Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

律儀

2013-10-21 01:00:00 | 雪3年2部(密会~再会)
雨は降り続いていた。



亮は下宿の窓から雨模様を眺めつつ、一人憂鬱な顔をしていた。



下宿の仲間たちはそんな亮の後ろ姿を窺いながら、そっとしといてやろうと陰ながら見守っている。

亮は、先日のことが気にかかってしょうがなかった。



軽い気持ちで意地悪をしていたら、とんでもないことになってしまった‥。

脳裏に、打ちひしがれた赤山雪の顔が浮かんだ。



どうしよう、と彼女は言った。必死に取ったノートだったのに、と‥。


亮はガラス窓に額を付けながら、罪悪感に苛まれていた。



雨は依然として降り続き、翌日になっても止むことはなかった。





次の日、SKK学院塾。



雨がザアザアと降る中、雪はノートを広げて途方に暮れていた。

水に落ちたノートのページは判別不可能だったので、新しいノートに要点を書き写しているところだった。



いつも真面目な雪のことだ。授業内容はおおよそ覚えてはいる。

しかし急いでメモした所や細かい箇所などはさすがに覚えておらず、ノートには空白が目立った。

雪は頭を抱える。

「何してるの~?ノート整理?」



顔を上げると、今日はグリーンのカラコンをした近藤みゆきが、雪の後ろからノートを覗きこんできた。

水たまりにノートを落としたんだと言うと、みゆきは気の毒そうに雪を見、そして屈託ない表情で言った。

「あたしのノートで良ければ見る?」



雪は彼女の言葉が信じられなくて、思わず聞き返した。

「えっ?」



みゆきは雪にノートを差し出した。

「そんなに細かくは書き込んではいないけど、白紙よりはマシでしょ?」と言って。

雪はそれを受け取り、申し訳なさそうに彼女にお礼を言った。



今ノートを借りるということは、みゆきが授業中勉強出来なくなるということだった。

それにも雪は恐縮したのだが、みゆきは気にしていない様子でカラカラと笑った。

「いつも頑張ってノート取ってたのにかわいそう。あれがゴミ箱行きなんて~!

