Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

彼への不信(4)

2013-10-29 01:00:00 | 雪3年2部(再会~三者対面)


濃い緑の葉が、風でザワザワと揺れる。真昼の日差しの下で、雪は手を握られたまま動けずにいた。

心の中も、ざわざわとざわめいている。

  

先輩は何も言わずに、ただ雪の手を握りしめて彼女の瞳を見ていた。

雪はどうしていいか分からずに、強く握られた手を俯きながらじっと見ている。

  

「落ち着かない?」



雪は思わず「えっ?」と声を出し、目を見開いた。

心の中を覗かれたかと思ったのだ。



先輩は雪を気遣っていた。知らない人が沢山いるところに初めて来て、戸惑ってはいないかと。

雪はそういうことかと頭を掻きながら、大丈夫ですと答えた。

「皆さん優しいですし‥柳先輩の彼女さんも初対面ですけど、面白い上に可愛いし‥」



そう言って笑う雪に、先輩も笑顔を返す。

そして彼女の背中に腕を回しながら、優しく声を掛けた。

「雪ちゃんも可愛いよ」



スローモーションのように、雪が彼の胸の中へと入っていく。



淳は雪を抱きしめると、耳元で囁いた。

「これまでデートもまともに出来なかったんだ。少しの間こうさせて」



雪はぎゅっと抱きしめられ、思わず身を固くする。

何が起こったのか、まだ実感が沸かなかった。モゴモゴと口ごもるばかりで、言葉も出ない。



淳は、強張る彼女の頭をそっと撫でた。

大きなてのひらで、彼女のその柔らかな髪の毛を。

  

例えば小動物をなだめるような、そんな仕草。

雪はガチガチに固まっていた心が、少しずつ解れていくのを感じた。





雲一つ無い空の、真上から眩しい太陽が照りつける。


「暑い?」


「少し‥けど先輩の腕冷たいです」


「そう?はは、クーラーにあたり過ぎちゃったかな?」


「それは良かった」




雪の手も、彼の背中に回る。ぎゅっと、Tシャツをその小さな手のひらで握った。



考えすぎる頭とは裏腹に、心は温かくなっていく。伝わってくる体温で、気持ちが解れていく。


正直言って、嫌なわけじゃない





先輩にこうされること‥すごく心地いい‥


雪は気持ちが落ち着いていくのを感じて、目を閉じた。


先輩はガタイもいいし、いい匂いもするし、かっこいいし‥




雪は瞑った目をそのままにして、この感覚に身を委ねようと思った。

先輩が雪のうなじをそっと撫でる。心地よいこの気持ちに、何もかも忘れようと思った。






けれど‥。




淳先輩が後押ししてくれたんだぜ?  先輩は行ってしまった。あなたを見捨ててね

  


拭っても拭っても、消えない染みのように疑心が広がっていく。



そしてあまりにもちぐはぐな、彼の言葉が蘇る。


俺と付き合ってくれる?





雪の目が開いた。

今までのことに目をつぶるには、あまりにも理解出来ないことが多すぎた。





そもそもどうしてだろうか。彼が雪に告白してきたのは。

好きだからか? 気に入ったからか?

正直言って、よく分からない。理解出来ない‥。





雪の脳裏に、あの疎ましい後ろ姿が浮かんだ。

去年の二人は互いに悪感情ばかり感じて、挨拶すら交わさない日々が続いていた。

なのになぜ、今年になって急に良くしてくれるようになったのか。そんな契機すら無かったはずだ。

雪はずっと彼の気持ちに困惑したまま、今日まで来てしまったと思った。





端正な彼の横顔。

いつも何を考えているのか分からなくて、疎ましくて、そして怖かった。

瞳の中は深く暗い海のようで、ふとした瞬間、その闇に飲み込まれそうになる。





頭の中に、横山と和美の顔が過っていく。

  

