Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

心の涙

2014-07-30 01:00:00 | 雪3年3部(赤山家の激白~淳宅にて)
大きな荷物を抱えながら外に出た雪は、早速聡美に電話を掛けた。

「あ、聡美?今日泊り行ってもいい?

まだ地元だからこれから二時間くらい掛かるんだけど‥うん、ありがとう」




雪からの申し出に、聡美は快く了承してくれた。雪は強張った表情で言葉を続ける。

「あ、それと私臨時収入あったんだ。それで美味しいものでも食べようよ」



雪の心の支柱は折れ、今まで積み上げて来たもの全て、辺り一面に散らばって心の中は雑然としていた。

もうどうにでもなれという気分だった。雪は全てに失望していたのだ。

あの大切に大切に仕舞っていたお小遣いにさえも。



雪は大きな荷物を肩に下げ、一人夜道を急いだ。

混沌とした心の中に、あの春の日の記憶が蘇った。嬉しかった気持ちが、徐々に色褪せて行く。

気まぐれに一度くれただけで‥。私‥嬉しくて馬鹿みたいに‥



封筒に入れて本に挟んでおいた。貰った夜は枕元に置いて眠った。

その意義とか、価値とか、そんな意味付けなんて度外視するくらい、父から貰った気持ちそのものが嬉しかった。



けれど。

結局父の目には長男しか映っていなかった。

娘など嫁に行けばそれまでだと、当然のように父はそう思っている。



目頭が熱くなった。鼻の先がつんとする。

雪は瞼を指で押さえながら、溢れ出しそうな激情を感じた。

しかしその感情が零れ落ちる前に、頭の中で声がした。

泣くな!泣いてどうする?!






グッと、雪は喉までこみ上げていたその感情を飲み込んだ。

幼い頃から涙が溢れそうになると自分を戒めてきた声が、今日も彼女の感情を制した。



そして雪は充血したその目元を隠すように帽子を目深に被ると、

足早にこの街を出た。







一方長男の蓮はというと、路地裏に座り込み涙を流しているところだった。

「うっうっ‥うううっ‥」



蓮は垂れる鼻水すら気にせず、溢れ出す感情に身を任せ泣いていた。

そんな彼の隣には小西恵が居て、心配そうな顔をして彼の背を撫でている。



蓮はしゃくり上げながら、流れる涙と共に心中を吐露した。恵はじっとそれを聞いている。

「俺‥マジで情けねーよ‥参考書読んでも、一つも頭に入って来ないんだ。

俺自身これから自分がどうしたいのかも分かんないのに、父さんは長男が家族を支えるもんだってプレッシャー掛けるし‥」




「けど俺はそんな父さんに一度も反論出来なくて‥笑って誤魔化すだけで‥。

母さんと姉ちゃんには完全に情けない奴だと思われて‥。何もしないで家でじっとしてんのは退屈すぎて到底我慢出来なくて、

そんな自分が何よりも嫌で‥でもアメリカに戻んのも死んでも嫌で‥」




目の前に用意された道に踏み出そうとしても、どうしても足が動かなかった。

まるで借り物の靴を履いているかのように、蓮はその場から動けない。

「俺‥マジ救い様がねーよ‥」



頭では分かっているのに踏み出せない。そして蓮は、そんな自分が何よりも嫌だった。

蓮はその後も、ずっとしくしくと泣き続けた。恵は何も言わず、ただ傍に居て彼の背を擦っていた。




涙が流れていた。

蓮はその瞳から。雪は心の中に。

曇天を見上げると、月の回りに雲が絡みつくように動いていた。

空に溶けた彼等の涙が、まるで揺蕩っているかのように。







やがて雪は聡美の家に到着し、彼女らは何事も無かったかのようにはしゃいだ。

太一もチキンとピザを持って合流し、三人は気の置けない仲間同士、楽しい時を過ごす。

 

