触れてくださってありがとうございます!路上駐車があまりにも多いのが気になっておりましたので・・・
前回の内容ですが、こちらのコメント欄で失礼します。
ホントホント、言葉にしなければ伝わらないですよね。
ただでさえ静香は被害妄想強め女子なのに‥。
うめやんさん
私も思いました!
佐藤先輩のこと思い出してあげて!!と‥。
断然雪より静香の味方になってあげてる気がするのに‥なぜ思い出しもしないのか‥(TT)
かりんとうさん
本当前回のコメント欄、亮さんへの愛で溢れてましたよね。
静香よ、亮さんくらい真っ直ぐに生きてみろ!そしたら読者から愛のあるコメント沢山つくぞ!と伝えたい‥。