お昼休み、雪達四人はテーブルを囲んで座り、食事を共にした。
しゃべっているのは専ら柳先輩だ。
雪は憂鬱な気持ちを抱えたまま、食事もなかなか進まない。
ふいに柳先輩が話し掛けてきた。
「にしても赤山ちゃんって休み中滅多に見れない人の内の一人だったのに、
淳と付き合ってからこうして顔も見れてうれしーなー。分かりやすいヤツめ!」
雪は何と言っていいか分からず、ただ乾いた笑いを立てた。
柳先輩が話を続ける。
「あの味趣連かなんかの二人は元気なん?」
「あ、はい‥。聡美は塾に通ってます。でも太一とはこの頃全く連絡が取れてないんです」
雪がそう言うと、柳先輩は意外という顔をして言った。
「ん?連絡取れないって? あいつ一日中ゲームやってんぞ?」
驚愕の雪に、柳先輩はあっけらかんと話を続けた。
最近新作のネットゲームが発売され、自分も始めたとこなのだと。
見覚えのあるIDがあるから誰かと思えば太一で、話しかけてみたらビンゴだったらしい。
「相当つぎ込んでるみたいだぜ? ログインする度にすげーレベルアップしてっかんな」
雪は開いた口が塞がらなかった。音信不通であれだけ心配していた太一が、ゲーム三昧だったなんて‥。
しかし呆れているのは雪だけではなかった。
柳の彼女は彼に向かって、問答無用の拳を振るった。
「ちょっと楓!ゲーム禁止って言ったでしょ!!この前のテストも散々だったくせに、まだ懲りないっての?!」
ビシバシと愛のムチをふるう彼女の攻撃に、柳は身を低くして耐える‥。
「赤山ちゃん!お前もこう?!ガミガミ小言炸裂で暴力振るうんか?!」
柳の質問に、答えたのは雪ではなく先輩だった。
「雪ちゃんは言わないよ。小言は俺のほうが多いかな」
先輩のフォローにも、雪はぎこちなさを隠せない。
心を許し合っているように見える柳先輩と彼女の前で、より一層雪は表情を硬くした。
そんな雪には気づかずに、柳先輩は会話を続ける。
経営学科の首席と次席カップルの普段の会話が想像できないという話になり、
もしかして経営の未来についての討論でもしてるんじゃないかと柳はおどけた。
すると不意に、ポケットの中の携帯電話が震えた。
雪はこの気まずさから逃げ出すように、彼らに挨拶して建物の外へ出た。
電話は聡美からであった。
雪が電話に出ると、聡美は今度催される塾の同窓会の話題を出した。高校時代、雪と聡美が通っていた塾だ。
「雪!先輩連れて来なよ~!そんで彼氏の自慢しちゃいなよ!」 「はぁ?!」
雪は素っ頓狂な声を出した。
あまりにも急な聡美の提案に、全くついていけない。しかし聡美は興奮しているのか、早口で話を続けた。
「皆同窓会っていえば彼氏連れて来て自慢すんじゃん。不愉快この上ないってことで、反撃しちゃおうってわけ!
想像しただけでも楽しみでしょうがないわ!」
雪は慌てて”待った”をかけた。あまりにも急すぎると。
先輩の都合も聞いてみないといけないし、どうなるか分からないと言って聡美を説得しようとした。
しかし聡美は、友達に彼氏の紹介するだけなのになぜそんな身構えるのかと不思議そうだ。
けれど先輩の意見を尊重するという雪の意見には頷けたのか、結局一度聞いてみてと言い残して会話は終わった。
そして雪は恐る恐る、太一のことを口にした。きっと聡美は怒るだろうが、黙っているわけにもいかない。
「えーと‥柳先輩から聞いたんだけど、太一この頃ゲームしてるみたいだよ?」
聞き取れなかったのか、聡美が聞き返して来たので雪はもう一度「ゲームしてるんだって」と伝えた。
すると少しの間の後、聡美の怒り狂う声が電話口から溢れてきた。
「あんの野郎ぉぉぉ!!XXXXXX XXXXXXXX」
憤慨のあまり、後半のあたりはもう言葉になっていなかった‥。
雪はなんとか聡美をなだめると、また連絡してみようとたしなめて電話を切った。
あっちでもこっちでも波乱の予感だ。思わず溜息を吐いた。
先ほどの、聡美の言葉が脳裏に反響する。
雪!先輩連れて来なよ~!そんで彼氏の自慢しちゃいなよ!
自分の友達に、彼氏を紹介する‥。
雪は今の気分的に、とてもじゃないがそんなことをする気にはならなかった。
先輩と腕を組み身を寄せて、皆に笑って自分の彼氏だと紹介出来るのか?
そんな自分はまるで想像出来ない‥。
雪は俯きながら歩いたので、その壁の向こうに居る人物に気づかなかった。
そのため次の瞬間、二人はぶつかることになる。
「うぐっ!」
バフッと、雪の顔は先輩の胸に埋まった。
先輩が慌てて雪の顔を覗き込む。
雪は特に鼻にダメージを受けているようだ。
「打った? 見せて!鼻血出てない?」
大丈夫‥と言おうとする雪を遮って、先輩は彼女の顔を両手で包んであちこち点検した。
「見せて。どこかあざになってたりしない?」
しばしされるがままの雪だったが、気がつけば先輩の顔が至近距離にある。
雪は慌てて「大丈夫ですから!」と彼に向かって言った。
ちょっと痺れているだけだと雪が答えると、先輩は安心したように息を吐いた。
「急に現れてごめんね。ビックリした?」
そう言葉を掛ける先輩に、雪は恐縮して返事をする。
「あ、いえ‥大丈夫です」
自分の不注意でもありますからと言おうとした雪だが、途中で言葉が継げなくなった。
彼が雪の手を握って、力を込める。
そして真っ直ぐ彼女の瞳を見つめた。
彼女は動けなくなった。
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<彼への不信(3)>でした。
そういえば今回の雪が着ているTシャツ、1部19話で着ていたものと同じですね!(そして20話では先輩がおそろいを着ているという‥)
ヘビロテカーキTシャツですね~。
次回は<彼への不信(4)>です。
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