超ショックだったでしょ~??」




そう言ったみゆきは窓の外を見て、未だ激しく降っている雨に顔を顰めた。

気晴らしにどこか飲みに行こうと彼女は言い出した。良い店を知ってるんだ、と明るく提案する。

「あ、そうだ!それと‥」



みゆきは鞄の中から、一本のボールペンを取り出して雪に差し出した。

先日雪のペンを壊してしまったので、新しい物を買ってきてくれたのだった。



雪はお礼を言って、それを受け取った。

心の中がほっこりと温かくなって、自然と口元には笑みが浮かんだ。





貸してもらったノートを開いて、新しいノートに書き写そうとした雪だったが、

そのページを見た瞬間動きが止まった。

スッキリ‥



このページだけかもしれない、と雪はペラペラとノートを捲ってみたが、全てのページが白紙同然だった‥。



いくらでも見ていいからね、と笑顔で言う彼女にもう一度お礼を言いつつ、雪は微妙な気持ちだった‥。




授業が終わり、雪は一人教室を出た。



先ほど飲みに行こうと誘って来たみゆきは、急用が出来たからと言って授業中にもかかわらず出て行った。

相変わらずの彼女に圧倒されつつも、雪は内心感謝の気持ちを感じていた。

とにかく少しでも筆記出来て良かった。誰も貸してくれなかったのに‥。思ったよりいい子なのかも



そのまま廊下を歩いて行こうとする雪だったが、後ろに居た女学生が”トーマス”を見て声を上げた。

「あれトーマスじゃない?また講師先生に怒られてる~。かわいそ~もっと優しくしてあげればいーのに~」



女学生達が見ている方向を窺うと、困ったような仕草で講師に向かっている亮の姿があった。

またなにかやらかしたのかと思いつつ、雪はそのまま立ち去ろうとした。

しかしそこで、講師の言葉が聞こえてきた。

「しかし生徒のノートを迂闊に触るだなんてどういうことかね?」



雪は思わず振り向いた。自分のノートのことに違いないからだ。

亮は大きな身体を折り縮めながら、ペコペコと講師相手に頭を下げていた。



そんな亮に講師先生はグチグチと暴言を繰り返す。出来ない奴だとか、何度失敗すれば気が済むんだとか‥。

亮は何度かムッとした表情もするが、その度笑顔を浮かべ直して講師に向き合った。

「ははは!まぁまぁ。人一人助けると思って貸していただけませんかねぇ?」



どうやら亮は、講師が持っている講義案を貸してもらおうとしているらしかった。

講師はなぜ亮のミスに自分が付き合わなきゃいけないんだと言って、なかなかそれを渡そうとしない。

むしろ懐疑的な表情を浮かべて亮を見た。

「どうしてそこまで欲しがるんだね?先ほど君の言ったことは実はただの口実で、

本当は私のノウハウを盗もうとしてるんじゃないのか?」




思いがけない講師の言葉に、亮は思わず固まった。



講師が言うには、自分のノウハウを盗んで新しい塾を開こうとしている人間が何人かいるらしい。

そして亮もその中の一人なのではないかと疑っているのだ。

亮は心外と言わんばかりに、思わず唸った。そして講師に向かって人差し指を突きつける。

「オレが塾を開くだって?!んなわけねーだろ!第一そんな頭もねーってんだ、ああん?!」



声を荒らげた亮に、講師は誰に向かって口を聞いているんだと言ってたしなめた。

亮は悔しさに暫し唇を噛んでいたが、気持ちを落ち着かせると再びへりくだった笑みを浮かべた。

「まぁまぁ、そう仰らずに~!どうか一度だけ貸して下さいよ。決して嘘じゃありませんから!

コピーだけしてすぐに返しますって~」




講師は、ノートを落としたという生徒の名前を亮に問うた。

亮は思わず「ダメージヘアー」と言いかけるが、何とか彼女の本名を思い出して口に出した。



すると講師はその名前を聞いて、私の授業で一番集中して頑張っている子だと記憶を辿ってみせた。

亮はこれ幸いと言わんばかりに言葉を続ける。

「あんなに頑張ってるのに可哀想だと思わないんですか?!このまま見捨てるおつもりですか?!」



そりゃないでしょうと言う亮に、講師はとうとう根負けして講義案を差し出した。

すぐにコピーして返すようにと言われ、亮は了承してコピー室へ向かう。

「テンキューッス!先生、近々きっといいことあるはずッスよ~!ハハハ!」



ヘラヘラと笑いながら講師を見送った亮は、彼が見えなくなると一つ息を吐いた。

柄にもなくペコペコと頭を下げて、機嫌を窺って‥。

疲労感がドッと押し寄せてきたようだった。






コピー室に着いた亮は、一人大声で先ほどの講師の愚痴をこぼしていた。

力任せにコピー機をガシャガシャとセットする。



しかし慣れないせいか、勘でボタンを押していくと変な出来になってしまった。

用紙が大きすぎる‥。



実は亮はコピー機をちゃんと使ったことが無かった。学生たちが使ってるのは見たことあるのだが‥。

用紙やサイズなど選んでいる内にワケが分からなくなってきた。コピー機はどこを押しても反応しない。

「ったくなんなんだよ!壊れてんじゃねーのか?!」



そんな亮の後ろから、オズオズと彼女が声を掛けた。

「あの‥そのボタンじゃないです‥」  「うぉっ?!」



突然現れた雪に、亮は心臓が止まるかと思った。思わず足を滑らせ、その場に倒れこんだ。

「なんだお前?!お化けか?!いつからいたんだ?!」



たまたま通りかかったら見えたのだと雪が言うと、亮は決まり悪そうに口を噤んだ。

ダラダラと汗を掻く亮と、タジタジと言葉を濁す雪。

  

二人の間の空気はぎこちなさが漂い始めたが、雪はコピー機に向き直って作業を進めた。

用紙を設定し直し、亮が気付かなかったボタンを押すとコピー機は正常に作動した。

亮はいとも簡単に動いたコピー機にキレた。ボタンに見えないボタンにも。



雪はそんな彼を見ながら、少しぎこちなく微笑む。



亮は彼女の方を見ながら、きまり悪さに口を噤んだ。

コピー機の前で二人、なんとも言えない気まずさを感じていた。



特に動揺しているのは亮の方で、雪の言動一つ一つに大きなリアクションで反応していた。

「次のページ開いて下さい」  「お、おう!」



「あの‥ありがとうございます」  「あ?!なんで分かったんだ?!」



「通りすがりに見たって言ったじゃないですか。それこそ怒られてる時から‥」  「ちくしょー!!」










雪の不運は、律儀な人たちの心遣いでなんとか良い方向へ向かいそうだ。

どしゃ降りの雨はいつか止み、やがて暖かな日が差すだろう。

きっとそれは、もうすぐだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<律儀>でした。

コピー機使えない亮、なんだか可愛らしい(笑)

