雪と淳が新たな関係を築き始めようとしている頃、
とある二人が居酒屋にてサシで飲んでいた。
焼酎を煽りながら、並べられた料理の数々を見て柳瀬健太が言った。
「おいおい横山、お前最近気前良すぎるんじゃねーか? 悪ぃなぁ」
テーブルに並べられた酒と料理全部、横山の奢りなのだ。向かいに座る横山は、いいんですと言って笑って見せた。
「周りの奴らに迷惑掛けたのもあるし、
健太先輩にも黙って休学しちゃって申し訳ないと思ってのことっスから‥」
そうへりくだって言う横山に、健太は去年のことを言及した。
一年前と少し前の球技大会のことだ。
横山と太一の大立ち回りのせいで、ぶち壊しになったあの球技大会。
あれが直接的な原因となって、横山は去年一年間休学することになったのであった。
「復学したらあの球技大会の件で、また何かと言われるだろうな」
健太の言葉に、横山は決まり悪そうに頭を掻く。
そして申し訳無さそうな表情で、健太が今日自分に会ってくれたことへの礼を述べた。
「けど先輩が会ってくれて良かったッス。先輩にも無視されるんじゃないかって思ってたんスよ」
そう言った横山に、俺はそんな冷たいやつじゃないと、健太は胸を叩いて見せた。
横山は下を向き、ことごとく皆に無視されたと悲しそうに呟いた。
そして若干言いづらそうに口ごもりながら、あの男の名前を出した。
それは彼が健太に仕掛けたトラップだった。
「青田先輩も‥未だに根に持ってるのか連絡も取れないし‥」
健太は青田淳の名前が出たことで、思わず顰め面をした。
そして俯く横山に向かって、強い口調でこう言った。
「もう青田のことは忘れろ。あいつはお前が思ってるようなヤツじゃねーんだよ!」
今みたいにフォローが必要な時に連絡も取れず、しかも度々人を無視しやがると健太は不満そうに言った。
後から後から、青田淳に対する不信が口をついて出た。
横山はそんな健太を、観察するような目つきで眺めた。
健太は話を続ける。
「赤山にデレデレしてるかと思えばその友達にもちょっかい出しやがって!
皆それも知らずにほいほい騙されてやがるんだぜ?もどかしいったらないぜ!
けど赤山も青田に似て性格が悪いのなんのって!この前のグルワの時に俺がどれだけ無視されたか‥。
先輩に対して怒鳴り散らしたりするんだぜ?」
ペラペラと、健太は二人への不満を口にした。酒を勢い良く飲み干し、その無礼を憂いてもう一本焼酎を追加した。
横山がニヤリと笑う。トラップは成功だ。
「そうだったんスね~」
健太は皆が青田の見た目に騙されていることを嘆いた。近頃の奴らはどうかしてる、そう言ってまた酒を煽った。
そう言やぁ、と健太が口を開いたのは赤山雪についてのことだった。
「お前休学前、あいつにしつこく付きまとってたらしいな?迷惑だって俺らに文句言いに来てたぞ?」
横山はそれを聞いて眉を寄せ、健太に向かって身を乗り出した。
「先輩、赤山の奴マジで酷すぎると思いません?!
オレはマジで心からあいつのことが好きだったんスよ?」
横山は去年の夏休み、雪への好意から告白をしたり高価なプレゼントをしたりと、甲斐甲斐しく尽くした旨を健太に話した。
しかし赤山雪はそのプレゼントの数々はちゃっかりもらっておいて、実は他に男が居たと横山は告白した。
「赤山が?おいおいあいつに限ってそんなはず‥」
当然健太は笑い飛ばそうとした。今まで男っ気ゼロだった雪に限って、そんなはずあるわけないと。
しかし横山は神妙な顔で言葉を続けた。
「この目でハッキリ見たんスよ、福井とのデート現場を」
横山の脳裏には、去年二人が仲良くハンバーガーショップでデートをしていた場面が浮かんだ。
自分と付き合っている(と彼は思っている)最中にそんな真似をされたことに、横山は煮えたぎる思いをしていたのだ。
元々福井太一を嫌悪していたため、その憎しみは尚の事燃え滾った。
しかし健太はその横山の発言をあまり信じられないでいた。
なぜなら太一はどちらかというと伊吹聡美の方に好意を寄せているのが見て取れたし、
三人でいつもつるんでいる姿はどう見ても、ただの仲の良い友人という風にしか見えなかったからだ。
健太が懐疑的な表情をする。
そんな健太に対して、横山は分かってないと言わんばかりに自分の意見を主張した。
あのハンバーガーショップでのデート現場目撃の後、夜道で雪をなじった際、太一から凄まれたことも話題に出した。
球技大会の時は伊吹聡美に手を出すなと言われ、夜道では雪に何するんだと凄まれたことを見て、
横山は太一が二人を脇にはべらせたいがために、いつも女とつるんでいるのだと主張した。
「人気をモノにしようとして球技大会の時だって先輩を殴るし、正直オレは被害者っすよ」
憎しみの対象が、雪から太一へとシフトする。
