その頃河村静香は携帯を握り締めていた。
その手は細かく震えている。
静香は心の中でひたすら繰り返した。
いない‥いない‥
けれどいくら繰り返したところで、携帯は鳴らない。
誰もいない‥!
沢山のメールを送っても、誰に電話を掛けても、誰からも返事も着信も来なかった。
静香は携帯を握り締めながら、一人その場でウロウロと落ち着かない。
「クソッ‥クソッ‥」
しん‥
どんなに待っても返信は来なかった。
こんな時に駆け付けてくれるような彼女の味方は、誰もいない‥。
「何なのよっ‥!もう‥」
垂れ下がる前髪の間から、怯えるような目付きで静香は男の方をチラリと見た。
痛いくらいの緊迫感の中で、ようやく携帯が震える。
「!」
「ほ、ほらっ!!返信!!」
勢い良く静香が差し出した携帯を、吉川は指先で摘むように持った。
画面には一通のメールが表示されている。
<クソ女>
分かりました。今から行くので待ってて下さい。
吉川は文面に目を通しても顔色一つ変えることはなかった。
ただ若干首を傾げながら「ふぅん」と言っただけだ。
ドクン‥ドクン‥
静香は吉川の向こう側にある玄関のドアを凝視していた。
なんとかこの男を油断させて逃げ出すことは出来ないものかと。
「と‥」
「と‥友達呼んだんだからもういいでしょ?!とりあえずこの子からお金借してもらうから‥!
この子あたしの知り合いの中で一番お‥お金持ちなの。だから‥」
早口でそう説明する静香の、その口元は終始引き攣っていた。
吉川は首を傾げながら、感じた違和感を口にする。
「けどよぉ、なんかおかしくねぇか?
そんなに携番入ってんのにどうして緊急事態に誰も連絡つかねーんだ?あぁ?」
「たった一人の弟ですら番号変えて姿くらましたんだろ?」
「一体今までどんな暮らしをして来たんだよ。
なぁ?亮の姉貴さんよ」
吉川は触れるか触れないかギリギリの距離で静香の周りをゆっくりと回る。
それは獲物が逃げ出さないよう囲い込み、恐怖を刷り込むのに最適な方法だった。
「言い忘れてたが、俺ぁ今亮のせいで腸煮えくり返ってんだ」
「あの野郎今まで色々な場所を点々と逃げ回りやがるからな〜んか隠してんなと思ったら、」
「家族がいたってわけだ」
急にピタッと動きを止めた男の気配を感じ、静香はビクッと身を竦めた。
予想通りのリアクションに、吉川はニタと笑みを浮かべる。
徐々に染み入るように、静香の身体が恐怖で竦んで行く。
そして吉川はそれを折り込み済みで、言葉を続けているのだった。
「だからこっそりここを見張ってたのによぉ‥もうトンズラした後だったとはな。
あのゴキブリみてぇなクソ野郎が‥」
「とにかくアンタには責任取ってもらわなきゃなぁ」
「アンタ、アイツの実の姉なんだから」
今まで振り払ったり縋ったりした”姉”が、肩に重たくのしかかる。
今静香はその”姉”の責任を、取らされようとしている。
「金がねぇならアンタに金貸して他のヤツに立て替えてもらわなきゃなんねぇな。
それもダメなら‥」
「だ‥だから呼んだじゃないのよ!」
震える声で叫ぶ静香に向かって、吉川は再びニタリと笑った。
「ああ、一人でも来てくれて助かったじゃねぇか」
「でなきゃアンタぐちゃぐちゃになった顔で、一生下向いて生きて行かなきゃならんくなったとこだ」
まるで恐怖の縄で縛られたかのように、身体が固まった。
首元に突き付けられた携帯の冷たさが、体温を一瞬で奪い去る。
バッ
ドクン、ドクンと、心臓が痛いくらい鳴っていた。
耳鳴りのように耳の奥がキンと絞られ、幼かった頃の自分の声が聞こえてくる。
抵抗したってぶっ飛ばされて‥絶対かないっこない‥
まるで水の中に居るかのように、くぐもった声が鼓膜の裏で反響していた。
叔母の怒号が、自分の悲鳴が、鼓動の動きに合わせて歪んで行く。
「‥っ」
静香は震える手を握り締めながら、止まらない冷や汗を流し続けていた。
目の前には、そんな反応を楽しむかのように男が笑っている。
静香は心の中で叫んだ。
あらん限りの大声で。
お願い、早く来てっ‥!!
瞼の裏に、駆けて来る彼女の姿を祈るように描き続けながらー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<囚われた虎(2)ー耳鳴りー>でした。
吉川社長怖っ‥
あの亮の同僚の男とずっと亮探ししてた印象しか無かったですが、
結構怖い人だったんですね。。
(↑こういうなんだかおちゃめ的な人物の印象だった‥)
そして静香のトラウマ発動‥全ては雪ちゃんに掛かって来るこの状況!
次回<囚われた虎(3)ー史上最悪の日ー>へ続きます!
