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Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

それぞれの関係

2013-11-15 01:00:00 | 雪3年2部(聡美父病院後~遠藤負傷)
河村亮は下宿の一室で、ベッドに座ったままぼんやりと考え事をしていた。



先日赤山雪の家の前で、青田淳と出くわした時の記憶が蘇る。

忌々しいあの顔。苛つかせるその態度‥。

  

亮は高校時代のことを続けて思い出していた。

亮も淳も、なんだかんだ彼女が途切れなかったわけだが、

今では彼女らの顔も思い出せないほど、互いに軽い付き合いしかしていなかった。

けれど‥。



亮は赤山雪の前での青田淳を思い返してみると、違和感を感じざるを得なかった。

あれだけ程度の線を超えるのを嫌っていた彼が、無邪気な少年のように彼女に接しているあの姿‥。



他人に興味が無くて、いつでも中立の立場に居た彼が見せた、彼女を心配する姿‥。



何も変わってないようで、どこか変わった彼の一面を亮は面白く思わなかった。

それは赤山雪が関っているからということには、まだ亮は気づいていないわけだが‥。





ところ変わって、こちらはA大学事務室横の非常階段。

遠藤修は、恋人の秀紀と通話をしている最中だった。



遠藤はこの頃秀紀が外出がちなことを静かに問い詰めていた。

一昨日どこへ行ってたんだ、勉強はどうしたんだと小言は絶えない。

それに対して秀紀は、一昨日は中学の同窓会があって‥とたどたどしく答えた。



明らかに嘘だ‥。

遠藤はあからさまなその言い訳に、煩わしさを感じずにはいられなかった。

「おい、いつまで嘘を吐くつもりだ?マジで別れたいのかよ?」



秀紀は答えない。

苛立ちと焦燥が、遠藤の心を波立てる。つい荒ぶる声を、その感情の昂ぶりを遠藤は止められなかった。

「疲れたんだろ?!ならそうはっきり言えばいいだろうが!」



遠藤が怒鳴ると、電話先の秀紀は幾らか慌てて真実を口にした。

一昨日は母親が自分に会いたがっていたので会いに行っただけだと。ただそれだけだから、と。

「‥‥‥‥」



遠藤は何も言わなかった。

暫しの沈黙の後で、秀紀がおずおずと切り出した。

「‥ねぇ、あたし実は‥今の家出たいの‥。近所の人があたしを‥」



しかし秀紀が言い終わらない内に、遠藤は思わずカッとして口を開いていた。

「だったらママのところに帰ればいいじゃねーか?!」



「行って楽~に生活すればいいじゃねーか?!ああ?!」

遠藤は自分が必死の思いで探し、貯金を全部はたいて敷金まで出した家を出たいと言われ、

頭に血が上っていた。誤解しないで、という秀紀の言葉も耳に入らなかった。

「当分は連絡しないでくれ。俺だってもうコリゴリなんだ!考える時間をくれ!」



呼び止める秀紀の声も構わず、遠藤は電話を切ると電池パックまで抜いて彼からの連絡を遮断した。

苛立ちが止まらない。

クソ野郎め!もう終わりだ、終わり!



遠藤はズンズンと大股で事務室に向かった。

部屋に入って目にしたのは、楽しそうに談話する赤山雪と青田淳の姿だ。



遠藤は苦虫を噛み潰したような表情で、自分の席へと向かった。

世の中の不条理さを恨まずにはいられない。

誰かさんは金のせいで性格まで小さくなっちまって、

誰かさんは奨学金まで譲り受けてアハハウフフかよ?