あの球技大会での太一の振る舞いについて立腹を口にする横山に、健太は頷いて見せた。
「まぁ‥確かに皆が見てる前で手から出るのは良くなかったな。ましてや先輩を相手に‥」
でしょでしょ?!と横山は憤慨しながら相槌を打つ。
健太も横山も、愚痴を肴に酒がすすんでいく。
すっかり料理も空になる頃、健太は大分酔っ払っていたが、横山は酒を意識的にセーブしていた。
そして健太は横山が休学していた間に、青田淳へ感じた不満を再び口に出し始めたので、横山は続きを促した。
健太が話し始める。
「それがよぉ、青田の野郎今学期になって急に赤山と一緒の授業聴いたり飯食ったりってモーションかけまくっててよー。
去年は平井和美、今年は赤山とその友達まで‥。しかしその友達ってのも、明らかに俺が気になってるってこと知っておきながらだぜ?」
ヒドイッスね、と相槌を打つ横山に、健太はため息を吐きながら「青田がそんな奴だったとは俺も知らなかった」と落胆を見せた。
横山は憂いを帯びた表情で、まったくこの世の中には信じられない人ばかりだと哀しげに言った。
青田先輩がそんな人だということも知らずに、いつもやられてばかりだったと。
そんな横山を見て、健太はアドバイスするように力強く言った。
「これからはお前ももっと利口に生きなくちゃダメだぞ!俺みたいに目ざとくな!」
そう言った健太に対して、横山は大仰に褒めちぎった。
さすが先輩だ、年長者だと崇めるような態度の横山に、健太は見事乗せられ嬉しそうに照れ笑いした。
しかし次の瞬間横山は、哀しげに目を伏せ口を開いた。
「でも‥正直復学したところで誰も相手にしてくれないんじゃないかって心配で‥」
そんな横山に、健太は「心配すんな!」と強く言葉を掛けた。
「俺を信じろ!二学期はお前のことガンガン後押ししてやっからよぉ!」
ほろ酔い気分の健太は胸を張り、俺を頼れと気持ちよさそうに言った。
トラップは見事成功、横山は帰りの道すがらも、笑いが止まらなかった。
そしてヤレヤレというように頭を振りながら、バカにしたような独り言を口に出した。
「あ~ 単純すぎんだろ~~?」
青田淳がしていたように、横山翔も柳瀬健太を手のひらで転がすことを試み、成功した夜だった。
横山は一人口笛を吹きながら、夜の街へ消えていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<密会>でした。
特記すべきこと‥特にありません!笑
次回は<夢の中で<白い服>>です。
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とある二人が居酒屋にてサシで飲んでいた。
焼酎を煽りながら、並べられた料理の数々を見て柳瀬健太が言った。
「おいおい横山、お前最近気前良すぎるんじゃねーか? 悪ぃなぁ」
テーブルに並べられた酒と料理全部、横山の奢りなのだ。向かいに座る横山は、いいんですと言って笑って見せた。
「周りの奴らに迷惑掛けたのもあるし、
健太先輩にも黙って休学しちゃって申し訳ないと思ってのことっスから‥」
そうへりくだって言う横山に、健太は去年のことを言及した。
一年前と少し前の球技大会のことだ。
横山と太一の大立ち回りのせいで、ぶち壊しになったあの球技大会。
あれが直接的な原因となって、横山は去年一年間休学することになったのであった。
「復学したらあの球技大会の件で、また何かと言われるだろうな」
健太の言葉に、横山は決まり悪そうに頭を掻く。
そして申し訳無さそうな表情で、健太が今日自分に会ってくれたことへの礼を述べた。
「けど先輩が会ってくれて良かったッス。先輩にも無視されるんじゃないかって思ってたんスよ」
そう言った横山に、俺はそんな冷たいやつじゃないと、健太は胸を叩いて見せた。
横山は下を向き、ことごとく皆に無視されたと悲しそうに呟いた。
そして若干言いづらそうに口ごもりながら、あの男の名前を出した。
それは彼が健太に仕掛けたトラップだった。
「青田先輩も‥未だに根に持ってるのか連絡も取れないし‥」
健太は青田淳の名前が出たことで、思わず顰め面をした。
そして俯く横山に向かって、強い口調でこう言った。
「もう青田のことは忘れろ。あいつはお前が思ってるようなヤツじゃねーんだよ!」
今みたいにフォローが必要な時に連絡も取れず、しかも度々人を無視しやがると健太は不満そうに言った。
後から後から、青田淳に対する不信が口をついて出た。
横山はそんな健太を、観察するような目つきで眺めた。
健太は話を続ける。
「赤山にデレデレしてるかと思えばその友達にもちょっかい出しやがって!
皆それも知らずにほいほい騙されてやがるんだぜ?もどかしいったらないぜ!