前回と今回と、雨が良いモチーフになっていますね。今回で雪は雨が止みそうです。

次回は未だどしゃ降り中の二人が出て来ますね‥うーん。。


次回は<霧煙る関係>です。

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どしゃ降りの中で

2013-10-20 01:00:00 | 雪3年2部(密会~再会)
ノートが水に落ちた事件に続き、雪の不運は続いているようだった。

事務補助バイトの就業が終わる少し前、雲行きは怪しくなりとうとう雨が降り出した。



品川さんが窓の外を見ながらそれを嘆く。結構な降りだった。

雪は自分の鞄の中を見ながら途方に暮れた。小さい傘一つしか持っていないのだ。



今日はこの後先輩と会う予定になっている。

どうしよう‥。かなりびしょ濡れになるだろうなぁ‥



雪は憂鬱な気持ちのまま、事務室を後にした。



先輩は雪に会うと、彼女から小さい傘しか持っていない旨を聞いた。

すると先輩は問題ないと言わんばかりに、その手に持っていた傘を広げながら言った。

「一緒に入ってけばいいよ」



車のトランクに入っていたという傘は本当に大きくて、雪と先輩は一つの傘に肩を寄せて入った。



今日は前々から二人が約束していた、夕飯を食べに行く日だ。

お店まで歩いて行かなくてはならないのに、こんな雨とは不運である。


不意に先輩が、雪の肩が濡れてしまっているのに気付き、傘を彼女の方へ傾けた。

「これじゃあ大きい傘の意味が全く無いね。どれくらい歩く?」



目的の店はここの近所だというものの、少し歩かなくてはならない。

雪は自分に傾けられた傘を見て恐縮し、

「私なら大丈夫ですから、これじゃ先輩が濡れちゃいます」と言った。



しかし先輩は「俺なら大丈夫だから」と微笑みながら、彼女を見下ろしている。



先輩は、今日雪が自分があげた髪飾りをしてきていることについて触れた。

雪は髪の毛に手をやりながら答える。

「あ、はい!すごく気に入ってます」



かわいいし‥と続けて言う雪に、先輩は微笑んだ。

「うん。可愛いよ」








雪はいきなりの甘い言葉に固まったが、先輩はただスマートに微笑んでいる。

そして無邪気な少年のような顔をしながら、雪に向かって言葉を掛けた。

「今日連れてってくれる所がどんなとこなのか、すごく楽しみだよ」



その言葉に、雪は胸を張って言った。

「はい!それなりに一生懸命調べてみたんですけど、

大学の近くで高すぎない超人気店を見つけちゃったんですよ!我ながら結構自信あります」




その言葉に先輩は嬉しそうにしたが、雪は浮かない顔だ。

傘から手を差し出して、雨足を確かめる。

「でも雨がなぁ‥。急いだほうがいいかもしれませんね」



先輩は雨を見ながら、「このくらいなら大丈夫だろう」と言った。じきに雨は止むだろう‥。



その時だった。

突然黒い雲から雷の轟が聞こえ、それまでとは比べ物にならないほどの雨が降り出したのだ。

ザアアアアア‥



地面に叩きつけるような雨に足元はびしょ濡れになり、傘をさしているにもかかわらず二人は、その凄まじい飛沫で濡れていく。

「せ、先輩‥」

  

雪の頼りない呼びかけも、今やドドドという音に変わった雨音で消されそうだ。

先輩は暫し考えていたが、急に傘の持ち手を差し出し、雪にそれを持たせた。

そして自分の上着を脱いで雪に着せかける。



雪が戸惑っていると、先輩が空を見上げながら「行こう」と言った。



先輩が雪の肩を抱く。

「走れ!」という合図と共に、二人はどしゃ降りの中を駆けた。











結局二人が辿り着いたのは、かねてから雪が計画していたステーキ店ではなく、粉食店(とても庶民的な食堂だ)だった。

というのも、どしゃ降りの中店に向かっている途中、雪が寒さで震えていたのだ。

それを見た先輩は急遽目的を変更し、どこでもいいから入ろうと手近な店に入った。



雪はただ呆然と、食堂から窓の外を眺めていた。



向いに座る先輩は濡れた髪をワシャワシャと掻き分けながら、頭を振って水滴を落としていた。



雪は俯きながら、申し訳なさそうに口を開く。

「結局粉食店だなんて‥」雪はそう言った後、残念そうに肩を落とした。



先輩は気にしないでとフォローするが、雪は立ち直れない。

「こ‥こんなはずじゃなかったのに‥。ステーキ食べる予定だったのに‥」



「また今度行けばいいって。今日だけじゃないんだから。勿論雪ちゃんのおごりでな!」

軽く飛ばすジョークにも、雪は全く笑えなかった。

ようやく今までのお礼を兼ねて、まともなものをご馳走する機会だったというのに‥。

雪は自分の不運に俯きながら落ち込んだ。

「前髪がくっついてる」



不意に先輩が、雪の額を触りながら言った。手で前髪を軽くすく。

「まだ結構濡れてるな。タオル借りようか」



目の前の先輩の髪も濡れている。

突然の近距離とスキンシップに、雪は赤面した。それを見て、先輩が優しく微笑む。

  