そのまま遠藤は赤山と青田から背を向けた。

くさくさする気分は依然として晴れないまま、その煮詰まっていく関係に、心の中は苛立ちに染まったまま‥。



そんな遠藤の心情などつゆ知らず、青田淳は赤山雪と会話を続けている。

「もうすぐ食堂をオープンするって?」



話題はオープン間近の宴麺屋の話である。雪の両親が開くお店だ。

「うまくいくといいね」 「へへ。昨日行ってみたんですけど、

インテリアも申し分ないしお店もすごく広いんです!」




今度遊びに来て下さい、と雪は先輩に言ったのだが、先輩は躊躇っている。

「んー‥それはちょっと‥」



雪はなぜ彼が躊躇うのか分からず、「ど、どうしてですか?忙しいですか?」と聞いたのだが、

先輩の答えは雪の斜め上を行っていた。

「ご両親にご挨拶するにはまだ早いんじゃ‥」



「もう!からかわないで下さいよ!」と言って、雪は先輩のことをポカポカ叩いた。

ゴメンゴメンと、先輩が笑いながらそれを受け止める。



その光景はどうみてもカップルがじゃれ合っているようにしか見えず、

見せつけられている助手さん達は少々ご立腹だ。


しかしそんな折、先輩が今日の分の英語のチェックを思い出し、雪にやって来た分を見せてと言ってきた。

「いくら伊吹のことでそれどころじゃ無かったとしても、やることはやらないと」



言葉に詰まる雪に、先輩はグイグイと迫ってくる。

「やって来なかったの?」  「うぅ‥」

  

モジモジとノートを持って俯いている雪。

しかし急に笑顔で先輩に向き直ると、嬉しそうにこう言った。

「じゃーん!バッチリやって来ましたー!



私を誰だと思ってるんです、と言って雪が不敵な笑みを漏らす。

先輩も笑いながら頷いて、二人は仲良くノートを広げて顔を寄せた。



なんかこのカップル変‥。

助手さん達は楽しそうに勉強する首席次席カップルを前に、何も言えずその光景を眺めていた‥。


二人は以前よりずっと親しげに会話をし、時にからかい合って、笑い合った。



病院の椅子でお互いを認め合ったあの日から、二人の仲は格段に良くなった。

先輩後輩としても、彼氏彼女としても。





「塾にも熱心に通ってるようで、何よりだよ」



雪の意欲的な勉強への姿勢に、先輩が満足そうに微笑んでそう言った。

彼は、彼女のひたむきに努力するところが気に入っていた。

先輩のおかげだもん。一生懸命勉強しないとね



それを聞いて雪は身の引き締まる思いをし、微笑んだ。

彼女は塾を紹介してくれた先輩への恩返しの意味を込めて、尚の事勉強に打ち込んでいるのだ。


雪と淳の新しい関係は順調な滑り出しだ。

今のところ、さしたる問題もなく上手くいっている。


問題なのは‥。




雪は事務補助のバイトが終わると、

その関係に未だ曖昧なものを抱えている彼の居る、英語塾へと向かって行った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<それぞれの関係>でした。

遠藤さんと秀紀さんの関係がこじれゆくのが歯がゆいですね‥。

秀紀さんの立場も遠藤さんの立場も読者は見ているので、どちらの気持ちも理解できるんですよね。

やっぱり問題は二人それぞれに余裕がないことでしょうかね。お金の問題もあるし‥。

そしてそれを突き詰めるとやはり諸悪の根源は青田淳に‥?

うーむ‥。

そして淳の台詞、「いくら伊吹のことでそれどころじゃ無かったとしても、やることはやらないと」

これこそが「青田淳イズム」ですね~!

やることはやらないと!気まずくても夕飯は食べに行かないと!的な‥。(^^;)


次回は<彼との関係>です。

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第二弾 赤山雪×青田淳

2013-11-14 01:00:00 | Movie
記事の方の「二人の始まり」を記念して、淳視点での雪を「つよがり」にのせて作ってみました!


Bluff 彼女の虚勢



第一弾よりはマシになった‥かな?