けど赤山も青田に似て性格が悪いのなんのって!この前のグルワの時に俺がどれだけ無視されたか‥。
先輩に対して怒鳴り散らしたりするんだぜ?」
ペラペラと、健太は二人への不満を口にした。酒を勢い良く飲み干し、その無礼を憂いてもう一本焼酎を追加した。
横山がニヤリと笑う。トラップは成功だ。
「そうだったんスね~」
健太は皆が青田の見た目に騙されていることを嘆いた。近頃の奴らはどうかしてる、そう言ってまた酒を煽った。
そう言やぁ、と健太が口を開いたのは赤山雪についてのことだった。
「お前休学前、あいつにしつこく付きまとってたらしいな?迷惑だって俺らに文句言いに来てたぞ?」
横山はそれを聞いて眉を寄せ、健太に向かって身を乗り出した。
「先輩、赤山の奴マジで酷すぎると思いません?!
オレはマジで心からあいつのことが好きだったんスよ?」
横山は去年の夏休み、雪への好意から告白をしたり高価なプレゼントをしたりと、甲斐甲斐しく尽くした旨を健太に話した。
しかし赤山雪はそのプレゼントの数々はちゃっかりもらっておいて、実は他に男が居たと横山は告白した。
「赤山が?おいおいあいつに限ってそんなはず‥」
当然健太は笑い飛ばそうとした。今まで男っ気ゼロだった雪に限って、そんなはずあるわけないと。
しかし横山は神妙な顔で言葉を続けた。
「この目でハッキリ見たんスよ、福井とのデート現場を」
横山の脳裏には、去年二人が仲良くハンバーガーショップでデートをしていた場面が浮かんだ。
自分と付き合っている(と彼は思っている)最中にそんな真似をされたことに、横山は煮えたぎる思いをしていたのだ。
元々福井太一を嫌悪していたため、その憎しみは尚の事燃え滾った。
しかし健太はその横山の発言をあまり信じられないでいた。
なぜなら太一はどちらかというと伊吹聡美の方に好意を寄せているのが見て取れたし、
三人でいつもつるんでいる姿はどう見ても、ただの仲の良い友人という風にしか見えなかったからだ。
健太が懐疑的な表情をする。
そんな健太に対して、横山は分かってないと言わんばかりに自分の意見を主張した。
あのハンバーガーショップでのデート現場目撃の後、夜道で雪をなじった際、太一から凄まれたことも話題に出した。
球技大会の時は伊吹聡美に手を出すなと言われ、夜道では雪に何するんだと凄まれたことを見て、
横山は太一が二人を脇にはべらせたいがために、いつも女とつるんでいるのだと主張した。
「人気をモノにしようとして球技大会の時だって先輩を殴るし、正直オレは被害者っすよ」
憎しみの対象が、雪から太一へとシフトする。
あの球技大会での太一の振る舞いについて立腹を口にする横山に、健太は頷いて見せた。
「まぁ‥確かに皆が見てる前で手から出るのは良くなかったな。ましてや先輩を相手に‥」
でしょでしょ?!と横山は憤慨しながら相槌を打つ。
健太も横山も、愚痴を肴に酒がすすんでいく。
すっかり料理も空になる頃、健太は大分酔っ払っていたが、横山は酒を意識的にセーブしていた。
そして健太は横山が休学していた間に、青田淳へ感じた不満を再び口に出し始めたので、横山は続きを促した。
健太が話し始める。
「それがよぉ、青田の野郎今学期になって急に赤山と一緒の授業聴いたり飯食ったりってモーションかけまくっててよー。
去年は平井和美、今年は赤山とその友達まで‥。しかしその友達ってのも、明らかに俺が気になってるってこと知っておきながらだぜ?」
ヒドイッスね、と相槌を打つ横山に、健太はため息を吐きながら「青田がそんな奴だったとは俺も知らなかった」と落胆を見せた。
横山は憂いを帯びた表情で、まったくこの世の中には信じられない人ばかりだと哀しげに言った。
青田先輩がそんな人だということも知らずに、いつもやられてばかりだったと。
そんな横山を見て、健太はアドバイスするように力強く言った。
「これからはお前ももっと利口に生きなくちゃダメだぞ!俺みたいに目ざとくな!」
そう言った健太に対して、横山は大仰に褒めちぎった。
さすが先輩だ、年長者だと崇めるような態度の横山に、健太は見事乗せられ嬉しそうに照れ笑いした。
しかし次の瞬間横山は、哀しげに目を伏せ口を開いた。
「でも‥正直復学したところで誰も相手にしてくれないんじゃないかって心配で‥」
そんな横山に、健太は「心配すんな!」と強く言葉を掛けた。
「俺を信じろ!二学期はお前のことガンガン後押ししてやっからよぉ!」
ほろ酔い気分の健太は胸を張り、俺を頼れと気持ちよさそうに言った。
トラップは見事成功、横山は帰りの道すがらも、笑いが止まらなかった。
そしてヤレヤレというように頭を振りながら、バカにしたような独り言を口に出した。
「あ~ 単純すぎんだろ~~?」
青田淳がしていたように、横山翔も柳瀬健太を手のひらで転がすことを試み、成功した夜だった。
横山は一人口笛を吹きながら、夜の街へ消えていった。
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<密会>でした。
特記すべきこと‥特にありません!笑
次回は<夢の中で<白い服>>です。
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