ようやく雪の気持ちが落ち着いて、二人は会話を始めた。

外ではまだ雨が、しとしとと降り続けている。



「週末の勉強は捗った?」 

「はい、友達にも会ったし‥。実家はどうでしたか?」 

「うん、特に何も変わったことはないみたいだったな」


変わったこと‥。

先輩の言葉で、雪はあのことを思い出した。




「あ、そういえば家の窓が壊れてて、大家さんのお孫さんが無料で直してくれたんです。

専門家でもないのにすごく上手で‥」




先輩はそれを聞いて、眉根を寄せた。

「へぇ‥けど女の子の一人暮らしの家に、知らない男をやすやすと入れるもんじゃないぞ」



それに対して雪は、隣に住んでいるおじさんが紹介してくれたから大丈夫だという旨を伝えた。

修理の間もずっと側にいてくれたからと。

しかし先輩はそれに対しても良い印象は持たなかった。

「え?隣にも男が住んでるの?雪ちゃん一人だったのに、男を二人も家に入れたってこと?」



雪はそう言われてみればそうだと思い直したが、

隣のおじさんはそう疑うような人じゃないと、率直な気持ちを言った。

「こら。その人がどうこうを言ってるんじゃない」



しかし先輩は雪に厳しい表情で注意した。

女の子が一人で暮らす以上、何事も注意するべきだと。そして今度からはそういう時は自分を呼んでと雪に言った。

「はい‥けどどうせ夏休みが終わる前に部屋引き払うんで、あまり心配しなくても大丈夫です」



雪はこんな風に心配してもらうことに、何となく心がこそばゆくなって頭を掻いた。

彼女は今までずっと一人で問題を解決してきた。甘えることをしてこなかった‥。







先輩は尚も雪を心配し、何かあったら必ず自分に連絡するようにと念を押した。



そう言われて雪は、脳裏にとあることが思い浮かんだ。

洗った下着を数えていた時、その数が減ったような気がしたことに‥。



しかしはっきりとした確証は無い。

何枚洗ったかも覚えてないし、気付かない内に失くしただけなのかもしれない。

それに‥



チラッと、雪は目の前に座る彼を窺った。

先輩は真っ直ぐに、軽い微笑みを浮かべながら雪の方を見ている。





とてもじゃないが、先輩に下着の話など出来るわけがなかった。

まだ付き合ってほんの数日なのだ‥。



雪は頭を抱え、先輩がそれを不思議そうな顔をして眺めていた‥。




「あ、そうだ。ボランティアの話通しといたから。週末一緒に行こう。迎えに行くよ」



先輩の言葉に、雪は嬉しそうに顔を上げる。

「あ、はい!ありがとうございます!」



頑張りますね、と雪が続け、先輩が微笑みながら頷く。


そして二人の会話が落ち着いた頃、料理が運ばれて来た。

大皿に乗ったそれを、二人で取り分ける。



今日は申し訳ない気持ちでいっぱいだから、と雪は先輩に一つしかないタマゴを譲る。

先に取り分け始めた先輩は、珍味のスンデもちゃんと取っていた。

「あれ?スンデ食べれるんですね?」と言う雪に、先輩は心外な顔をして反論する。

「俺はただポンテギが苦手なだけであって‥好き嫌いは無いよ‥」



それならばこれはどうだ、それは? あれは?と雪は先輩の言葉が本当かどうか探る‥。


二人は会話しながら、楽しく食卓を囲んだ。



予定していたステーキではないが、二人共びしょ濡れでキマってもいないが、雪と淳の間にある空気は温かだった。

  



まだ外では雨が降り続いている。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<どしゃ降りの中で>でした。


スンデとは‥豚の腸に、豚の血液、餅米、刻んだ香味野菜、唐麺(デンプンで作った麺。チャプチェの麺などに使われる)などを入れた後、蒸して作る。切った後に、調味塩(塩と胡椒)を添え、軽食として食すのが一般的。

だそうです。wikiより。

今回の話は本家版と日本語版すこーーーし違っているところが多々あり、見比べながら記事を書いていて楽しかったです。

皆さんもお暇な時、見比べてみて下さい~♪


次回は<律儀>です。

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運の悪い日

2013-10-19 01:00:00 | 雪3年2部(密会~再会)