しかし動画制作楽しすぎて記事がなかなか進まない‥(^^;)困ったものです。。


*すいません「Cross road」の方は今のところ音源が無くて出来ずです‥。

気長に(よろしければ)お待ちください~~m(_ _)m


もう一度ここから

2013-11-14 01:00:00 | 雪3年2部(三者対面後~聡美父病院)


手術室の前に戻って来た雪が見たのは、

ぐっすりと眠り続けている青田先輩の姿だった。



雪は彼の前に立って、少しの間そこに佇んでいた。

静かな寝息が聞こえてくる。



全然起きない。

まさに爆睡と呼ぶに相応しい眠りっぷりだった。

彼の寝顔をじっと見ていると、口を開けたままどこか間抜けな表情をしている。



雪の中のイタズラ虫が騒ぎ出し、写メを撮ろうかと思い携帯を探ってワタワタした。

すると気配を察したように、先輩はフッと目を開ける。



雪は、エスパーさながらの彼のセンサーにビックリ仰天だ。

内心ビクビクながらも、雪は彼に今の状況を伝えた。

「お、起きました?聡美のお父さん無事手術成功して、リカバリールームに運ばれました」



それを聞いた彼は居住いを正し、いつの間にか寝てしまったと頭を掻いた。

しかし次の瞬間彼は微笑んだ。いつもの目尻の下がった笑顔で。

「とにかく、良かったよ」



雪はそのまま、先輩の隣に腰掛けた。

並んで座りながら、二人は目を合わす。



あの、と雪は口を開いた。

先輩は黙って彼女の言葉の続きを待つ。

「さっきは‥怒鳴ったりしてすみませんでした」



雪は頭を掻きながら、どこか決まり悪そうに乾いた笑いを立てた。

すると今度は先輩が、静かに口を開く。

「いや、悪いのは俺の方だ」



「雪ちゃんの言う通りだよ。俺がどうかしてた」

先輩は尚も言葉を続けた。

その謝罪に意外そうな顔をしている雪の隣で。

「亮のことは俺が口出しする問題じゃなかったのにな。雪ちゃんもそこら辺分かって行動してると思うし」



それに、と彼は雪の方をチラリと見て言った。



雪は真っ直ぐに先輩の方を見つめている。

「急に無視したり冷たくなったり、そういう行動、これからは気をつけるよ。

この前もそうだったよな」




二人の脳裏に、雪が合コンに行った次の日のやりとりが思い浮かぶ。

あの時も彼は雪を無視して、冷たい態度であしらった‥。




彼は珍しく幾分狼狽するような素振りで、言葉を続ける。

「どうして時々子供のようになってしまうのか、自分でも分からないんだ」



そんな彼の姿に、雪はその意外な一面を見る。



前に二人が和解した時も、そうだった。

それまで傲慢で堅苦しいと思っていた彼が素直に謝ったことで、雪は彼に対する印象が少し変わった‥。

  




