Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

接点

2014-07-09 01:00:00 | 雪3年3部(砂の城~性分)


雪は彼の横顔に視線を落としながら、先ほど彼が話したことの意味を考えていた。

被害者意識が過剰で、他人のものを自分のものと勘違いするような人間は、

いつもああいう風になってしまうんだ。より多くのものを持とうとして、本来自分が持っていたものまで失くしてしまう。

結局、他人に対する願望だけを噛み締めながら生きることになるんだ。そんな人達には同情の余地も無いよ




雪は塗り薬を手に取る彼を眺めながら、彼のその言葉の意味に思いを巡らせた。

彼の言葉には説得力があった。それはやはり、彼の経験に裏付けられた言葉だからだ。

そうだ‥この人って‥



雪は彼の周りの人達が、普段何気なく口にしている言葉を思い出した。

それ俺も一度はしてみてぇな~。やっぱり金持ちは‥

今日の晩メシ、青田がおごってくれんじゃねーの? えー違ぇの?




あのブルガリの時計は、母親から贈られた大切な時計だと彼は言っていた。

それを道楽によるコレクションの一つだと、お金持ち故に当然のようにそう見られてしまう現実。

彼が参加する飲み会では、奢られるのが当たり前であるかように振る舞う人達‥。

そして先日、彼の口から聞いた事実も思い出す。

亮とその姉は、俺の家が支援していたんだ



”支援は当たり前で、ダメならスポンサーのせいという考えさ”、と彼は口にした。

お金を出すことを強制的に前提とされてしまう彼の気持ちが、雪は今自分の心に真っ直ぐ入って来る感じがした。

周りの人々が持つその”当然”の雰囲気‥。

私は清水香織一人だけでも、こんなに憤ってるっていうのに‥




生まれながらに与えられた、恵まれたその環境。それは他人から見ると羨望や嫉妬の対象でしかない。以前は雪もそうだった。

安定した将来が保証されている彼に、わけもなく隔たりを感じていた。



けれど我慢を重ねるという苦しみを味わった今、雪は自分と同じ様な‥いやそれよりももっと過酷な我慢を強いられてきた彼に、

自分の感情が重なるような気持ちがした。

先輩も同じ‥



彼が背負って来た重荷や我慢、その全てを理解することなど出来ない。

けれど雪は彼の抱えるその荷物に、そっと手の平で触れているような気になった。

それはたった一点の、微かな接点であるけれど。




じっと彼を見ていた雪の方を、淳はいきなりくるりと振り向いた。

彼と目が合った雪は、一瞬ビクリとして目を丸くする。



淳は雪の方へ体ごと向くと、そのままじっと彼女の瞳を見つめ始めた。

あ‥と小さく出した雪の声が、二人の間を彷徨うように消えて行く。



雪も目を逸らせなかった。

淳は彼女の方へ手を差し出しかけて、その途中で手を止める。彼女を見つめ続けながら。



彼の瞳の中は、深い海の底のように静謐で、幽暗で、けれど何もかも映し出してしまうような、

そんな色を宿していた。その大きな二つの瞳は、瞬きもせず彼女の心の中を見つめ続けている。



彼のそんな瞳を、雪は何度も目にしたことがあった。

けれどわけもなく恐怖や威圧感を感じた以前とは違い、今雪はその中に見覚えのある何かが揺れるのを見た気がした。



二人共目を逸らさずに、己の顔を互いの瞳の中に映し続ける。

淳は彼女を見つめ続けながら、静かに口を開いた。

「‥時々、雪ちゃんて俺のことを遠まきに眺めてる」



「まるで理解出来ないものを見るかのように、何か怖いものから身を引くかのように」



あの日、柳瀬健太の行く末を想像して嗤っていた自分を、遠巻きに見ていた彼女の姿が思い浮かんだ。

他と隔絶されたその空間の中で向けられる、異質なものを見るかのような彼女のあの視線‥。



何もかもを見透かすようなその瞳を、

淳は始め嫌悪し、じきに惹かれ、そして今は我知らず恐れている。



自分は間違っていないと確証する心の片隅で、何かが揺らめくのだ。

まるで静謐な泉に投げられた、小さな一石が起こす波紋のように。




淳は雪に向かってゆっくりと手を伸ばし、もう一度口を開いた。彼女の顔に優しく触れる。

「だけど今‥」



「少しだけ君が戻ってきたような気がしたから‥期待しててもいいのかな」

 

自分から視線を逸らさなかった彼女の瞳の中に、淳は自分と同じものを見つけた気がした。

それは瞳の中に微かに光る、自分と彼女を繋ぐ微かな接点。



雪は口を噤んだまま、彼の言葉の意味をまた考えていた。

全てを見透かした上で見出したその接点を、自らと繋ごうと手を差し伸べる彼‥。


淳は幾分哀愁を含んだ表情で、彼女に問い掛ける。

「さっき俺が言った言葉、ひどいと思う?」



雪はその問い掛けに、無言で首を横に振った。

清水香織のことは、彼の意見と同じだった。



彼と彼女は、今同じ感情を共有し、互いの目に自分の姿を映している。

淳は彼女の顔に触れながら、

「そっか」と小さく一言口にした。



彼は優しく彼女の傷口に薬を塗り、またチューブから薬を出して塗って‥を繰り返す。

 

それきり何も言わない淳を、雪はじっと眺めている。



温かな指が優しく傷口を撫でる心地よさに、雪はいつしか目を瞑っていた。

あれだけささくれていた心の中が、徐々に滑らかな表面へと戻って行く‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<接点>でした。

やっと雪ちゃんが先輩の中に共感する点を見出した、という回だったのではないでしょうか。

清水香織との一件はここに帰結するための展開だったのですかね‥。それにしては激しかったですが‥^^;



次回は<性分>です。



人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!