また月曜日がやって来て、夕方雪はSKK学院塾にいた。

一人もくもくと勉強している。



ギッシリと書き込まれたノートは、努力の証だ。

真面目に授業を受ける雪の隣で、近藤みゆきが話しかけてきた。

「ゆっきぃ~~!あのさあのさ~!」



相変わらずの大声に、雪は「もうちょっと静かに喋ろうか」と小声で諭す。みゆきちゃんの扱いにも慣れたものである。

近藤みゆきはごめんと謝った後、今度はコソコソと耳打ちした。

ボールペンのインクが切れてしまったので、貸してほしいと言う。



至近距離で彼女に接した雪は、思わず俯いた。タバコの臭いがするのだ。

タバコの臭いが大嫌いな雪は、ボールペンを差し出してから手で鼻を覆った。聡美はそうでもないのにこの子はヒドイ。

するとみゆきが「あっ!」と声を出した。ボールペンを落としてしまったのだ。



落としたボールペンはインクが出なくなっていた。

雪はボールペン代300円がパァになったことに愕然とする‥。






なんとかみゆきから逃れて廊下で水を飲んでいると、彼が現れた。

「うへ~泣けるね~。水飲みながらも勉強とは。エグいね~」



ノート片手に水を飲んでいた雪を見て、モップ掛け最中の亮は呆れたように言った。

雪は至極真面目な勉強家だが、それは雪に限ったことではない。

「私だけじゃありませんよ。皆も常に教材片手に暗記してますし」



雪の言葉に、亮は確かにそうかもしれない、と言った。

亮がヘルプで入っている幼稚部の子供達でさえ、そんな感じだという。勉強していくということは、思った以上に大変そうだ。

「下宿で国家試験の勉強してる奴らもそんな感じだな」



雪は同意した。大学の勉強も大変だが、国家試験となると尚の事であろう。

亮は「まぁオレの知ったこっちゃねーけど」と言うと、モップにもたれかかりながら言葉を続けた。

「そういやさっき怒られちまってよー。ここの有名講師ってやつがオレに届け物を頼みやがったんだが、

オレが他の物届けちまったんだよ」




有名講師はミスをした亮を、グチグチと嫌味たらしく非難した。

亮は大人しく頭を下げ、ひたすらに謝ったと言う‥。

「切られるかと思ってハラハラしたけど、それだけで済んで何よりだぜ」

そう言った亮を、雪は少し意外に感じた。

「へぇ~ そういうの心配したりするんですね?」



雪の言葉に、亮は「金がいいからな」と言った後、自分の非を認めた。

「それにオレがミスったんだ。どうこう言える立場じゃねーだろ?」



グチグチと言われるのは腹が立つが、怒られたこと自体は自分に非があると亮はサラリと言った。

雪はそんな亮を見て、色々なことを我慢して頑張って生きているんだなとやはり意外に思った。

もっと向こう見ずだと思っていたが、案外真面目な人なのかもしれない‥。



亮は続けてモップ掛けをしながら、雪の持っているノートに目を留めた。

そして彼女の手からそれを取り上げると、横文字がズラズラと書かれたそれを見て顔を顰めた。

「とにかくコイツがいけないんだコイツが。このヘナチョコ言葉が全世界を混乱させてやがるんだ。ったく」



雪はノートを返してもらおうと手を伸ばした。授業中一生懸命取ったノートだ。

そんな彼女に構わず亮は、パラパラ捲って中身を見た。しかし何が書いてあるのかさっぱりだ。

そのまま亮はノートを持ちながら、雪に届かないように高く掲げた。



困った雪を見ながら亮は笑い、「届かねーだろ?」と意地悪く言う。



しかし次の瞬間、亮の手からノートが滑り落ちた。

そのままそれは宙を舞い、バサバサと音を立てて地面に落ちた。



ただそれだけなら良かったのだが、落ちた先が問題だった。

ノートは先ほど亮がモップ掛けを終えた後の、濡れた地面にベシャっと落ちた。



雪は血相を変えてノートを拾い上げると、声にならない叫びを上げた。

後ろで亮がそれを恐る恐る窺っている。



中身を見た雪は呻き声を上げ、傍に居た亮は何も言わずに、そっとその場から離れたのだった‥。












教室に戻った雪は、ひたすらに自分の運の悪さを呪った。

もう一度ノートを開いてみるも、それは見るも無残なものだった。



濡れたページは字が滲み、せっかく細かく書き込んだ内容も水の泡となった。

雪はクラスメートの何人かに、ノートを貸してくれないかと頼み込む。

「あの‥申し訳ないんですけど、ノート取ったやつ見せて貰えませんか?すぐに返しますんで‥」

  

すみません、今使ってるんで‥ 次の授業の予習があるから‥ 無理です‥

しかし皆自分のことで精一杯で、誰もノートを貸してくれなかった。

それを責めることも出来ず、雪は項垂れた。



ドアから教室に入ってくる近藤みゆきの姿を見かけたが、あの子に限ってノートを取ってるはずもないだろう。

雪は諦め、一人溜息を吐いた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<運の悪い日>でした。

水を飲んでいる雪の後ろ姿、スタイルいいですね~!

余談ですが作者さんが思う雪に一番似合うファッションは「スキニージーンズ」だそうです。

スタイルいいから似合いますね!