布団にくるまりながら、三人は夜中まで写真を見たりお喋りをしたりして過ごした。

聡美も太一も、何があったのか詳しく聞いてきたりはしなかった。それがすごくありがたかった。



けれど友と笑い合う時間の中で、雪はその隙間にたまにふっと入り込んだ。

沈んだ光を帯びた瞳が、ふと時の隙間にうずもれる。

湿った空気が肩をしっとりと濡らし、



一寸先も見通せない霧の中で、私達は互いに身体をぶつけ合って彷徨っている。

 

あれから母は布団に入り、父は一人外を見ながら煙草を吸っていた。

窓から見える空は曇天で、ネオンが反射して鈍く光っている。

曖昧な感情は心の中でぼんやりと揺蕩い、それぞれの夜は更けて行く。


雪は静かな寝息を立てている友の横で、一人膝を抱えて座っていた。

疲れているのに目が冴えて、頭が痛いのに眠れなかった。

ある日突然救世主が現れて、手を差し伸べてくれる‥そんな期待したことない。



いつも一人が気楽だった。

窮屈さにも息苦しさにも、もう慣れっこだ。




雪は手に握った携帯電話に目を落としたが、やがて静かにその場に下ろした。

今会いたい人に自分から手を伸ばすことは、慣れていなくて出来なかった。

 

私は既にその術を、身に着けているから。

沈黙の中で、ただひたすらに耐えてやりすごすその術を‥




今まで両親から優等生を強いられ、それに反発して家を出たのに、

結局自分を落ち着かせるのは、その優等生の部分の自分だった。

飲み込んだ感情は胸中に充満し、空に広がる薄雲のように、心の中が曇って行く‥。





「えっ?!」



翌日大学にて、雪は事務室に呼び出され顔を青くしていた。目の前に居る事務員が、雪に通告する。

「もう来なくて良いですから」



雪は突然図書館のアルバイトをクビになった。

なぜかというと、図書館利用者匿名掲示板にて投書が来ていたからであった。



事務員が見せたそこには、「図書館バイトの女学生がすごくうるさい」という内容の苦情が書かれていた。

男子学生を連れて騒ぎを起こしたと、昨日の横山と河村氏の騒動のことが暗に記されており、

雪は返す言葉が見つからなかった。



「お気の毒ですが、クビは免れないでしょうね」と、

事務員は雪に向かってそっけなく言った。雪は弁解する余地も残されていない現状の前に、為す術もなく沈黙する。

 

事務室を出た雪は、呆然として廊下を歩いた。

先ほどの事務員が声色を変えて、おそらく彼女のボーイフレンドに電話している。

図書館バイトは苦情によって辞めたから、あなたが来て仕事すればいいよ、と。



事務員が雪にそっけなかったのはそこに理由があったようだが、もうそれも今となってはどうにもならないことだった。

雪は当てにしていた職が潰えたことに、ショックを隠し切れなかった。



授業が始まっても、雪は茫然自失といった体で固まっていた。事情を聞いた聡美と太一が、ヒソヒソと会話する。

「また魂抜けてるよ‥。もう呪いでもかかってんじゃないの?」

「カンパを集めてお祓いをしなければなりませン」



聡美と太一は、あまりにも続く雪の不運にドン引きだった。しかし多分それは運のせいだけではない。

意気消沈する雪の様子を見て、おそらく自分の希望通りになったことに満足した直美が、微かに笑っていた。



けれど雪がそれに気がつく訳が無く、雪はただ続く災難に顔を青くしていた。

自らを取り巻く運命が、音を立てて悪い方へ悪い方へと回って行く‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<心の涙>でした。

今回は泣けない雪と泣く蓮の対比が印象的でしたね。

度々出てくるマーブル模様の空は、雪の泣きたい気持ちを空に映した象徴の絵なんだと解釈しています。

次回もそれが出てくるので、ぜひそこにもご注目を!


そして、直美め‥


次回は<Everything's gonna be alright.>です。


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