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
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その手は細かく震えている。
静香は心の中でひたすら繰り返した。
いない‥いない‥
けれどいくら繰り返したところで、携帯は鳴らない。
誰もいない‥!
沢山のメールを送っても、誰に電話を掛けても、誰からも返事も着信も来なかった。
静香は携帯を握り締めながら、一人その場でウロウロと落ち着かない。
「クソッ‥クソッ‥」
しん‥
どんなに待っても返信は来なかった。
こんな時に駆け付けてくれるような彼女の味方は、誰もいない‥。
「何なのよっ‥!もう‥」
垂れ下がる前髪の間から、怯えるような目付きで静香は男の方をチラリと見た。
痛いくらいの緊迫感の中で、ようやく携帯が震える。
「!」
「ほ、ほらっ!!返信!!」
勢い良く静香が差し出した携帯を、吉川は指先で摘むように持った。
画面には一通のメールが表示されている。
<クソ女>
分かりました。今から行くので待ってて下さい。
吉川は文面に目を通しても顔色一つ変えることはなかった。
ただ若干首を傾げながら「ふぅん」と言っただけだ。
ドクン‥ドクン‥
静香は吉川の向こう側にある玄関のドアを凝視していた。
なんとかこの男を油断させて逃げ出すことは出来ないものかと。
「と‥」
「と‥友達呼んだんだからもういいでしょ?!とりあえずこの子からお金借してもらうから‥!
この子あたしの知り合いの中で一番お‥お金持ちなの。だから‥」
早口でそう説明する静香の、その口元は終始引き攣っていた。
吉川は首を傾げながら、感じた違和感を口にする。
「けどよぉ、なんかおかしくねぇか?
そんなに携番入ってんのにどうして緊急事態に誰も連絡つかねーんだ?あぁ?」
「たった一人の弟ですら番号変えて姿くらましたんだろ?」
「一体今までどんな暮らしをして来たんだよ。
なぁ?亮の姉貴さんよ」
吉川は触れるか触れないかギリギリの距離で静香の周りをゆっくりと回る。
それは獲物が逃げ出さないよう囲い込み、恐怖を刷り込むのに最適な方法だった。
「言い忘れてたが、俺ぁ今亮のせいで腸煮えくり返ってんだ」
「あの野郎今まで色々な場所を点々と逃げ回りやがるからな〜んか隠してんなと思ったら、」
「家族がいたってわけだ」
急にピタッと動きを止めた男の気配を感じ、静香はビクッと身を竦めた。
予想通りのリアクションに、吉川はニタと笑みを浮かべる。
徐々に染み入るように、静香の身体が恐怖で竦んで行く。
そして吉川はそれを折り込み済みで、言葉を続けているのだった。
「だからこっそりここを見張ってたのによぉ‥もうトンズラした後だったとはな。
あのゴキブリみてぇなクソ野郎が‥」
「とにかくアンタには責任取ってもらわなきゃなぁ」
「アンタ、アイツの実の姉なんだから」
今まで振り払ったり縋ったりした”姉”が、肩に重たくのしかかる。
今静香はその”姉”の責任を、取らされようとしている。
「金がねぇならアンタに金貸して他のヤツに立て替えてもらわなきゃなんねぇな。
それもダメなら‥」
「だ‥だから呼んだじゃないのよ!」
震える声で叫ぶ静香に向かって、吉川は再びニタリと笑った。
「ああ、一人でも来てくれて助かったじゃねぇか」
「でなきゃアンタぐちゃぐちゃになった顔で、一生下向いて生きて行かなきゃならんくなったとこだ」
まるで恐怖の縄で縛られたかのように、身体が固まった。
首元に突き付けられた携帯の冷たさが、体温を一瞬で奪い去る。
バッ
ドクン、ドクンと、心臓が痛いくらい鳴っていた。
耳鳴りのように耳の奥がキンと絞られ、幼かった頃の自分の声が聞こえてくる。
抵抗したってぶっ飛ばされて‥絶対かないっこない‥
まるで水の中に居るかのように、くぐもった声が鼓膜の裏で反響していた。
叔母の怒号が、自分の悲鳴が、鼓動の動きに合わせて歪んで行く。
「‥っ」
静香は震える手を握り締めながら、止まらない冷や汗を流し続けていた。
目の前には、そんな反応を楽しむかのように男が笑っている。
静香は心の中で叫んだ。
あらん限りの大声で。
お願い、早く来てっ‥!!
瞼の裏に、駆けて来る彼女の姿を祈るように描き続けながらー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<囚われた虎(2)ー耳鳴りー>でした。
吉川社長怖っ‥
あの亮の同僚の男とずっと亮探ししてた印象しか無かったですが、
結構怖い人だったんですね。。
(↑こういうなんだかおちゃめ的な人物の印象だった‥)
そして静香のトラウマ発動‥全ては雪ちゃんに掛かって来るこの状況!
次回<囚われた虎(3)ー史上最悪の日ー>へ続きます!
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