次回は<どしゃ降りの中で>です。


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狐とライオン

2013-10-18 01:00:00 | 雪3年2部(密会~再会)
Tシャツの首元に手を添わせながら、青田淳は鏡を見ていた。



いつもは目尻の下がった眼差しをしている彼だが、独りの時はこういう顔をしていることが多い。

その鋭い目つきと、他人を陥れる面を見せる時の彼はまるで狐のようだ。



引き出しから、幾つもの腕時計が覗く。不意に、机の上に置いてある携帯電話が震えた。

届いたメールは静香からのものだった。

この薄情者。いつまでも涼しい顔してられると思ったら大間違いなんだから



淳はそれを一瞥した後、何事も無かったかのようにポケットに仕舞った。

ふと机の上にある、一つの人形に目が留まる。



つい携帯電話に付けるのを忘れていた。

赤山雪と揃いで買った、ライオンのストラップだった。



淳はそれを手に取りながら、フゥと息を吐く。



そのモジャモジャのたてがみを見ながら、思い出す過去があった。





思い出したのは、去年のことだ。



そのふさふさした髪を揺らして、彼女は転びかけた。

去年の春学期、佐藤広隆が開いた自主ゼミでの帰りだった。

自身を嘲笑った彼女に気が障って、一つ目の警告を発したあの日。


淳は退屈と、疲弊と、慢性的な虚無感を毎日感じている頃だった。

高校時代の同級生と集まってみても、皆そんなモヤモヤとした何かを抱えているようだった。

あー俺大学辞めよっかなぁ。マジダルいし超つまんないし、

こんなんだったら留学した方がまだマシだよ。 単位放棄すりゃいいじゃん。 お前と一緒にすんなよなー




淳の行っている大学はどうだと振られた時、彼は淡々と言った。

まぁ‥どこも皆一緒だろう



どこへ行ったって何をしてたって、

つまらなくって仕方が無かった。

退屈が蔓延して、毎日が同じことの繰り返しだったあの頃。




赤山雪への二度目の警告の後、淳の表情は険しかった。



いつもは感情を表に表さない彼の異変を、横山も柳も感じ取って退いた。

気に障ることがあったと言う淳に、柳は「お前にもそういう時があるのか」と意外そうな顔をしていた。

淳はこう答えたはずだ。


「人間なんだから無いはずないだろう」と。


平凡な日常、凡庸な人々に囲まれていつの間にか忘れていた人間らしさというものを、

赤山雪に関わる度、次々と引き出された気がする。

当時はそれが気に障って、うざったくて、彼女のことが嫌いだった‥。





淳はどこか彼女に似たライオンのストラップを眺めながら、そんなことを思い出していた。

あの時は今こんなことになるなんて、思いもしなかった。



人生とは予測できないものだ。

そして俺もやはり、予測できないことがある‥。


淳はライオンのストラップを、手のひらで包むようにしてそっと置いた。



その柔らかな髪の毛の感触を、ふっと思い出しながら。








週末が終わる夜、雪は母親と通話していた。

母の機嫌は悪く、昼間何度も雪に電話を掛けたのに出なかったとグチグチ言った。

友人と会っていた為マナーにしていたせいで気付かなかったと雪は言ったが、それには構わず母親は言葉を続ける。

はぁ‥最近はヘトヘトよ。お父さんは店に無関心だし‥

物件も一緒に見に行ってみたけど、インテリアだって私が全部決めたのよ




雪は洗濯物をたたみながら、母親からの文句に付き合っていた。

雪なりの助言も口にする。

「そっか‥でも一度ちゃんと言ってみたらどうかな。

この前帰った時はお父さんなりに少しは店のこと考えてるみたいだったよ」




しかし母親は、とんでもないと言わんとばかりに荒い口調で言い返した。

そう見えるだけよ!あんただってお父さんの性格よく分かってるでしょ?!

いつも口だけで店を出すこと自体嫌がってたんだから!




その勢いに携帯電話が跳ね上がりそうだ。

母親の小言は怒りから、やがて哀しみを含んだものに変わってくる。

自ら立ち上げた事業を大きく育て、いつか大企業の社長になるんだと言って奔走していた父。

しかし結局倒産し、気持ちの整理もつかないまま妻の経営する小さな飲食店で働くことになった父。

そんな彼の姿を見て、雪の母はもどかしい気持ちでいっぱいだった。小さく丸めた背中を、可哀想だとも思うと言った。

「‥‥‥‥」



母もまた、雪と同じように頑固な父に頭を悩ませ、気を揉んでいる。

様々な思いを抱えながらも、その言葉が届かない母の苦労を分かつように、雪は黙って聞いていた。

すると母は「お父さんもお父さんだけど、」と前置きをしてから、小言の矛先を今度は子供達に向けた。

まずは自由奔放な長男、雪の弟の蓮についてのことだった。

蓮ったら本当薄情なんだから!家の話をしたらまた連絡が無いのよ!



雪は弟の薄情にため息を漏らしたが、続けて母は雪を非難した。

あんただけでも家のことをもっと気遣ってくれと。

あんたもあんたよ、まったく!