雪は下を向きながら、その決心の全てを口にした。

「私も‥努力します。お互いに嫌なことがあったとしても全部忘れて‥」



「これからは失望することや不満に思うことがあれば、すぐに話し合って‥だから‥」

たどたどしく言葉を紡ぎながら、雪は先輩の方を見た。

口元に僅かな微笑みを湛える雪に、彼も柔らかく微笑んだ。

「‥私も、先輩も」  「ああ」




「俺、雪ちゃんを怒らせるようなこと絶対しないよ」 


「はは、本当ですか?約束ですよ?」


二人の間にある空気の温度が、ゆっくりと上がっていく。

そして次の瞬間、雪のお腹の虫が大きく鳴いた。



ぐうう、というその音に雪は赤面し、今日はろくに食べられなかったんですと言ってお腹を抑えた。

それもそのはず。もう時刻は深夜三時を回っており、二人は夕飯もまだだった。

すると先輩がブランケットの下から、ビニール袋を取り出して中を探る。



先ほど買ってきたのだが忘れていたと言いながら、中の物を取り出した。


「はい」




彼が取り出したのは、コンビニのおにぎりだった。

雪がきょとんとしてそれを目にする。





なんの変哲もない、コンビニのおにぎり。





けれど二人の間には、共通の記憶があった。


あのあまりにもぎこちない、コンビニでの食事。






しかしあのコンビニでのひとときこそが、今の二人を形作る出発点になった。




「バクダンは無かったよ」  「あれはレアですからね」












あの疑心と不信とぎこちなさでいっぱいだった雪の心は、

確かに前に進み、今彼と向かい合おうとしている。


彼もまた、雪を興味の対象としての存在から、

”彼女”として、特別な存在として、今彼女と向かい合おうとしている。








二人はもう一度ここから、二人を始めるのだ。











ジュースもあるから、と言って先輩は雪に袋の中身を勧めると、

自らおにぎりを剥き始めた。

あの時とはまるで違い、きれいなおにぎりが出来上がった。

「もう上手に剥けますね?」



そして彼は雪に向かって口を開く。

どこかで見たような表情で、どこかで聞いたようなその台詞を。

「俺に不可能なことがあると思う?」







夢の中の彼も、確かにそう言っていた。

あの時雪は何も言えなかった。

けれど今は、彼に向かって冗談も言える。


「見栄っ張り」 「え?俺がなにって?」




フフンと得意げな彼と、小さく吹き出す彼女と。





目を閉じて皮肉を返す彼女と、そんな彼女を横目で見ている彼と。







豪華な食事でもなければ、素敵な場所でもない、


ただのコンビニのおにぎりを、病院内の小さな椅子で。



そんな此処が彼氏と彼女としての、出発点となる。







二人は笑い合った。


消毒液の匂いに包まれた、温かな空気の中で。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<もう一度ここから>でした。


さて今回の話は「二人の再出発」という感じですね。台詞の無い最後のカットがとても好きです。

そしてこの一日の中で雪の靴の色がコロコロ変わりました‥。気づいただけでも三回‥。(^^;)







