皆さんこんにちは。中間考査、よく出来ましたでしょうか。
”良い農夫には悪い土地は無い”という言葉がありますね?努力した分全て、良い結果が出ることを願います。
週末には、気を休めて友達と楽しい時間を送ってはいかがでしょうか?

大学中に響き渡る校内放送は、そんな内容で中間考査の最後を締めた。
雪は傷だらけの身体でヨロヨロと廊下を歩きながら、一人その放送に対して物思う。
それじゃ良くない農夫はどうしろって言うんだ‥。週末も勉強しなきゃだし‥

身体が痛み、心がささくれ、雪はくさくさしながら痛む顔を触りながら息を吐く。
「あー‥痛‥」

雪が顔を上げると、そこに彼の姿があった。
青田淳は雪と目が合うと、彼女の帽子と鞄を彼女に見えるように少し上に上げる。

確か聡美が雪の鞄を持って行ってくれたはずだが‥。
そう思い返してみるも、きっとあの二人のことだ。雪の鞄や薬などを先輩に持たせて、トンズラしたに違いない‥。

早く仲直りして下さいネ、と言って強引に事を進める二人の様子が、雪には見なくても想像出来る気がした。
彼は真っ直ぐ雪のことを見ている。雪は気まずい気持ちで、彼の視線から目を逸らす‥。


もう空は夕暮れの色をしていた。秋の深まりと共に、日が落ちるのも随分と早くなった。
外に出た二人は適当な場所を見つけて荷物を置き、淳は雪を座らせ、彼女の名を呼んだ。
「雪ちゃん」

ちょこんと行儀良く座る雪を前に、淳はテキパキと事を進める。
「薬塗ろう。ほらこっち向いて」 「ちょ‥ちょっと待って‥嫌‥」

雪は彼の手から逃れるように、俯いて首を何度も横に振った。
淳はなかなか正面を向かない雪の顔を覗き込み、「ちょっと顔見せて」と彼女の髪に触れながら声を掛ける。

しかし雪は彼の手を押しやると、俯いたまま手で顔を覆い、再び首を横に振り続けた。
そんな彼女の様子を見て、淳は目を丸くする。

彼女は泣いているのかもしれない。
淳はもう一度彼女に手を伸ばし、顔を覆っている手をどかそうとした。
「泣いてるの?どうした?ひどく痛む?」 「そ、そうじゃなくて‥」

雪が彼の手を押しやった拍子に、彼女の顔が露わになった。雪は掠れた声でこう言う。
「は‥恥ずかしくて‥」

そう口にして俯く雪の顔は、真っ赤になっていた。
そのまま顔が上げられない雪を見て、淳はぽかんとした後、小さく一人声を漏らす。

雪は恥ずかしくて堪らなかった。
改めて先ほどのことを思い出してみると、顔から火が出るようだった。

一応女の子なのに、取っ組み合いの殴り合い‥。しかも先輩の前で‥。
考えれば考える程雪は恥ずかしくなって、彼の前で顔が上げられない。

彼はそんな雪を見て、少し意外なそうな顔をして口を開いた。
「ふぅん‥よく分からないけど‥。君はいつも我慢に我慢を重ねて‥」

「俺はむしろ、今回全て吐き出せて良かったんだと思うよ」

雪は暫し手で顔を覆いながら俯いていたが、彼の言葉を聞いて顔を上げた。
彼は全く笑っていなかった。引いてもいなかったし、彼女から目を逸したりもしない。
「終わらせたじゃないか。ウンザリだっただろう?」

「恥ずかしくなるだけなの? スッキリしてない?」

淳は真っ直ぐ彼女の目を見て、彼女の本当の気持ちを引き出す言葉を掛けた。
彼女が抱え込んでいる重い荷物を、下ろしてあげるような心持ちで。
いつの間にか、顔を覆っていた手は膝の上に降りていた。恥じらいもどこかに飛んで行った。
彼の言葉は雪の心に真っ直ぐ届き、雪は本音を口に出す。
「はい、その通りです。スッキリしました」