雪は不機嫌な母を思って、ただひたすらに謝った。

時間を見つけて来週一度帰ると伝え、家のことを忘れているわけじゃないと説明した。

母親はそれに了承し、電話を切った。


フゥと溜息を吐くと、心が重く沈んでいくようだった。



平日は9時-17時の事務所でのアルバイト、そして英語の塾。

週末は溜まった家事をしたり友人と会ったりと気を休めていた雪だが、先ほどの母親の調子では実家に顔を出さなければならないだろう。

行ってあげなくちゃ‥。いつ時間あるだろう?



そう考えながら、洗った下着を整理している時だった。

ふと違和感を感じて、数を数える。



思い違いかもしれない。

しかし違和感が膨れ上がる。

下着、これしか洗ってなかったっけ‥?


不穏な影がジワジワと、心に広がっていくような気がした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<狐とライオン>でした。

この話で青田淳の部屋が初公開されたと記憶してます。

腕時計ケースに収まった数々の腕時計、高級そうですね~。


次回は<運の悪い日>です。


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不穏な影

2013-10-17 01:00:00 | 雪3年2部(密会~再会)
週末、雪はトイレ兼浴室で洗濯をしていた。

何枚かの下着をまとめて洗う。



ふと窓を見上げると、網戸の端っこの方が破れているのに気がついた。

これ、思い切り引っ張れば剥がれてもおかしくないよね?

どうして今まで気づかなかったんだろう?