二枚目のやつ、上履きみたい‥。


次回は<それぞれの関係>です。

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<雪>彼女の中の喧噪

2013-11-13 01:00:00 | 雪3年2部(三者対面後~聡美父病院)
パチッと、雪は目を開けた。



一瞬何が起こったのか、自分がどこにいるのか分からなかったが、

凭れていたところからパッと身を離す。



隣の彼は、腕組みをしたまま眠っていた。

コックリコックリ、ゆっくりと船を漕ぎながら。



雪はその横顔を見ながら、複雑な気分に駆られた。

現実世界だけでなく、この人は夢の中でも口が達者だった‥。



すると手術室の扉が開き、聡美の父親を乗せた担架が出て来た。

手術は終了し、今からリカバリールームへ移るそうだ。



雪は突然の出来事に咄嗟に対応出来ず、横で眠る先輩の肩を揺すった。

先輩先輩、と雪は何度も呼びかける。



しかし先輩は唸るばかりで、一向に起きる気配が無い。

雪は深く眠りに入っている彼を前に、困り顔だ。



雪はブランケットを先輩に掛けると、

そのまま聡美達が居る病室へと向かった。









回復室にて、聡美が医師から説明を受ける。

雪と太一は、カーテンで仕切られた部屋のドア側で聡美を待っていた。



暫し時が経ち、説明の終わった医師が聡美に会釈して病室を出て行く。

繰り返し頭を下げる聡美の声のトーンは明るく、思わず雪と太一は笑顔になった。



聡美も笑顔で二人に向き直り、駆け寄った。

「峠は超えたって!運が良かったみたい」



その言葉に雪と太一は安堵し、彼女の父親の無事を心から喜んだ。

しかし聡美は、まだ手放しで喜ぶわけにはいかないようだ。

「‥だとしても当分は、リハビリを受けなくちゃいけないみたいだけど‥」



そう言って少し俯いた聡美の、滲んだマスカラで汚れた顔を雪は指で拭いてやる。

太一が力強く、しかし優しく、その肩を抱いてやる。

「すぐに良くなるって」 「そうっすよ、心配ないっすよ!」



聡美は二人に心からお礼を言った。

もう時刻は深夜二時を過ぎている。こんな遅くまで傍にいてくれたことに、聡美は感謝していた。



先ほど聡美の父親の友人から連絡が入り、もうじきここへ駆けつけるとのことだった。

姉もようやく飛行機に乗ったらしい。

聡美がもう大丈夫だからそろそろ皆も帰って、と言おうとすると、太一が強い口調でそれを遮る。

「オレ、ずっとここにいます」



聡美はそんな彼を、きょとんとした顔で見上げている。



二人はそれから、普段通りの調子で言い合いを始めた。

聡美が鼻をつまみながら、シャワーでも浴びてこいと太一にダメ出しする。

どうやら太一はゲーム三昧のあまり風呂に何日も入っていないようだ。



そんな聡美と太一の様子を見て、雪はようやく心の底から安堵した気がした。

非日常の中に戻って来た日常。それはこんなにも温かい。

「あっ」



不意に青田先輩のことを思い出し、思わず雪はそう声を出した。

そのまま二人に彼の元へと戻る旨を伝え、駆け出した。


















タッ、タッ、とペタンコの靴で歩く音が、

誰も居ない廊下に響く。





雪はぼんやりと一人歩きながらも、心の中で様々な想いが交錯するのを感じていた。


閑散とした病院の廊下を歩いている途中、

あらゆることが頭に浮かび、そして一瞬にして消えていった。




雪の脳裏に、今までの出来事の数々が走馬灯のように過っていく。

今まで自分の傍には誰が居ただろう。今まで自分の人生には何があっただろう‥。


家族、友達、同期、後輩、先輩、上司、先生、知り合い、隣人、彼氏、

モラル、態度、関係、礼儀、色々な思いや考え方










何人もの人が居た。

好きな人も、嫌いな人も、そのどちらでもない人も。


幾つもの出来事があった。

嬉しい事も、悲しいことも、そのどちらにも判断がつかないものも。


そしてその中に映る、曖昧な私の姿‥







雪は雪の人生の中で主役であるはずなのに、

彼女はどこかぼやけた自分自身のイメージを、その走馬灯の中に見た。

様々な人の色々な思い、それが彼女の心を揺らし、騒がし続けていた。








雪は吹き抜けが見渡せる場所で、幾つもの光の粒が舞う外の風景を見た。

彼女は一人でありながら、一人ではなかった。




三年生の夏休みの半分が、こうして過ぎていった






時の流れと自らの運命を、彼女はただそのままに享受する。


心の中を賑わすその喧噪に、必死に耳を傾けながら。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<<雪>彼女の中の喧噪>でした。

さて<<淳>彼の中の静寂>と対称になっていたのがお分かりになりましたでしょうか?