彼らの行動や、態度に腹が立った。

正直、当時の件で傷つきはしたが、未だに根に持っているわけではない。

もう過ぎた話だ。時が過ぎれば風化していく。



では、こんなにも心を冷たく湿らせるものは何なのか。

老女ホームレス事件の後に、包帯を巻いた手のひらを見て溜息を吐いた時の気持ちが、心を掠める。




私がずっと落ち着かない気持ちを引き摺っているのは‥





一見分からないが、雪の手のひらにはあの時ついた切り傷が幾筋も残っていた。

未だ消えない傷跡は、手のひらにも心にもある。心の方の傷が、シクシクと痛んだ。


寂しいから‥





雪はようやく自覚したその感情を、改めて感じてやるせなくなった。

抱きしめられているこの状況下で、頭と心がだんだんと離れていく。



「一緒にボランティアできて嬉しいな。こうしてこっそり抜け出せるし、人もいないし」



呑気なことを言う先輩の腕の中で、雪は大きくなっていく違和感を感じ、そしてついに彼から身体を離した。

「あの、もうそろそろ‥」



そんな彼女を、淳は驚いた表情で見つめた。

見開かれた瞳に、戸惑う雪が映っている。



気まずくなった雪は、担当の子がいるので‥と言い訳して早々と教室の方へ戻ろうとした。

しかし淳はそんな彼女の腕を、後ろからガシッと掴んで詰め寄った。

「待って。もしかして俺に何か怒ってる?」



さっきからずっと様子がおかしいと、淳は雪の態度について言及した。

雪がぎこちなく、その言葉を否定する。

「いえ別に‥そんなわけないじゃないですか‥」



「本当に?」と言って淳は信じようとしない。

そして彼は鋭い眼光の下、威圧感のある口調で彼女に気持ちを伝えた。

「恋人同士じゃないか。言いたいことがあるなら何でも言って欲しい」




雪はその言葉が、とてもじゃないが信じられなかった。

本当‥?




告白の時、彼から言われた言葉が蘇る。

俺は、胸に秘めてきた言葉よりこれからの言葉が聞きたい




そう言ったじゃないか。

雪が心を悩ましていることは全て去年のことで、彼に言わせれば”既に過ぎ去った過去にすぎない”ではないか。

しかし今さらいちいち問い質すのもどうかと思うし、何と言っていいのかも分からない‥。



淳は彼女の表情を窺っている。



雪はそんな彼を見ながらも、頭の中は忙しなく動いていた。

いくら何と言っていいか分からないからといって、このまま黙っていていいものだろうか?

一言くらいは言ってもいいんじゃないだろうか。でなければ、このままずっとこの問題で頭を悩ますことになる‥。



だとしたら、一体何と言えば良いんだろう?

どうして助けてくれなかったのかって?それじゃあまりにも唐突すぎる。




寂しかったからって、助けてくれなかったことを恨むことも出来ないし‥


では「なぜ私と付き合ったのか」という質問はどうだろう?

‥いや、却下だ。

あまりにも踏み込みすぎる上に、失礼にもあたる質問だ。ならば‥。



俯いた雪が顔を上げ口を開くのと同時に、彼が彼女の名前を呼んだ。

「雪ちゃん」        「どうして私に告白したんですか?」

   


思いがけない質問に、虚を突かれた淳は「え?」と聞き返した。

雪がハッとして、手で口を覆う。



まずった、と雪は思った。

いきなりこれではワケが分からない上に、やはり失礼な質問でもある。

雪は取り乱しながら必死でフォローしようとするが、顔を上げて見た先輩は何かを考えるようにして固まっていた。



雪の手が、口が止まる。



先輩は暫し黙り込んだ後、視線を彷徨わせたのち雪に向かって口を開いた。

「あ‥それは‥」



いつもスマートに答えを導き出す彼が、珍しいほどぎこちない。

「好きだから‥」










彼氏に好きだと言われて、ここまで戸惑うのはなぜだろう。

それは彼の表情の中に当惑が見て取れ、その返事も取ってつけたような感じがするからだ。

雪は彼と向かい合いながら、モヤモヤしたものが心を覆っていくのを感じた。





物事は決着しないまま、柳先輩が二人を呼びに来て話はそこまでとなった。

ぎこちない雰囲気で、雪と淳は教室へ向かう。



雪の胸の中は、煮え切らない思いでいっぱいだ。

淳の返事は、結果彼への不信をますます煽るものとなった。

ボランティアが終わっても、それは雪の心にしこりとなって残ったのだった。



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<彼への不信(4)>でした。

二人の初ハグだというのに、この不穏な感じはなんでしょう‥。

しかし日陰もない所で抱き合って‥汗だくになってもおかしくないですね。

先輩は掃除班の上ゴミ出しまでしていたのに、いい匂いだなんて‥。やはり星の王子さまなのか‥。


次回は<胸の中の靄>です。

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