雪は固めていた心の表面が溶けていくような気持ちになって、そのまま心の内を吐露し始めた。
「本当に終わらせたかったから‥。このままあの子と卒業までジリジリすると思ってたから、
ちょっと見苦しいことになったけど、スッキリしてます。もしかしたら内心こうなることを望んでいたのかもしれません。
幸いなことに運も良かったんです、写真を回してる最中に蓮が来て‥」

そう口にする雪を見て、淳はニコリと微笑んだ。運とは巡ってくるものではなく自ら作るものだ、と言わんばかりに。
雪は改めて、自分の気持ちを己の中で眺めてみる。
本当に‥あの子を切り捨てることが出来るなら、恥じらいなんてどうでも良かった。
皆の前で私を傷つけたあの子を、やっぱり私も皆の前で懲らしめたかった‥

だけど、と雪は思う。
心に広がる苦い気持ちに押されるように、俯きながら心中を吐露する。
「‥それでも、二人とも極端すぎたというか‥ちょっと酷かったなって思って‥」

苦々しい表情でそう言葉を紡ぐ雪に、淳は躊躇うこと無く自分の意見を口にした。
「そこまで気にする必要あるかな。誰が見ても雪ちゃんは間違ってない」

自業自得だよ、と言って淳は己の見解を述べ始めた。
「清水香織のような、被害者意識が過剰で、他人のものを自分のものと勘違いするような人間は、
いつもああいう風になってしまうんだ」

淳の目は雪を真っ直ぐに見ているようでありながら、少し遠くの記憶を辿るように幾分陰っていた。
「より多くのものを持とうとして、本来自分が持っていたものまで失くしてしまう」

淳は言葉を続けながら、傷口を診る為に雪の顎に触れ、彼女の顔を少し上に上げる。
「結局、他人に対する願望だけを噛み締めながら生きることになるんだ。
そんな人達には同情の余地も無いよ。心に溜め込まないで」

淳はそう言った後、薬の入った袋の方へと身体を移した。
顔にいくつか付いた擦り傷に塗る薬を探しているのだった。

雪は彼が口にした言葉の意味を、その横顔を見ながら考えてみる‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<正直>でした。
どことなく、今回二人の服の色合いが似てますね‥。先輩、またペアルックを狙ったのか‥?!
次回は本家版と題名合わせてます。
<接点>です。
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”良い農夫には悪い土地は無い”という言葉がありますね?努力した分全て、良い結果が出ることを願います。
週末には、気を休めて友達と楽しい時間を送ってはいかがでしょうか?

大学中に響き渡る校内放送は、そんな内容で中間考査の最後を締めた。
雪は傷だらけの身体でヨロヨロと廊下を歩きながら、一人その放送に対して物思う。
それじゃ良くない農夫はどうしろって言うんだ‥。週末も勉強しなきゃだし‥

身体が痛み、心がささくれ、雪はくさくさしながら痛む顔を触りながら息を吐く。
「あー‥痛‥」

雪が顔を上げると、そこに彼の姿があった。
青田淳は雪と目が合うと、彼女の帽子と鞄を彼女に見えるように少し上に上げる。

確か聡美が雪の鞄を持って行ってくれたはずだが‥。
そう思い返してみるも、きっとあの二人のことだ。雪の鞄や薬などを先輩に持たせて、トンズラしたに違いない‥。

早く仲直りして下さいネ、と言って強引に事を進める二人の様子が、雪には見なくても想像出来る気がした。
彼は真っ直ぐ雪のことを見ている。雪は気まずい気持ちで、彼の視線から目を逸らす‥。


もう空は夕暮れの色をしていた。秋の深まりと共に、日が落ちるのも随分と早くなった。
外に出た二人は適当な場所を見つけて荷物を置き、淳は雪を座らせ、彼女の名を呼んだ。
「雪ちゃん」

ちょこんと行儀良く座る雪を前に、淳はテキパキと事を進める。
「薬塗ろう。ほらこっち向いて」 「ちょ‥ちょっと待って‥嫌‥」

雪は彼の手から逃れるように、俯いて首を何度も横に振った。
淳はなかなか正面を向かない雪の顔を覗き込み、「ちょっと顔見せて」と彼女の髪に触れながら声を掛ける。


しかし雪は彼の手を押しやると、俯いたまま手で顔を覆い、再び首を横に振り続けた。
そんな彼女の様子を見て、淳は目を丸くする。

彼女は泣いているのかもしれない。
淳はもう一度彼女に手を伸ばし、顔を覆っている手をどかそうとした。
「泣いてるの?どうした?ひどく痛む?」 「そ、そうじゃなくて‥」