二人は同じシチュエーションで同じ場所を歩いているのですが、

心の中はまるで正反対ですね。

誰も居ない淳と、沢山の人が居る雪と。

これがピントのズレに繋がるんですが、残念ながらそのことに先輩が気づいていないですね‥。


さて次回は<もう一度ここから>です。



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夢の中で<黒い服>

2013-11-12 01:00:00 | 雪3年2部(三者対面後~聡美父病院)
ふと、雪は目を開けた。

長く深い眠りの果てに、ようやく目覚めた気分だった。




しかし目の前には、信じられない光景が広がっていた。

落ち着いたボルドーのテーブルクロスの上に、揃えて置かれたカトラリーが光っている。

皿に盛られた高級な料理の数々、ワインにキャンドル‥。




雪は思わず辺りを見回した。

どうなってしまったのだろう。



しかし視線を先まで伸ばしていくと、この光景の全てが見渡せた。

長いテーブルの先に、彼が座っている。



彼は下を向いて食事をしていたが、雪の視線に気がつくとニヤリと笑った。

いつか見たことのあるような、あの奇妙な笑顔で。



「先輩?!」と雪が声を発すると、

彼は「お腹が空いただろう?」と話し掛けてきた。



「いくらそれどころでは無かったとはいえ、夕飯は食べないとね」と言って、

優雅な仕草でステーキを切る。

雪は彼に質問をした。私はいつの間にここへ来たんですか、と。

「俺が連れてきたんだよ」



雪はその答えに驚愕した。

一体どうやって連れて来たというのか、再び雪は彼にそう質問した。

「俺に不可能なことがあると思う?」



自信満々にそう答えた彼を前にして、雪はあんぐりと口を開けた。

未だこの状況が飲み込めないでいる。



雪はテーブルの上の高級料理の数々を見て、当惑し始めた。

雪が夕食をご馳走するという約束になっていたが、こんな高額はとても払えそうにない。



雪はそのことを彼に伝えると、彼は「俺が払うからいい」と素っ気なく言って、

そのままワインを手にとった。



高そうなそれに、美味しそうに口を付ける。

雪の心はそわそわとして落ち着かない。この光景に当惑してつい忘れていたが、今は深刻な状況の最中では無かったか。

「あの‥今はまだ聡美のお父さんの結果も出てないのに、こんなことしてる場合‥」



そこまで言ったところで、彼はワイングラスをタンッと大きな音を立て、テーブルに置いた。

遠く離れた席に座っていても、顔を顰めたのが見て取れた。

そして彼は口を開いた。呆れたような表情をしながら。

「君はここへ来てまでも、いちいちそんなことを聞かないと気が済まないの?」



彼が手を広げる。

この素晴らしい食事を、共にする夕食を見ろと言わんばかりに。

「ようやくここまでこぎつけたのに、このまま気楽に食事をするだけではいけないだろうか?」



彼は言葉を続ける。

それは雪が心に秘めながらも拘ってきた、彼への不信の数々についてだった。

「俺が君の挨拶も無視して書類も蹴って、恥をかかせて嘲笑って助けもしなかったから、

もう俺とは食事をするのも嫌だ、ということ?」




いきなりの彼の言葉の数々に、雪は口をあんぐりと開けて固まった。

その心を覗かれているような感覚に、当惑して雪は口を開いた。

「いや‥どうして話がそんな方向に‥」



しかし彼は彼女の言葉を遮るように話を続けた。

真っ直ぐ彼女を見つめながら、瞬きもせず。

「君だって最初から俺を観察し続けていたくせに、俺の事には一瞬たりとも目を瞑ってくれないということ?」



彼は眉根を寄せながら、淡々と雪が気にしていたことを口にした。

「なぜそんな風に人の行動をいちいち詳細に問い詰めて、弁明を聞きたがるの?

自分のことは棚に上げて、どうして俺にだけ完璧を求めるの?」




彼は大きく手を広げながら、幾分大仰な身振りを付けながら話を続ける。

「努力しているにもかかわらず、相変わらず君との距離は縮まらない。そうだろう?」



「事あるごとに余計な推測をするのは止めにして、そろそろ自ら手を差し伸べてみたらどうなんだ?」

淡々と痛いところを吐く彼の言葉だが、雪は突然のその言葉の数々を受け入れるので精一杯だった。

ただ口を開けながら、赤裸々なその話が続けられるのを聞いていた。



彼がテーブルに肘を突く。

鋭い眼光が、長いテーブルを挟んで雪に注がれる。

「告白を受け入れた以上、その選択が失敗だったとしてもその責任を負うべきだ。そうだろう?」



どうしたい? 

そう言って彼は雪を見続けていた。



暗く、沈んだような色を帯びた瞳。

こんな瞳の色を、雪は去年何度も見たような気がした。

その目に映る自分の、怯えたようなその表情も。


そして彼は言葉を続けた。

「俺と、このままずっとこの距離を保ちたいの?」




遠い、彼との距離。

長いテーブルは心の距離そのものだった。

黒い服を着た彼は、奇妙な笑みを浮かべる彼は、雪の持つもう一つの青田淳の印象だった。


「それとも‥」





彼はその先の言葉は口にしなかった。

いや、出来なかった。

雪が目覚めたからだった。


黒い服を着た彼はそのまま、夢の中へ消えて行った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<夢の中で<黒い服>>でした。

暗い背景、黒い服、高級時計、高そうな靴、奇妙な笑み‥。

<夢の中で<白い服>>では対称の、

明るい背景、白い服、素足、温かな微笑み‥。

雪の中にある相反する彼のイメージが、端的に表れた二つの夢のお話でした。

こういった意味深な話をぶっこんでくるチートラ、本当止められません‥。

そして次回もまた、対称を持つお話です。

<<雪>彼女の中の喧噪>です。

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