雪は網戸を見ながら、近頃あちこちで盗難や変態出没など物騒な事件が多発していることを思い出し、直すことを決めた。

しかしどこの業者を呼んだら良いのか分からず、しばし考えたが隣のおじさんに聞いてみることにした。



その頃隣の秀紀の部屋では、机の上の重箱を前に彼は電話をしているところだった。

いただきますと恐縮し、電話だというのに何度も頭を下げた。



するとドンドンドンとドアがノックされ、秀紀はビクッと身を震わせた。慌てて電話を切る。

ドアを開けてみると、隣の部屋の女子大生だった。



話を聞いてみると、トイレの窓が壊れたので直したいのだが、修理屋の番号を知らないと言う。

秀紀は「それなら、」と携帯電話を取り出してスクロールし始めた。

「うちもちょっと前、急に窓が壊れたもんだから直してもらったのよ」



そう言いながら秀紀は電話を掛け始めた。しかし通話先は修理屋ではなく、ここの大家の孫だという。

最近はその孫が建物の管理をしており、無料でメンテナンスしてくれるらしい。

連絡を受けてすぐ後、大家の孫と言う男がやってきて雪の家の窓を見始めた。



「うわぁこれはヒドイですね~」



その男は破れた網戸を点検しながら、これは力いっぱい引っ張れば剥がれてもおかしくない、

近頃では丈夫な二重構造の窓だって破られることがあると雪に向かって言った。表から鉄格子をはめたほうがいいと提案する。

この家はここの窓以外鉄格子がはめられているのだが、トイレ兼浴室の窓は小さくその対象でなかったと雪は言った。



そしてバタバタしていたので、うっかり先ほど洗った下着をそのままにしておくところだった。

洗面器に入れられたそれは、隅の方に布を掛けて置いてある。



大家の孫はとにかくやってみると言って修理を始めた。

その後ろで秀紀が、雪の家のお菓子を頬張りながら感心する。

「あの人スゴイのよ~。水道管も直してくれたんだから。

あんたもこの際いっぺんに家の修繕でもしてもらうことね。タダなんだから」




なんやかんやと雪と秀紀が話をしていると、不意に大家の孫が振り返って雪に言った。

「あ‥ところで、週末なのにデートとかしなくていいんですか?」



窓の外はいい天気だ。

こんな日は彼氏と遊びに行ったりしないと、と大家の孫は笑って言った。

雪は突然振られた話題の、特に「彼氏」に反応する。

「ハハ‥。か、彼氏か‥」



ボンッと青田先輩の姿が頭の中に浮かんできて、雪はなんだかこっ恥ずかしくなった。

そんな雪の反応に、大家の孫は慌てて頭を掻いた。

「あれ?もしかしていなかったかな?いそうなのになぁ。下手なこと言っちゃったかな?」



雪は照れながらも、彼氏の存在を認めた。今日は用事があってデートは出来ないのだとぎこちなく話す。

それを聞きながら秀紀は「ちょっと、いないんじゃなかったの?」とトゲトゲした口調で言った。

つい先月雪とそういう話をした時、彼氏はいないと言っていたのだ。



そんな二人を見ながら、大家の孫は秀紀を見て「お隣さんもいらっしゃいましたよね、彼氏」とサラリと言った。

秀紀はそのあまりにも自然な流れに乗せられ話そうとしたが、ハッと我に返った。

「ちょっと!何を言い出すかと思えば‥!」



秀紀の剣幕に大家の孫はたじろいだが、すぐにまた訂正として言葉を続けた。

「あ‥間違えました。男友達が多いんですよね?」



そんなに驚くことはないじゃないかと大家の孫は笑って言った。

それとも女友達が多かったりして、と冗談のように言うが、秀紀の心中は落ち着かなかった。

しかし開き直って、彼氏も彼女も半々に居るグローバリズムを説こうとするも、すぐに携帯に電話が掛かって来て秀紀は背を丸めた。



雪はそんな彼の後ろ姿を不思議そうに眺める。今日の彼はいつもより清潔な感じで、印象も違った。

ヒソヒソと秀紀は電話を続ける。

「え?昨日?あ‥久々に同級生に会っててさ‥たまには会うべきでしょ?‥」




大家の孫は黙々と作業を進めていたが、ふと振り返って雪に言った。

「あ‥でも完璧に直せるかはちょっと分からないなぁ。専門家じゃないもんで‥」



それに対して雪は、見てもらえるだけでもありがたい、直せないその時は修理の人を呼べばいいだけだと言った。

すると大家の孫は、道具が揃わないが出来る限りやってみますと言った。



出来るような出来ないような‥。雪は取り敢えず申し訳ないと恐縮してみせた。

大家の孫は祖母から建物の管理を任されているので問題ないと言った。

「それに、」と窓を見ながら言葉を続ける。

「何事も手強いほど意欲が湧くものですから」



そう言ったきり、大家の孫は窓の修繕に勤しみ口を噤んだ。

雪はその言葉に疑問を抱きつつも、よく分からないままその背中を見ていた‥。










一方こちらは、都内の高級ブティック。

静香は携帯電話を二台持ちながら、しつこく電話してくる男に引導を渡しているところだった。



会計待ちの間電話をしていた静香だったが、店員が何度も「お客様、」と呼びかけてくる。

静香はそのしつこさに苛つきを露わにした。

「あーもう、何?」



店員は静香から出されたクレジットカードを見せながら、このカードは現在利用停止になっていると言った。

静香は面倒くさそうに別のカードを出したが、それもまた利用停止と出た。

「ちょっとどういうこと?!」



怒りのあまりサングラスを外し、静香は店員にちゃんとカードを通したのかと詰め寄った。

昨日までは通常通り使えていたのだ。一体何がどうなったのかと、静香は激昂した。










結局買い物は出来ず、静香は家に帰って来た。

そして青田会長に電話して、甘えた声を出して泣きついた。

「カード止めることないじゃないですか~!」



自分は一人身の何も出来ない女なのに、お金が無ければ暮らしていけないと芝居かかった口調で甘えたが、

会長は冷静に言葉を返す。

静香、資格を取ればいつでも働かせてやると何度も言ってるじゃないか



近頃じゃ就職するのも大変だというのに、どうして君はそのチャンスを掴もうとしないんだい?

静香は前々から会長から言われている電算会計の資格が、なかなか取得出来ないでいた。

自分はバカだから難しくて取れないと開き直る彼女に、会長は努力もせずにそういうことを言ってはダメだと諭した。



将来はどうするのかという会長からの質問に、静香は答えられない。

もう静香は二十七になる。いつまでも面倒を見続けることは出来ないと会長は言った。

このまま独り立ち出来ないようじゃダメだよ。私は一線を退く時が来て、君は社会に出る歳になった。



まずは自分の力で稼いでみて、お金の大切さを知ることだ

会長の言葉に、静香は顔を顰める。

亮だって一生懸命働いていると続ける会長に、静香はまた甘えた声を出す。

「ん~だとしても学費が無いと塾にも通えないし~。学費は貰えるんですよね?」



会長の答えはYESだったが、それも一ヶ月目だけという話だった。

学費を送り次第塾に確認の電話をすると言っているので、ちょろまかすことも出来なさそうだ。静香は舌打ちをした。



一ヶ月を過ぎたら彼女への援助は打ち切られる。

社会生活に慣れる為にも、自活出来るよう頑張ってみなさいと会長は続けた。

淳も君が自らの手で働き口も探して勉強もするべきだと私に言ってきたよ



皆君を心配しているから頑張るようにと言って、会長は電話を切った。

静香は携帯電話を睨みながら、怒りが沸々と湧いてくるのを感じた。

「やっぱり‥あいつが絡んでたか‥」



静香はギリッと唇を噛み、大声で「あの性悪の狐野郎め!」と叫んだ。

前回病院で会った時の狐野郎が思い浮かぶ。


父さんに告げ口して何が楽しい?



目には目を、告げ口には告げ口を。

彼の仕返しにしてやられた静香の怒りは収まらず、すぐに淳にメールを打った。

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<不穏な影>でした。

雪が洗濯してたところはユニットバスかな? 洗濯機はあるんでしょうか‥見たことないですね。


次回は<狐とライオン>です。


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