雪が彼の手を押しやった拍子に、彼女の顔が露わになった。雪は掠れた声でこう言う。
「は‥恥ずかしくて‥」

そう口にして俯く雪の顔は、真っ赤になっていた。
そのまま顔が上げられない雪を見て、淳はぽかんとした後、小さく一人声を漏らす。

雪は恥ずかしくて堪らなかった。
改めて先ほどのことを思い出してみると、顔から火が出るようだった。

一応女の子なのに、取っ組み合いの殴り合い‥。しかも先輩の前で‥。
考えれば考える程雪は恥ずかしくなって、彼の前で顔が上げられない。

彼はそんな雪を見て、少し意外なそうな顔をして口を開いた。
「ふぅん‥よく分からないけど‥。君はいつも我慢に我慢を重ねて‥」

「俺はむしろ、今回全て吐き出せて良かったんだと思うよ」

雪は暫し手で顔を覆いながら俯いていたが、彼の言葉を聞いて顔を上げた。
彼は全く笑っていなかった。引いてもいなかったし、彼女から目を逸したりもしない。
「終わらせたじゃないか。ウンザリだっただろう?」

「恥ずかしくなるだけなの? スッキリしてない?」

淳は真っ直ぐ彼女の目を見て、彼女の本当の気持ちを引き出す言葉を掛けた。
彼女が抱え込んでいる重い荷物を、下ろしてあげるような心持ちで。

いつの間にか、顔を覆っていた手は膝の上に降りていた。恥じらいもどこかに飛んで行った。
彼の言葉は雪の心に真っ直ぐ届き、雪は本音を口に出す。
「はい、その通りです。スッキリしました」

雪は固めていた心の表面が溶けていくような気持ちになって、そのまま心の内を吐露し始めた。
「本当に終わらせたかったから‥。このままあの子と卒業までジリジリすると思ってたから、
ちょっと見苦しいことになったけど、スッキリしてます。もしかしたら内心こうなることを望んでいたのかもしれません。
幸いなことに運も良かったんです、写真を回してる最中に蓮が来て‥」

そう口にする雪を見て、淳はニコリと微笑んだ。運とは巡ってくるものではなく自ら作るものだ、と言わんばかりに。
雪は改めて、自分の気持ちを己の中で眺めてみる。
本当に‥あの子を切り捨てることが出来るなら、恥じらいなんてどうでも良かった。
皆の前で私を傷つけたあの子を、やっぱり私も皆の前で懲らしめたかった‥

だけど、と雪は思う。
心に広がる苦い気持ちに押されるように、俯きながら心中を吐露する。
「‥それでも、二人とも極端すぎたというか‥ちょっと酷かったなって思って‥」

苦々しい表情でそう言葉を紡ぐ雪に、淳は躊躇うこと無く自分の意見を口にした。
「そこまで気にする必要あるかな。誰が見ても雪ちゃんは間違ってない」

自業自得だよ、と言って淳は己の見解を述べ始めた。
「清水香織のような、被害者意識が過剰で、他人のものを自分のものと勘違いするような人間は、
いつもああいう風になってしまうんだ」

淳の目は雪を真っ直ぐに見ているようでありながら、少し遠くの記憶を辿るように幾分陰っていた。
「より多くのものを持とうとして、本来自分が持っていたものまで失くしてしまう」

淳は言葉を続けながら、傷口を診る為に雪の顎に触れ、彼女の顔を少し上に上げる。
「結局、他人に対する願望だけを噛み締めながら生きることになるんだ。
そんな人達には同情の余地も無いよ。心に溜め込まないで」

淳はそう言った後、薬の入った袋の方へと身体を移した。
顔にいくつか付いた擦り傷に塗る薬を探しているのだった。

雪は彼が口にした言葉の意味を、その横顔を見ながら考えてみる‥。

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<正直>でした。
どことなく、今回二人の服の色合いが似てますね‥。先輩、またペアルックを狙ったのか‥?!
次回は本家版と題名合わせてます。
<接点>です。
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